精神科Q&A

【1691】アスペルガーか否か診断を受け、グレーゾーンと判定されたのですが


Q: 28歳、女です。27歳のとき、臨床心理士により、アスペルガー症候群か否かを診断していただいたことがあります。 
WAIS-Rでは、全体として正常域の知能でしたが、言語性知能−動作性知能=46で、 
高い下位項目は単語・数唱、低い下位項目は絵画完成・積木模様・組合せでした。 
PーFスタディ、ロールシャッハテストでは特別な問題はなく、AQスコアは32でした。 
結論としては、グレーゾーンとの判定でした。 
しかし、今でも「完全に範疇では?」との疑念が消えません。 

幼稚園入園前の問題点は、 
○同年齢の子どもにまったく興味を示さず、専らひとりで空想にふけるか、本を読むか、大人たちとの会話に熱中するか、だった 
○運動神経の発達が遅く、2歳になるまで一人歩きができなかった 
ことです。 
就学時にも階段が上れませんでした。 

幼稚園・小学校では環境に恵まれ、同級生との関係も良好で、比喩・皮肉・冗談を交えて会話を楽しむことができました。ただし、作文・読解問題が得意にもかかわらず、 「お盆をしまって」と言われると、載せられたコップは残したままお盆のみを片付ける 
というような、字義通りの解釈による失敗がままありました。 

中学生以降は問題が頻発し、二度の就職と早期離職に到るまで、以下の問題点を抱えています。 

○空間認識に問題があり、建物の構造がわからず、方向音痴で、体育の授業の「隊形変化」などがうまく行えない。 

○チームスポーツができない→複数のルールを同時に守ること、複数人の動きからかれらの意図を判断することができない。 
ほぼ同様の理由から、荷物運搬・装置組立などの共同作業、カードゲーム・将棋・オセロなどができない。 

○「こそあど言葉」を用いた指示、あいまいな指示の含意がわからない→会議室の机をどう並べ替えるのか、ひとりだけ理解できない。 

○講義筆記などのディクテーションに問題はないが、複数の業務をそつなく、精度高くこなすことができない→ひとつの業務に必死に専念しても精度が低い。 

○空想と文芸創作という狭い趣味領内に過集中し、しばしば生活上必要な注意に欠ける→同時に複数の事柄に関心を持つのが苦手。 

○他人の注目しない部分に視点・関心が集中するので、共通の体験後、他人の会話についてゆけない。 

周囲からは微細記憶力が強靭といわれ、他者からの叱責など負の体験によるショックが長く尾を引き、フラッシュバックによるパニックも多々あります。 

微妙なのは、他人と「関わる」ことよりも「眺める」ことを好む性向が加齢とともに強まり、中学生以降、徐々に他人との交際が希薄になり、現在では極度の対人恐怖症であるのに、周囲からはおおむね「笑顔で人当たりがよい」「聞き上手」「(雑談において)相手の意図を読む勘が鋭い」と評価されることです。 

先生のお見立てを伺いたく、ご多忙の折恐縮ながら、なにとぞ宜しくお願い申し上げます。


林: アスペルガー障害の可能性はかなりあると思います。メールに記されている行動の描写からもそう思われます。また、アスペルガー障害をはじめとする発達障害は、検査結果だけでは判断しにくいのが普通ですが、この【1691】のケースのWAIS-Rが言語性知能−動作性知能=46という大きな差は、これだけを見ても、何らかの異常があることを示しており、上記行動の描写と合わせると、最も考えられるのはアスペルガー障害ということになります。
一方、

幼稚園・小学校では環境に恵まれ、同級生との関係も良好で、比喩・皮肉・冗談を交えて会話を楽しむことができました。

周囲からはおおむね「笑顔で人当たりがよい」「聞き上手」「(雑談において)相手の意図を読む勘が鋭い」と評価される

これらは、質問者が微妙とおっしゃっている通り、むしろ発達障害ではないことを示唆するものです。
というわけで、冒頭にお書きした通り、「アスペルガー障害の可能性はかなりある」とまでしか言うことはできませんが、もし、

現在では極度の対人恐怖症である

そのために色々な面でお困りであるのなら、専門家を受診し診断をつけていただくことをお勧めします。逆に、実際には特にお困りでない場合には(但し、ご本人はあまり問題と考えていなくても、周囲は大きな問題であるとみなしていることもありますので、確認が必要ですが)、ご本人のために確定診断が本当に必要かどうかは難しいところです。


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