精神科Q&A
【1920】私の中に10人以上は人格がいます。過去に虐待の経験があります。
Q: 40代女性です。私は今、精神科にかかっています。そこではうつ病の治療だけしかしていません。しかし、私の本当の病名は「解離性同一性障害」です。わかっているだけで、私の中に10人以上は人格がいます。私の知らない時にそれで入院経験があります。それでも、治療は困難だったらしいです。
私には過去に、虐待の経験があります。祖母からの肉体的な虐待。父からの言葉の虐待。母のネグレクト。守ってくれる人は祖父だけでしたが、祖父が私を守れば、祖母が祖父を攻撃していました。一番上の兄は人格破たんしました。私は、別人格を作ることで自分を守って来ました。私の人格は主人から聞いただけで、酒を飲む人格(私は全く飲めません)リストカットする人格、首を絞める人格、人を攻撃する人格、家出する人格、7歳の時のままの人格、お菓子を隠れて食べる人格、「ごめんなさい」と泣きじゃくる人格、おびえて何も言えない人格、皮肉屋の人格、明るくハイテンションの人格、セックス依存人格、買い物依存の人格、薬を多飲する人格、その位でしょうか? それらの人格が出ているときは私は全く記憶がありません。凄く困っています。私自身、今は脳梗塞で身体障害者で、半身不随なのに、みんな私が元気だったときの人格で、私と違って半身不随じゃありません。そこもとても不思議です。今の精神科医は、ソラナックス、トレドミン、サイレース、レスリンしか処方してくれず、話も今はどうですか?眠れてますか?くらいです。カウンセラーは、障害で辛いでしょう?人の目を気にしないでください。としかいいません。人格の事、以前聞きました。統合がいいのか、そのままにした方がいいのか。そしたら、今は、日本では症例が少なすぎます。治療方針が決まりません。と、言われただけで、その後も人格が現れるのをビクビクしながら生活しています。このまま今の治療をしていていいのでしょうか?
林: 幼少時に受けていた虐待と、現在の解離性同一性障害は関連する可能性があります。
私は、別人格を作ることで自分を守って来ました。
そのように解釈することも可能です。というより、「自分を守るために別人格を作る」というのは、解離性同一性障害の成因についてのかなり有力な仮説です。が、「仮説」ということは、「定説」ではなく、まだまだ不明な点も多いということです。
仮説であることを前提としたうえで、その仮説にしたがって話を続けますと、
私自身、今は脳梗塞で身体障害者で、半身不随なのに、みんな私が元気だったときの人格で、私と違って半身不随じゃありません。
これも、体に麻痺があるという、受け入れたくない事実から目をそらすという意味で、「自分を守るために別人格を作る」という共通点があると見ることができます。
このまま今の治療をしていていいのでしょうか?
それは何ともいえません。
治療方針が決まりません。と、言われた
もしそれが事実だとすれば、このままの治療では回復が期待できないという推測も可能です。
が、解離性同一性障害の専門家はそうどこにでもいるわけではありません。【1919】の回答もご参照ください。
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【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。
幼少時の虐待と、大人になってからの精神状態。それらを単に統計的事実として結びつけるのではなく、意味的な関連を見出そうとする試みも当然精神医学にはあります。というより、過去の精神医学においては、統計はあまり重視せず、一つ一つのケースをよく観察し、意味的関連を見出し、そしてさらにはそれで結論を下すという方法が全盛でした。フロイトの方法論はその代表です。
その後、一つ一つのケースだけからの結論は科学性に欠けるという批判が強くなり、統計的に実証するという方法論が優勢になってきました。
しかし実証といっても、臨床においては色々な問題点があり(その一つは【1919】の回答にもあります)、統計で数値で示せば客観的な信頼性があると単純に言うことは出来ません。
結局のところ、一つ一つのケースの綿密な観察と、統計的な事実、その両方をあわせての判断が、精神疾患の成因の探究には必須ということになります。
幼少時の虐待と、大人になってからの精神状態についての有力な説はいくつもあります。その一つがこの【1920】のように、「解離性同一性障害 = 多重人格 は、虐待などのトラウマから自分を守るため」という説です。その他、【1903】で解説したように、性的虐待への嫌悪感から、女性として成熟することを拒否し、それが「太りたくない」つまり「女性らしい体になりたくない」という拒食症につながるという説もあります。
(2011.1.5.)