精神科Q&A
【1811】統合失調症で措置入院になった弟との今後の関わりについて
Q: 30代の弟は6年前に離婚を経験し単身でアパート生活をしていましたが、うつ病に罹患し、その後、医師の診断により統合失調症で入院しました。入院後1.5ヶ月ほどで平静を取り戻し、弟の強い意思もあったので病院から退院させました。
退院後は引き続き同病院に通院し薬も服用しながら就職活動をしていましたが、面接先で呂律が回らなかったり、一旦採用されても「動作がとろい」などの不評で短期間で解雇されてしまうことが多々続いた為、生活も困窮し、弟自身で生活保護給付制度を活用するなどして生活をしのいでいました。
そのうち自分が駄目なのは薬を服用しているせいだと結論するようになり通院も服薬も止めてしまいました。
その時は家族の目にも以前より情緒が安定しているように見え、生活にも意欲が感じられ、新たな就職先も見つかり、長年趣味にしてきたサーフィンを再開したり、インターネット上で自分のブログも開設して「自分と同じような苦しみを経験している人を励ましたい」などと言ったりして、楽しそうに生活している弟に家族も安心していました。
それから2年程たった頃、突然弟が俳優になると言い出し、家族の意見にも耳を貸さず、やっと就職できた仕事も辞めてしまいました。その頃から「俺、誰かに見張られてマークされてるんだ。」「国家が俺に圧力をかけてきているんだ。」と言う電話を家族の元に頻繁にしてくるようになり、突然、我家へ家財を持ち込みそのまま弟と同居することになりました。それから一年半の同居の間、弟は仕事に就こうとはせず、両親を脅して多額の資金を出させながら、幾つかの芸能プロダクションを転々としながら登録先が派遣するエキストラ役を経験したり、俳優養成レッスンに通たりし、芸能活動の無い時は自宅でテレビゲーム、読書、昼寝、散歩、など自己中心的な生活ぶりが続いていました。たまりかねた父親が問い正すと、高齢の父に暴力を振るい骨折を負わせたり、椅子を振り回して床に叩きつけて室内を壊したりと異常な癇癪を起こし、家族では収拾ができず警察に通報する事態が3度ほど有りました。
そんな状態を繰り返している内に突然事件が起こりました。我家の地域に駐車してある高級外車のフロントガラスを割った為、器物破損で逮捕され20日勾留され措置入院となりました。入院初日は保護室で弟の怒涛と抑制を嫌がり乱闘する弟の様子に耳をふさぎたくなりましたが、とにかく6年ぶりに点滴による投薬を再開しました。入院から20日が経ち、主治医から面会が許可されました。顔の表情は落ち着いていましたが、弟はいまだに統合失調症の病識がもてずにいて、「自分は単なる不眠症だ」と言い張り、妄想的な発言を繰り返して言うばかりで主治医との会話がつねに平行線になっているようです。弟が繰り返す話とは「自分のことは、婚約者のカナダ人(特定の女性の名前)が身元保証人となっています。僕に関することはカナダ大使館に問い合わせてください。それ以上のことは一切お話できません。」と言う内容で、妙に確信がこもっています。この繰り返しの発言は逮捕勾留中から入院中の現在でも変わっていないようです。措置入院は期限付きのもので、あと1・2ヶ月もすれば退院させられてしまうようです。
先生へのご相談は統合失調症として病識の持てない弟と今後どのように関わっていけばいいのか、現在のような状態でも改善する見込みが持てるようになるのか、お察しいただける範囲で構いませんのでご意見をいただけたら幸いです。
林: 統合失調症の症状がよくなり、そのまま服薬・通院を続ければ、その後も安定した人生が送れた見込みが高いのにもかかわらず、
そのうち自分が駄目なのは薬を服用しているせいだと結論するようになり通院も服薬も止めてしまいました。
このような自己判断で治療を中断してしまうことは、残念ながら少なくありません。
こういう時こそご家族のサポートが必要なのですが、この【1811】では
その時は家族の目にも以前より情緒が安定しているように見え、・・・・楽しそうに生活している弟に家族も安心していました。
このようなご家族の無知と、根拠のない安心が、再発を招いたのは否定できない事実です。
そしてこれは、統合失調症についての正しい知識があれば十分に予想された事態です。
統合失調症の治療を中断すれば、いったんはそれでも問題ないように見えても、そのうちに再発し、時には初回以上に重大な症状になることも稀ではありませんので、「薬をやめたところ、一見すると良いのように見えるので、そのまま様子を見る」ことの危険性は、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のp.124などにも強調してあります。
この【1811】のケース、薬の中断が重大な結果を招くことの実例となってしまっています。措置入院させられ、強制的な治療を受けている様子の描写は、ご本人とご家族の身を切られるような苦しみが読み取れるものです。
治療の甲斐あって、今はある程度までは改善しているようですが、妄想の確信は強く、今後の経過は平坦な道のりとはいえないでしょう。
なお、
措置入院は期限付きのもので、あと1・2ヶ月もすれば退院させられてしまうようです。
とありますが、措置入院には、法律上、期限はありませんので、そういうことはないはずです。また、措置入院から医療保護入院など他の入院形式に変更する場合も、法律上は「退院」という言葉を使います。
先生へのご相談は統合失調症として病識の持てない弟と今後どのように関わっていけばいいのか、
まず絶対条件は、今後は決して薬をやめないことです。話はそこからです。
現在のような状態でも改善する見込みが持てるようになるのか、
もちろん見込みはあります。但し、一回目の入院後と比べれば、治療ははるかに難航するという覚悟が必要です。
以下は、さらに厳しい事実の指摘です。
(2010.10.5.)