精神科Q&A
【1737】脳腫瘍手術後の父が、「高次脳機能障害による認知障害」と診断されました
Q: 70代の父は1年前に頭蓋咽頭腫の摘出手術を受け、その半年後に残存した腫瘍が再燃して2度目の手術を受け、腫瘍は全摘との主治医の説明でした。 さらに3ヶ月後に水頭症を発症し、LーPシャント手術を受けて退院しました。 地方から私の住んでいる街の大きな総合病院で手術を受けたので、ほぼ1年間を自宅以外の場所で過ごしたことになります。
退院時の主治医の説明では、脳の委縮もなく知能テストなどの結果を総合して、認知症ではなく「高次脳機能障害による認知障害」ということでした。体の麻痺などの後遺症はないのですが、視神経が伸びてしまって視力低下と視野狭窄が両目にあります。 地元に戻りデイサービスに通っていますが、本人に病識もなく見当識障害も激しく長年住み慣れた自宅を自宅だと思えずにいます。 地元に戻ってから、せん妄や妄想も激しく脳外科で「抑肝散」を処方され少し落ち着いてきたのですが、最近いちだんと記憶混乱がひどくなってきました。高次脳機能障害の認知治療は、神経科のほうが専門になるのでしょうか? 脳外科の先生は時間がまだまだかかるとおっしゃいますが、介護している母も72歳と高齢であるため、私には情報を提供するぐらいしかできずにいます。
林: 頭蓋咽頭腫は脳底(脳の下側)の中心部に発生する脳腫瘍です。そこには重要な神経や血管がたくさんあるため、脳外科の手術の中では特に難しいものの一つです。この【1737】のケースでは、
視力低下と視野狭窄が両目にあります。
とのことですが、このような視神経にかかわる後遺症は頭蓋咽頭腫の手術ではよくあることで、避けられないと考えてもいいでしょう。
けれども、術後一年もたって、「長年住み慣れた自宅を自宅と思えない」という見当識障害が残っているというのは典型的とはいえず、腫瘍がどこまで発達していて、手術の結果、脳のどの部位をどのように切除したのか、その情報を知りたいところです。というより、その情報がなければ、この方の治療や、治療によってどこまで改善の可能性があるかはわからず、お答えできません。
また、「記憶錯乱」「せん妄」「妄想」という症状も書かれていますが、具体的な内容が不明ですのでこれらに関しては何もお答えできません。「記憶錯乱」は、その内容によって症状としての意味が全く違ってきますし、「せん妄」「妄想」は、すでに症状についての専門的な判断ですので、質問者がお書きになっているこれらの症状が、本当に存在するのかもわかりません。
脳腫瘍や脳血管障害についてのご質問に対して私がいつも申し上げることですが、そうした器質的な病気では、脳のどの部位がどのように損傷されているかが重要かつ不可欠な情報になりますので、MRIやCTのような脳画像所見がなければ、ほとんど何も有効なお答えはできません。また、症状に関しては、具体的な内容の記載がなければ、情報としての価値はほとんどありません。