精神科Q&A
【1724】脳手術後のせん妄が長引く母・・・それともせん妄じゃないのでしょうか?
Q: 今年76歳になる母は肺がんでもうすぐ闘病8年目になります。闘病と言っても特に大きな症状もなく、副作用もあまりないような化学療法でこれまで楽にやってきました。
その母が3ヶ月ほど前から、道に迷ったり、電話番号を忘れてしまったり、という症状が出始め、てっきりアルツハイマーだろうと思ってMRI検査をしたところ大小合わせて20個程の転移性脳腫瘍が見つかりました。前頭葉に3cm強の腫瘍が二つ、後部に同じくらいのものが2つありましたので、脳外科の先生が前と後ろを二回に分けて手術をすることを提案下さり、1ヶ月前に前頭葉の方の摘出手術を行いました。手術は成功し、きれいに摘出できたのですが、手術後母は全く別人になってしまいました。手術前までは、確かに病院の中でも迷ってしまったり、電話がかけられなかったりすることがあったのですが、話をする分には何も問題はなく受け答えもしっかりしていました。迷ったり電話がかけられなかったのは、後頭部にある腫瘍の一つが視神経のそばにあり、そのせいで左目が殆ど見えておらず、そのため迷いやすかったりしたようです。母はいまだに仕事をしており、手術当日までそのことで頭がいっぱいで、常に何か物事を考えている人でした。話好きでもありました。しかし手術を境に殆どモノを言わなくなってしまい、目は虚ろで無表情、たまに話しても全く意味不明のことをつぶやいています。手術直後は字も書けたのですが、今は殆ど書けなくなってしまい、私がリハビリのために書いたら、と言うと「面倒くさい」と怒り出します。まだ入院中ですが夜は殆ど寝ていないようです。朝は比較的ハッキリすることもあるのですが、午後から夕方にかけては自分の名前もなかなか出てこないことがあります。夜寝ていないせいか夜も目をつむっていることが多いです(でも寝てはいない)。トイレなどは分かるようで、歩いたり食事はとれているので一見すると普通の人です。ただ二回目の手術は中止にしてもらい、これからサイバーナイフを受けるつもりでいます。
主治医曰く、今母の腫瘍の状態は前2つを取った後の画像はきれいであり萎縮もみられないそうです。残りの腫瘍も慌てて処置しなければならないほど危険な状態ではないそうで、本人も特に頭痛などの症状は訴えていません。ただ一つ、精神状態がおかしいことを除いてですが・・・腫瘍が残っているので、原因は断定できないようですが、脳外科の先生・精神科の先生双方とも脳の問題というよりせん妄だろう、とのお見立てです。ただ、まもなく手術から丁度一ヶ月ですがなかなか元の母に戻らないことに不安を感じています。入院生活でベルトで拘束されたりしているのがストレスなのか、とも感じています。
今日から私の自宅に外泊させてもらい様子を見ていましたが、最初の30分ぐらいはよく寝るのですがその後突然「いや〜いや〜」と大声(叫び声)を上げて顔をゆがめています。夢を見ているような感じですが、一度起きてまた寝付くと同じことがおきます。入院中も夜中に声を上げていた、と看護婦さんは言っていました。入院前から母は寝つきが悪いためパキシル(10〜20mg)を毎晩飲んでいました(三年ほど前から)。それを飲むと朝までグッスリ寝られていましたが手術を境に飲むことを中止されてしまいました。心臓に負担がかかる、などの理由のようです。5日程全く寝られない日が続き、やっと出してもらった薬はレスリンというものですが、それを飲んでもあまりよくは寝れないようです。パキシルが身体に合っていたようだったのでそれを飲めばすぐ寝れる気がするのですが、医者は副作用を考えて、またパキシル自体は飲んでもすぐに眠くなるような薬ではない、と言って処方してくれません。たまに字が書けたりするとせん妄が治った!と喜んでしまうのですが、また翌日は機嫌が悪くぼんやりしたり、一定ではありません。せん妄なら治るはず、と期待しているのですが、脳の障害だとするともう治らないのかも、と絶望的になります。一体何が原因で母はこんなふうになってしまったのでしょうか。。。
林: 脳手術から一カ月後の精神症状は、主治医の先生方がおっしゃるように、せん妄の可能性があり、まだ何ともいえません。
けれども、この方の脳手術が、前頭葉の腫瘍摘出ですので、今の症状は前頭葉の一部が失われたためとも考えられます。
このような場合、脳の画像所見(MRIなど)を見せていただければ、ある程度の推定はできるのですが、それを見ていない段階では、曖昧なお答えしかできません。画像をお送りいただければ、よりよいお答えができると思います。
また、質問文には何らかの誤りがあると思われます。すなわち、
前頭葉に3cm強の腫瘍が二つ、後部に同じくらいのものが2つありました
とのことですが、これらの腫瘍は脳との相対的な大きさからいうと、巨大といえるもので、そのような腫瘍が脳内に4つあり、しかも転移性脳腫瘍であったとすると、手術適応はない(もっと直接的に言えば、手術をしても無駄)と考えるのが普通です。そして、このような巨大な腫瘍を摘出すれば、脳の一部が失われることは避けられませんから、それによる後遺症が残るのは当然といえます。
今母の腫瘍の状態は前2つを取った後の画像はきれいであり萎縮もみられないそうです。
とのことですが、「きれい」というのは腫瘍の残存がないということであって、前頭葉が手術によりどれだけ失われているか、それによって今の症状の判断は違ってきます。
いずれにせよ、脳の画像所見がなければ、今の症状の原因や見通しについて、有効な回答をすることは残念ながら不可能です。これは、脳の器質障害のほぼすべてにいえることです。
その後の経過(2010.5.5.)