精神科Q&A

【1813】薬をやめて妄想が再発した母に、また治療を受けさせたいのですが


Q: 私(三女 30歳)の母(60代)は20数年前より統合失調症で。何度か入退院を繰り返し、現在は内服コントロールで自宅での日常生活がほとんど問題なくできるくらいの状態です。

発症当初は私もまだ小学生でしたが、小学生にもわかるほどの尋常でない被害妄想・誇大妄想、幻聴・破壊衝動などを起こしていました。

最後の入院(10年ほど前)を終えてから、母が主治医の先生に、落ち着いたから内服を止めたい、と懇願したところ、なぜか主治医の先生が、「症状もおさまってきたから内服をやめてもいいでしょう」とおっしゃたらしく、そのころに内服を止めてしまいました。

しかし、当然のこと、一年ほどで症状は再発・・・というか、悪化し、妄想・幻聴が強くなってきたため、あわてて主治医に相談したところ、内服の再開を言い渡されました。
しかし、時は遅く、何度説得しても受診・内服を拒否するため、途方にくれ、再度主治医に相談したところ、本人の受診がないと薬の処方はできないのが原則ですが、特例で、家族の診察だけで薬を処方するので、投薬を試みてくださいという見解をもらいました。

それから約10年間、私と父がセレネースの水薬を2ミリグラム 分2でお茶や食事に内緒で投薬を続けてきました。
その内服だけで、妄想や幻聴は常にあるものの、日常生活は他人に迷惑をかけることない程度で穏やかに送れることができていました。

しかし、 
その精神病院の方針が変わり、本人の受診がない限り、一切薬を処方しないこととなり、またもや暗雲を感じ、主治医に相談したところ、たまたま糖尿病でかかっていた医院にセレネースを出してもらえるように取り計らってもらうことになりました。

糖尿病自体を「させられてる」、つまり誰かによって何らかの方法で糖尿病に罹患させられていると被害妄想的に信じている母に、うまく薬を増やすことは至難の業ですので、あらかじめ薬剤部や糖尿病の主治医に事の説明を行い、対応方法を説明させてもらい、言うならば、皆で口裏を合わせてもらえるように取り計らいました。

しかし、やはり内科医は精神科医のようにうまくはやってくれないですね・・・まったくうまく演じてもらえず、初日から「鬱の薬です」と宣言され、疑う母に「私は内科ですので糖尿病の薬しか出せません、鬱の薬を出しているのはあなたのご主人です。」と言われました。
その結果、母は全く薬を飲もうとせず、糖尿病すら受け入れなくなりつつあり、一人で笑う、幻聴、などが少しずつ増え始めています。

また、何らかの手段でセレネースの水薬を処方してもらえれば、症状を持ちながらも生活を送ることができるので、そうしたいのですが、そのような方法をとるのは良くないことでしょうか? 
自覚がないながらも、しっかり精神科を受診させ、内服できないなら入院したほうがいいのでしょうか?

父のことを母は「敵」の時もあれば「組織のことを知っている橋渡し役」と思っています。 
私のことは「役に立たない娘」くらいの存在です。
どうか、アドバイスをいただきたくよろしくお願いいたします。



林:
最後の入院(10年ほど前)を終えてから、母が主治医の先生に、落ち着いたから内服を止めたい、と懇願したところ、なぜか主治医の先生が、「症状もおさまってきたから内服をやめてもいいでしょう」とおっしゃたらしく、そのころに内服を止めてしまいました。

質問者がご指摘の通り、その結果は当然の再発でした。
ではこのとき、なぜ主治医は薬をやめることを許可したのか。考えられるのは、

a 主治医の見解が甘かった
b 主治医は薬をやめることを認めていなかったが、お母様は「主治医がやめていいと言った」と嘘をついた
c 主治医は薬をやめることを認めていなかったが、薬をやめたいというお母様の希望に対し、真っ向から否定したら通院そのものまでやめかねないと判断し、ソフトな答えをした(たとえば、「いつかはやめられると思うが、もうしばらくはやめないほうがいい」など)。お母様はその言葉を、今やめてもいいと解釈した。

お母様の主治医が精神科医であれば、aはあまり考えられません。bかcが、とても多い例です。
この精神科Q&Aでは、「薬はやめてはいけません」「それは妄想です」「息子さんは統合失調症です」など、事実を直裁に回答しています。けれども実際の臨床ではそう単純にはいきません。直裁な回答は、本人を絶望させたり、絶望させないまでも不信感を持たせて治療の中断につながるおそれがあるからです。そのため実際の臨床では、ケースに応じて、ソフトな説明をするのが常です。それは現実には適切な方法ではありますが、逆に事実から目をそらさせ、願望のほうを信じ、結果としては自分や家族の病気についての誤った判断や、病気一般についての誤った知識を生み、増殖させるおそれがあります。いま目の前にいる患者を救うためにはそれもやむを得ないことも多いのですが、長期的には致命的な混乱を招くことは否めません。するとネットは病気についての事実を伝えられる唯一の場所かもしれない。精神科Q&Aで、それがたとえ絶望につながるものであっても事実を回答している理由の一つはここにあります。

【1813】の質問に戻ります。

また、何らかの手段でセレネースの水薬を処方してもらえれば、症状を持ちながらも生活を送ることができるので、そうしたいのですが、そのような方法をとるのは良くないことでしょうか? 

それは「非告知投薬」と呼ばれる方で、当然ながら議論の多いものです。良いか悪いかの二者択一で問われれば、答えは「悪い」に決まっています。ではこのケースではどうするか。精神科Q&Aの統合失調症の実例、中でも特に今回(2010.10.5.)の実例(【1805】から【1870】)、統合失調症の本などをお読みになったうえで、ご自分で判断してください。

自覚がないながらも、しっかり精神科を受診させ、内服できないなら入院したほうがいいのでしょうか?

それがいいと思います。

 

今回の更新(2010.10.5.)について

(2010.10.5.)


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