精神科Q&A

【1686】統合失調症の初発症状が身体症状?


Q: 私の兄44歳の相談です。今から約二カ月前、非常に真面目で会社を休む事のない兄が、頭痛がひどく会社に行かれないと言い出したところから始まりました。A脳外科に行きMR検査をしましたが異常なしとの事で頭痛薬を処方されましたが改善せれず我慢して仕事に行っていました。1週間後、職場で足に力が入らず一日何とかやり過ごしたものの家に着くと階段も昇れない状態だったためB救急病院へ行きました。CT検査、血液検査をしましたが異常なし。その日より会社には行けず現在休職中です。ホームドクターである内科の先生(漢方中心の内科)に相談したところ、漢方薬で少し様子を見ようと頭痛と下肢脱力を改善する漢方を処方されました。
その同時期より睡眠障害(1〜2時間しか眠れない)、耳鳴り、視力の低下、食欲不振、頭痛に加え頭部が腫れていると訴えるようになり、内科の先生よりC大学病院の総合診療内科へ紹介されました。血液検査や尿検査をしましたが特に異常はなく精神的(仮面うつなどが考えられると言われました)なものではないかとの診断でした。検査結果が出るまでの1ヶ月で体重は10キロ減り精神的にも落ち込んだ状態になっていました。「自分は癌だと思う」などと言うようになり口数も減り、家族もうつ病ではないかと考え出していました。大学病院の先生からはこの病院の精神科は重症患者しか診察できないので近くのD神経科へ受診を勧められました。紹介してくれた内科の先生に報告、相談したところその先生の所で、しばらく治療をしようという事になり、漢方薬、デプロメール25_とナウゼリン10_を処方していただきました。本人は自分はうつ病なのか?と疑問はありながらも内科的に何も問題なかった事をいい方に捕らえ前向きになり始めました。内科では「うつ病」の問診をしましたがどちらとも診断しにくい境界線上との事でした。下肢脱力は改善されてきたため散歩に出掛けたり、買い物に行ったりと外出をしていたのですが、同時に自分の身体に過敏になり毎日いろいろな近所の病院へ行くようになりました。今まで病院に行った事など殆どなかったのに皮膚科、歯科、眼科、耳鼻科と通いはじめました。そして元々、寡黙な方だったのですが、よく喋るようになり声も大きくなり人が変わったようになりだしました。話す内容はほとんど自分の身体の事で「耳鳴りがずっと続いてTVの交感音が大音量で響く」「夕日が実際の大きさより巨大に見えるし眩しくて仕方がない」などと言い、その後「皮膚が剥けて再生されない。このままでは皮膚呼吸が出来なくて死んでしまう」「身体の中に冷たい血液が時々流れる感じがする」「日中聞いた音や話声が夜中聞こえてくるため眠れない」などとだんだん理解が難しい内容になってきました。音が大きく聞こえるからと一切TVを見なくなり、外出もしなくなりました。 
その後、E総合病院の神経科へ受診し統合失調症が疑われると言われました。(診察の際、誰に説明しても理解できない事だけど・・・と笑いながら自分の症状を説明したりハイな感じがありました。)エビリファイ1錠、セロクエル25_を処方され一週間後に再診。本人は地獄のような毎日だと家族に訴えていたので担当医に心身ともに限界に感じている事を家族から伝えました。本人も入院を希望していたので翌日、入院となりました。
入院後、少しずつエビリファイが増量され現在は朝4錠を服用しています。入院して10日もしないうちにあまり喋らなくなり気分の落ち込んだ状態になっています。元々の寡黙な性格に戻りそれに増して表情が乏しい感じがしています。気力を失っているような状態です。本人に様子を聞くと入院しても良くなっていないと言っています。私たち家族から見るとTVを見るようになったり、日中少し散歩に行ったりとできなかった事が出来るようになっているとは感じています。睡眠も入院前よりは良くなってきているようです。 家族がその病気の知識をしっかり持とうといろいろ勉強しています。先日、林先生の統合失調症 --患者・家族を支えた実例集を購入しこのサイトを知りました。統合失調症との診断ですが本当にそうなのか?身体的な症状から始まる事はあるのか?このまま入院生活を続けていてよいのか?と疑問があります。大まかな経過ではありますが林先生のご意見を是非お聞かせいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。


林: お兄様は統合失調症だと思います。二ヶ月前の頭痛が初発症状(前駆症状と呼ぶ場合もあります)で、E総合病院の神経科を受診した頃には精神病症状がはっきりしていたと思われます。メールをお書きになったのは入院後10日と少し過ぎた時期で、治療により客観的には改善傾向が見られているようですが、この時期はまだまだ不安定ですので、あせらずに治療を続けることが必要です。ご家族自身があせらないことも重要ですが、本人をあせらせないよう、ご家族が安心させるようにするのも重要なことです。

統合失調症が、身体症状から始まるのは、そう珍しいことではありません。この【1686】のケースでは頭痛ですが、初発の身体症状は様々です。そして、多彩で不定の症状が出てくることもよくあります。統合失調症の初発、ないしは前駆期のこうした状態は、汎神経症と呼ばれることもあります。

睡眠障害(1〜2時間しか眠れない)、耳鳴り、視力の低下、食欲不振、頭痛に加え頭部が腫れていると訴えるようになり、

は、まさにそれにあたります。ですから、このケースの発症は、統合失調症としては一つの典型的な経過です。
 とは言うものの、この時期に統合失調症と正確に診断することはなかなか難いものです。精神科医による慎重なフォローアップが望まれるところで、

大学病院の先生からはこの病院の精神科は重症患者しか診察できないので近くのD神経科へ受診を勧められました。

この大学病院の対応は今ひとつ理解しかねますが(この大学病院が特殊なのかもしれませんし、質問者が大学病院の医師の説明を十分に理解されていなかったのかもしれません)、いずれにせよ神経科や精神科で精神科医に診てもらうべきでした。

紹介してくれた内科の先生に報告、相談したところその先生の所で、しばらく治療をしようという事になり、漢方薬、デプロメール25_とナウゼリン10_を処方していただきました。

繰り返しますが、この時期で統合失調症と正確に診断することは、精神科医でもなかなか難しいものです。ですから、内科医が診れば、うつ病の疑いとされることが最も多いでしょう。そして抗うつ薬が処方される。統合失調症であった場合、この時期に抗うつ薬を飲むと、精神症状が賦活され、悪化するという考え方もあります。しかしこれは、そういう考え方があるにとどまり、証明はほぼ不可能ですので、何ともいえません。この【1686】のケースは、抗うつ薬の処方後、やや明るくなり、さらには声が大きくなるなどしているので、その原因を抗うつ薬に求めることもできないではありせんが、全体の経過からみると、抗うつ薬の影響は仮にあったとしても小さなもので、むしろ統合失調症が発症し、徐々に悪化していく自然経過とみるべきでしょう。

よく喋るようになり声も大きくなり人が変わったようになりだしました。話す内容はほとんど自分の身体の事で「耳鳴りがずっと続いてTVの交感音が大音量で響く」「夕日が実際の大きさより巨大に見えるし眩しくて仕方がない」などと言い、

統合失調症の初期にしばしば見られる感覚過敏です。そしてこれが

その後「皮膚が剥けて再生されない。このままでは皮膚呼吸が出来なくて死んでしまう」「身体の中に冷たい血液が時々流れる感じがする」「日中聞いた音や話声が夜中聞こえてくるため眠れない」などとだんだん理解が難しい内容になってきました。

このように発展していることから、ここまでの経過が統合失調症の発症からの一連のものとして理解できることになります。エビリファイ、セロクエルの処方、さらには入院は、適切な対応といえます。

そして、先ほども申し上げたとおり、統合失調症が発症し、入院治療が開始されてまもない今の時期は、たとえ改善しているように見えても、まだまだ精神状態は不安定です。表面的な変化に一喜一憂せずに、治療を続けられることをお勧めします。


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