精神科Q&A
【1946】不思議の国のアリス症候群?
Q: 26歳の女性です。私の幼い時からの症状についてご相談させていただきたく思います。
私の心理的な経歴を簡単ですが、記載させていただきます。
12歳の時に、拒食症となり、1ヶ月〜2ヶ月のうちに、52キロくらいから34キロくらいに落としたというものと、その後の過食症。
そして、23歳の時に、最終的にはまた拒食症になり、60キロ位から40キロで体脂肪3%まで落としてという状態を1年ちょっと心不安定な状態を繰り返していて、このダイエットを始めた頃には、一人暮らしや、学校の中退、親との不仲、失恋など、環境が変わるというものも上乗せされて、うつ病にもなりました。2度目の摂食障害の時というか、鬱がひどく、働くのが大変で、最終的には、心療内科を受診し、ルボックスを処方され、1年以上、カウンセリングと同時進行して経過観察してきました。
現在に至っては、鬱も、摂食障害も、まあどうにかこうにか・・・という状態であり、受診も内服もしていません。このような経歴はあるのですが、今回は、これとは少し違った事でご相談です。
もの心ついた頃くらいから?幼い時から、時々、自分がドールハウスの中に入ったような?又は、巨人なガリバーになったような感覚になり、空間の感覚がおかしくなることがよくありました。
幼い時は頻度も多かったですが、現在に至っては、そう頻度は多くありません。しかし、22歳の鬱や摂食障害の時は、その頻度は多かったと思います。そして、今現在も、時々重力感がなくなることがあり、自分が壁にいるような、天井にいるような感覚に襲われる時があります。どちらかというと、精神的に悩んでいたりするときに発症していると思います。ずっと、それって何なんだろう?と疑問に思ってきましたが、つい先日、医学大事典をパラパラとしていたら、「不思議の国のアリス症候群」という病名が目に入り、興味がてらに読んでみたら、自分のそのような症状を類似していて、とても驚きました。さらに、片頭痛と関係しているという記載もありましたが、私は頭痛持ちではありません。すると私のそのような症状は、一体なんなのでしょうか? 頭痛持ちではなくても、「不思議の国のアリス症候群」になるのでしょうか?
統合失調症ではないとは思いますが、境界型人格障害??
小さい時からある程度の年齢になったときまで、自分の中に、話相手?として、男の子がいたという記憶をある事件をきっかけに思い出しました。今は、その存在はなく、どこへいったのか、分かりませんが、ふと気がついた時に、頭の中で1人会話?みたくなっている時があり、我に返り、あれ??といったかんじです。
そのある事件とは、久しぶりに父親の虐待?暴力?を受けた際に、それを虐待?と認識したのはついこの前なのですが、幼い時は、愛してくれるからこそ、厳しすぎる教育なんだ。と思ってきました。
日常茶飯ではありませんが、切れると理性を失う父親だと思います。父親も実の父から幼少の頃、暴力を受けていたと言ったような話は聞いたことがあります。
その事件をきっかけに過去の色々なことが思い出され、繋がっていき、気がついた点などがありました。メール上ではなかなか、難しいとは思いますが、こんなことで、精神科などを受診するわけにはいかないので、メールしました。
ちなみに仕事は6年目の看護師です。一度辞めた学校に、今再チャレンジして学生しながら、夜勤アルバイトをしている状況です。
林:
幼い時から、時々、自分がドールハウスの中に入ったような?又は、巨人なガリバーになったような感覚になり、空間の感覚がおかしくなることがよくありました。
この症状は、質問者がお調べになった事典に書かれていたとおり、不思議の国のアリス症候群と呼ばれることがあります。あえて説明するまでもないかと思いますが、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のアリスが、自分の体が大きくなったり小さくなったりする体験をすることに由来する命名です。
不思議の国のアリス症候群と呼ばれる病態の中には、片頭痛と関係する場合もあります。その他、脳器質性疾患や、薬物中毒と関係する場合もあります。
しかしこの【1946】の質問者が体験してきたいわゆる不思議の国のアリス症候群は、それらとは無関係で、解離の一症状です。
解離は、【1901】からここまでに何度も出てきた症状ですが、本来は単一でまとまっている自我がそのまとまりを失うというのが本質です(これだけの描写ですと統合失調症と区別がつかないことになりますが、両者は全く異なります。その説明は大変複雑なので今回は省略します)。そのため自分の言動の記憶を失うという解離性健忘が代表的で最もよく見られる症状ですが、さらにはっきりとまとまりを失い自我が分裂すると、多重人格=解離性同一性障害になります。思い出すことが耐え難い記憶を埋葬してしまうのが解離性健忘、思い出すかわりに脇道に逸れていくのが解離性同一性障害というように理解することも可能でしょう。また、「何となく実感がない」などと自己表現される離人も、解離の一種として現れることがあります。【1926】、【1936】などがその例です。不思議の国のアリス症候群は、稀な症状ですが、この解離の一症状として見られることがあります。
また、この【1946】では、
小さい時からある程度の年齢になったときまで、自分の中に、話相手?として、男の子がいたという記憶をある事件をきっかけに思い出しました。今は、その存在はなく、どこへいったのか、分かりませんが、ふと気がついた時に、頭の中で1人会話?みたくなっている時があり、我に返り、あれ??といったかんじです。
という、明らかな解離があることも、質問者の不思議の国のアリス症候群が解離であるという判断を支持します。
なお、
そのある事件とは、久しぶりに父親の虐待?暴力?を受けた際に、それを虐待?と認識したのはついこの前なのですが、幼い時は、愛してくれるからこそ、厳しすぎる教育なんだ。と思ってきました。
この文章の「ある事件」とは何を指しているのか意味不明ですが、質問者が父親からの虐待に言及しているというところまではわかります。すると【1901】からここまでのケースと共通点がありますが、その虐待が事実かどうかが不明だというのもここまでのケースと共通です。
ただひとつ追加すべきことは、「幼い時は、愛してくれるからこそ、厳しすぎる教育なんだ。と思ってきました。」というように、幼少時には、自分が受けていた虐待を虐待と認識していなかったというケースはしばしばあるということです。性的虐待では、自分は愛されているからこそこういう行為をされるのだと当時は信じていたというケースも例外ではありません。
◇ ◇ ◇
【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。
(2011.1.5.)