精神科Q&A
【1923】妻が境界性パーソナリティ障害のようなのですが、子どものころの父親からの暴力のせいなのでしょうか
Q: 私は30代前半会社員です。妻の今までの行動や現在私の置かれている状況が境界性パーソナリティ障害に一致しているように思われてなりません。あるいはただ極端な性格という範疇のものなのでしょうか。また成長過程で獲得される人格障害なのでしょうか。程度は緩和されるのでしょうか。
彼女との出会いは20代半ば、私が入社したときです。専門職で入社したのですが当時の会社方針で他職種を経験させるという名目で2年ほど違う職場に配置されておりました。
職場関連で知り合い、当時彼女がおつきあいしていた彼について相談を受けました。その彼は社会的な弱者であり(歴史的な問題)いろいろ助けてあげていたがもう限界であり別れたいがしつこくて困っている、毎晩執拗に電話がかかって来たりで助けてほしいというような内容でした。(後に事実は彼女の話した印象とはかなり異なっていたようだということがわかってきました)
その後なんとなく付き合うというような感じになってきてすぐに次のような違和感を持つようになりました。
@毎日部屋に来いと言い出し、物理的には可能な距離ですが私も来るべき本職復帰までの充電期間でやることもあるから無理であると伝えると激しく怒り狂い行くまで収まらない。
A私の携帯電話の登録されている女性の番号を私の知らないうちに消去し番号を控える。私のPCのメールを見て名前を控える。そしてその名前あるいは電話番号を業務上の顧客端末から検索しどのような人間かを調べる。
B会社の飲み会の世紀などに出席しているとひっきりなしに電話をかけきて怒鳴り散らす。
C残業などで部屋に帰ってないときなど1時間中電話をかけつづける。
D友人の結婚式当日にも暴れまわって結局行けなかった。
E自分のためにお金を使うことを要求し(ブランド品)聞き入れられないと怒り狂う。
などとにかく自分の気に入らないことがあると怒り狂い(言葉使いもかわります)暴力をふるい、包丁を持って夜に追いかけられたこともあり、私の印象では感情のコントロールができない、不安定な激しい性格という印象でした。私自身もういいかげんにしてくれというと、会社の寮の前で大騒ぎしてやるとか、会社に行けなくしてやるとかとにかく日常生活以上に会社生活もびくびくしながらで交友関係もできなくなってしまいました。
その後他職種経験の期間を終え本来の業務につき職場も本社にかえり物理的に距離が開くと厳しい態度で接することができるようになり彼女の症状も収まり反省しているということ、実のお兄さんが病気になりその介護のため実家を売って、お父さんも仕事を退職し遠方のお兄さんのところへ看病に行くことになったというので、その機会に結婚をしました。
私も馬鹿でしたが何らかの助けになりたいと思いました。病気の件は本当でしたが、家を売ったこと退職の件は事実ではないことを後で知りました。
結婚当初からトラブルの連続で信じられない罵声を浴びたり、携帯電話の通話履歴を知らない間に印刷していたりと束縛のような行動が多く、暴力も何度言っても止まらず警察にいきかけたこともあります。当然私の実家に対しては電話にも出ません(実家から聞くまでは知りませんでした)。
また私にお金を渡すことを異常に制限します。私は経済的にはかなり恵まれた仕事についておりますがそのような状況では他者との付き合いもできなくなり交友関係は再び無くなりました。さしてそのことが仕事に影響するような仕事でもないので自分さえ他者の評価を気にしなければよいのですが。
女性関係のコメントなど決してできません。他の女性については悪口のみが許容されます。
しかし私が屈しているとどんどん自分に都合のいいことのみを要求し出し、まれに反論すると話し合いにならず、爆発します。その怒り方、内容は昔ほどではないにせよやはり私かは常軌を逸していると思ってしまいあまりの影響力の大きさに屈しているほうが楽と思うようになりました。会社に知られること無く表面を取り繕うことがきついと感じることもままあり、いつかとんでもないことになるのではという不安はあります。
彼女の実家は父親派サラリーマンとしてはきちんと仕事をしており、経済的にも恵まれていたほうですが長いこと(20年近く)外に女性を作っていたようであり、かなり不安定な家庭であったようです。父親の暴力、子供の前での両親の殴り合い、大喧嘩をずっと見てきて育ったようです。そのような環境だったからこそ暴力が止まらないのでしょうか?そのような中での成長が人格形成に影響を与えたといえるのでしょうか? 暴力を受けて育った子が暴力を振るうようにそのような中で育った人間は結局同じことを繰り返してしまうものなのでしょうか?
見た目には非常に身奇麗にしており、誰も彼女がそのような面があると気がつかないでしょう。親ですらわかってないような気がします。
彼女は激しい性格というだけなのでしょうか? そうでないとしたら、治療は効果的なのでしょうか?
林:
妻の今までの行動や現在私の置かれている状況が境界性パーソナリティ障害に一致しているように思われてなりません。
その通りだと思います。
父親の暴力、子供の前での両親の殴り合い、大喧嘩をずっと見てきて育ったようです。そのような環境だったからこそ暴力が止まらないのでしょうか?そのような中での成長が人格形成に影響を与えたといえるのでしょうか?
このご質問に関しては、その前に、この「父親の暴力」が事実であったかどうかが問題です。すなわち、
その彼は社会的な弱者であり(歴史的な問題)いろいろ助けてあげていたがもう限界であり別れたいがしつこくて困っている、毎晩執拗に電話がかかって来たりで助けてほしいというような内容でした。(後に事実は彼女の話した印象とはかなり異なっていたようだということがわかってきました)家を売ったこと退職の件は事実ではないことを後で知りました。
境界性パーソナリティ障害の中でも、このように虚言の傾向が明らかな人では特に、幼少時のことについても虚言である可能性を考える必要があります。
暴力を受けて育った子が暴力を振るうようにそのような中で育った人間は結局同じことを繰り返してしまうものなのでしょうか?
事実かどうかわからないことを根拠に、そのように推定を発展させることは、重大な誤りにつながるおそれがあります。
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【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。
この【1923】は虚言の傾向が著しいケースです。
境界性パーソナリティ障害の人のすべてに虚言の傾向が著しいわけではありませんが、この【1923】のようなケースでは、幼少時に受けた父親からの暴力についても、虚言か、あるいは虚言まではいかなくても著しい誇張である可能性は強いと言わざるを得ないでしょう。
なお、いま「境界性パーソナリティ障害の人のすべてに虚言の傾向が著しいわけではありません」と言いましたが、虚言とは、事実が明らかになってはじめて虚言であるとわかることですので、虚言でないと周囲が信じていることが、実は虚言であるという可能性も常に否定できません。
以上、【1901】から【1923】まで、幼少時の虐待などの体験と、大人になってからの精神状態(特に境界性パーソナリティ障害、摂食障害、解離など)との関係と、その判断をめぐる問題をご紹介してきました。問題の中心の一つは、本人の語る虐待とは、実際にはどの程度のものであったか、さらにはそもそもそれが事実であったかどうかということでした。
次の【1924】以下は、虐待など、幼少時の「記憶」について、さらに一歩進んだ問題に触れていきます。
(2011.1.5.)