精神科Q&A
【1783】30代になってから精神発達遅滞と診断された弟
Q: 現在30代の弟は中学３年生から家庭内暴力がはじまり、高校に進学するも、途中で休学してバイクの免許を取得してアルバイトをしたりしていて、その後復学をして専門学校に入校。しかし、半年くらいで退学をしてからずっと定職に就くことはなくその頃から不眠を訴えて、メンタルクリニックに約８年間通院しました。
その時の病名は不眠症とうつ状態ということで、家庭内暴力について主治医に相談しても、これといった返答がえられないまままた、検査等もなく、弟が絶対に病院は変えないという強い希望があったので本人に任せていました。
ところが数年前に両親が亡くなり、アパートで１人暮らしを余儀なくされた弟に今までの主治医から金銭的なことも考え、自宅近くの病院に転院することを勧められて素直にそれに応じて約４年になります。
ところが転院先の病院でいろいろ検査をしたところ、精神発達遅滞ということがわかり今まで普通に生活をしてきた弟をみる限り、ちょっと理解できずにいましたが、今は初診時よりもだんだんＩＱの数値が下がってきていてまた本人の様子もみるからにおかしいと判断できるので、疑問に感じながらも納得させられているような毎日です。
今の主治医からは弟の出生時に何か問題があったのでは？との話がありましたが、そんなことは母からは聞いてはいませんでしたし、私も長年一緒に生活をしてきて特別におかしいと思ったことはありませんでした（家庭内暴力は異常でしたが）。
先生に伺いたいのは、精神発達遅滞とはもともと弟がもっていたもので今になって発見されたものなのでしょうか。それとも両親がいなくなったことやいろいろなことが引き金になってだんだんおこってきたものなのでしょうか。精神科受診に関しては私が弟の相談にのっていたので、今どんどん悪くなっていく状態をみてどうしても自分を責めてしまい苦しいです。両親がいない今は、私が弟の保護者的存在です。
この先の弟の行き先について、精神薄弱者施設入所やいろいろな話がでています。私の所への受け入れは事情によりどうしても困難なので、病気のことをちゃんと受け入れ、これからのことを考えるためにもお答えいただければありがたいと思います。お忙しいところを恐縮ですが、どうか宜しくお願いします。
林: 精神発達遅滞 (現代では「知的障害」と呼ぶのが一般的です) は、知能が正常に発達しないことを指します。いったん発達した知能が低下した場合は認知症 (痴呆) です。精神発達遅滞とは異なります。
この【1783】は、中学頃までの知能がどの程度であったかが不明ですので判断は困難ですが、質問文からは、ある年齢に達してから知能が低下し始めたと読み取れますので、精神発達遅滞でないことは確かです。したがって誤診か、質問文が不正確かのどちらかです。
ですから質問文そのものに矛盾があるのですが、それでも回答を試みるとすれば、
精神発達遅滞とはもともと弟がもっていたもので今になって発見されたものなのでしょうか。
「もともと弟がもっていた」のであれば、これまでの学校の成績などにそれが表れているはずです。もし小中学校の成績がそれほど悪くなけければ (このあたりの判定は本当は微妙なのですが) 、精神発達遅滞ということはあり得ません。
それとも両親がいなくなったことやいろいろなことが引き金になってだんだんおこってきたものなのでしょうか。
精神発達遅滞がそのような原因で起こることはあり得ません。
弟さんについて今すぐにすべきことは、診断の確認です。いったん発達した知能が低下するのは、病気の定義からいえば認知症ですが、これだけ若い年齢での認知症はきわめて稀です。認知症は不可逆性、つまり、悪化することはあっても回復しないことが定義に含まれていますが、知能の低下する病気の中には、原因をつきとめて治療すれば回復、ないしは進行を止められるものもありますので、一日も早く診断を確定することが必須です。
精神科受診に関しては私が弟の相談にのっていたので、今どんどん悪くなっていく状態をみてどうしても自分を責めてしまい苦しいです。
「どんどん悪くなっていく」のがどの程度「どんどん」なのか、その悪化は本当に知能の低下なのか、という問題がありますが、「悪くなっていく」という一点をとってみても、これは精神発達遅滞ではないといえます。
この先の弟の行き先について、精神薄弱者施設入所やいろいろな話がでています。
その前に診断を確定しなければなりません。このまま診断や治療をすることなく施設入所という手段を取れば、後で診断がわかった時に深く後悔することになりかねません。