精神科Q&A
【1757】14歳の娘がてんかんと診断されましたが、他の病気もあるのではと思えてなりません
Q: 14歳の娘のことでご相談します。11歳の頃からリストカットをするようになりました。とても感受性の強い子なのですが、9歳のときに親が離婚したことや、私と母一人子一人の生活にプレッシャーを感じての結果だろうと思って、12歳からカウンセリングを受けております。外国に住んでおりますので、カウンセリングは割と一般的で気持ちを吐き出す場所になれば、と軽く始めました。
その後、13歳になったばかり頃、学校の旅行先の遊園地で友達と歩いているとき、てんかん発作が起きました。目の焦点が合わなくなり泡を吹いて意識を失い(10分程度だったそうです)救急で運ばれ、MRIを含めて検査されましたが何も異常は見つかりませんでした。その後、地元の病院で2度、脳波検査をしたところ、2度目に異常が見つかりました。再度MRIをやった結果、MRIは異常ありませんでした。大発作で倒れるようなことはその後ありません。しかし、その大発作の4ヶ月後から、閉所恐怖症、地下鉄やエレベーターでパニックになるようになり、そのあと、大きいパニックが、何の前触れもなく、学校で体操服に着替えているときだったり、という時で2回ありました。その時の発作は視覚の異常、というかドアや机や壁が曲がって見えたり、たくさんの人が後をついて来て彼女を見ている、人が自動販売機の後ろに隠れている、私がその人たちに頼んだのか、と言い出し、熱もあり、救急病院で「ジアゼパム」を処方されました。その時は2,3時間後にはすっかり幻覚もなくなり正常に戻りました。この「人が後をついて来る」、というのはてんかん発作のすぐあとからあり、今でもあります。以前は人が見ている、と自分の部屋で眠りませんでしたが、今年5月に引越した後は、自分の部屋で寝るようになりました。が、依然と人の気配は感じるそうです。興奮すると、喋る速度が速くなりテープレコーダーを早回ししたように喋ることもあります。余談ですが言葉については11歳の頃から、言葉を瞬時にさかさまから言う事ができ、それで会話もします。コーヒーを飲むと頭の中が「きつく」なり、パニックになりそうになります。 ただ その後、気分の浮き沈みが激しすぎる問題が出てくるようになりました。以前から双極性障害ではないか、と自分で言ってはいたのですが、この頃はそれが以前にもましてはっきりと、そう状態、とうつ状態が交互に現れるようになりました。ハイになる時は120歳まで生きたい、とか、人生設計、たとえば何歳までに何をする、というのが頭にあり、それを達成するための前向きすぎるほど意力があります。そのあと「ロー」が来るのが予期できるようで、その落ち込んだときは、その人生設計に添えない自分の症状を嘆いて泣き出します。この落ち込んだときに、手が震えたりパニックになり、学校を休むこともあります。この症状はこの3,4ヶ月、目だって来たものなのですが、ちょうどその時期、リストカットを止めたのでそれと関係あるのではないか、とも思うのですが。 精神病医、サイコセラピスト、小児科医の最近下された見解では病名はほぼ「てんかん」です。ものすごく慎重で時間がかかりました。もう一度脳波を測り、てんかんの薬を飲んでいく方向にあります。ただ、お聞きしたい私の不安な点は、娘がてんかんだけはなく、他のものも合併しているのではないかと思えて仕方ないのです。気分の抑揚が思春期にもの、という程度には思えないからです。それともてんかんの症状に含まれるのでしょか? どこかで「視覚に異常があるてんかんは悪くなっていく」、ということを読んだのですが..。 今回、日本語で相談できるこのようなサイトを見つけられて、本当にラッキーでした。林先生の見解をお聞かせ頂けると助かります。よろしくお願いします。
林: てんかんは、たとえば【1537】(【1758】)のように、診断が容易なケースもたくさんある一方、非常に難しいケースもたくさんあります。この【1757】は非常に難しいケースにあたると思います。その理由は、第一に、てんかん発作の存在が確認できないことです。メールには
目の焦点が合わなくなり泡を吹いて意識を失い(10分程度だったそうです)
さらには
地元の病院で2度、脳波を計りましたが、2度目に異常が見つかりました。
と記されており、この二つを単純に結びつければ、てんかんにほぼ間違いないという診断になります。けれども、上記の「目の焦点が合わなくなり泡を吹いて意識を失い」は、「(10分程度だったそうです)」と書かれていることからわかるように、質問者が直接観察したわけではないので、本当にここに書かれている通りの発作であったかどうかがはっきりしません。また、「脳波・・・異常が見つかりました」だけの情報では、それがてんかん性の異常所見かどうかわかりませんので、本来ならその脳波所見を見せていただかなければ何ともいえません。つまり、この「発作」が臨床的にてんかんの発作といえるかどうかがはっきりせず、そしてこの「脳波異常」がてんかん性の所見かどうかが不明なので、これらだけではてんかんと診断するのは躊躇されるということです。
加えてこの【1757】の方は、
11歳の頃からリストカットをするようになりました。とても感受性の強い子なのですが、9歳のときに親が離婚したことや、・・・外国に住んでおります
などの背景もあることから、心因性の発作の可能性も考慮する必要があるといえ、そうしますとてんかんの診断はさらに慎重を要することになります。
そしてその後は大発作は見られていないようですので、問題はその後の症状をてんかん性といえるかどうかです。その後の症状とは、
大きいパニックが、何の前触れもなく、学校で体操服に着替えているときだったり、という時で2回ありました。その時の発作は視覚の異常、というかドアや机や壁が曲がって見えたり、たくさんの人が後をついて来て彼女を見ている、人が自動販売機の後ろに隠れている、私がその人たちに頼んだのか、と言い出し、熱もあり、
この症状ですが、これはてんかん発作の可能性は十分にあります。
てんかん発作とは、脳細胞の一部の電気的活動が発作的に高まることによって起きるものですから、脳の中のどの部分の細胞がそのような状態になるかによって、様々な症状が起こりえます。そして、その発作的な高まりが脳全体に広がると全身けいれんという形の大発作になります。上に書かれている症状は、発作的に脳細胞の一部の電気的活動が高まったものとして理解できるものです。また、「熱もあり」については、具体的にどの程度の熱であったかが不明ですが、微熱程度であれば発作時に出ることは十分にあり得ることです。
さらに
この「人が後をついて来る」、というのはてんかん発作のすぐあとからあり、今でもあります。以前は人が見ている、と自分の部屋で眠りませんでしたが、今年5月に引越した後は、自分の部屋で寝るようになりました。が、依然と人の気配は感じるそうです。
このように書かれていますが、この書き方からは、発作的ではなく、常に「人が後をついて来る」「人の気配を感じる」という症状があるというふうに読めますので、だとすると上の発作的な症状とはニュアンスが異なるものです。けれどもこれらもてんかんに伴う症状(てんかん性精神病と呼ばれることもあります)として矛盾はなく、大発作の後から始まったということをあわせると、これらすべてをてんかんによるものと判断するのが最も妥当でしょう。
その他、躁うつ病を思わせる気分の変動も見られることなどから、
娘がてんかんだけはなく、他のものも合併しているのではないかと思えて仕方ないのです。
というふうにお考えになるのは理解できるところです。
しかしこれらすべてをてんかんの症状として説明するのは十分に可能で、しかしそうはいってもてんかんとして典型的とはいえませんので、確定診断には慎重の上にも慎重を要するケースといえます。その意味で
精神病医、サイコセラピスト、小児科医の最近下された見解では病名はほぼ「てんかん」です。ものすごく慎重で時間がかかりました。
これはうなずけるところで、逆にいえば、てんかんの可能性を疑った医師が、時間をかけて慎重に検討し、最終的にてんかんという診断に至ったのであれば(そこに至るまでには、このメールに書かれていない様々な症状や所見の検討がなされたはずです)、やはりてんかんという診断が、少なくとも現時点では最も妥当であるといえます。したがって、
もう一度脳波を測り、てんかんの薬を飲んでいく方向にあります。
この方針は最も適切です。てんかんの薬によって症状がどう影響されるかを見ることが、診断を確定することにもつながります。
なお、
どこかで「視覚に異常があるてんかんは悪くなっていく」、ということを読んだのですが..。
それはでたらめです。
「どこかで読んだ情報」を思い出していちいち心配するのは馬鹿げています。