精神科Q&A
【1665】異動をきっかけに不調になった私は擬態うつ病でしょうか
Q: 私は41歳の男性で、あるマスコミの仕事をしています。
最初の発症は、5年ほど前、職場内での異動がきっかけでした。苦手な分野の仕事を割り振られ、また、その現場での人間関係により、抑うつ、不眠、吐き気などを感じるようになりました。その時、はじめて心療内科を受診しました。当時の診断は「うつ状態」ということで、薬物治療を行いました。結局、職場の上司に相談するなどして、その現場からは、半年で再び異動することになり、症状もおさまりました。 その後は、職場の環境も自分に合っていたせいか、上記のような症状が出ることもなく、2年ほど過ごしました。通院も、薬も、いつの間にか自己判断で止めていました。
2回目の発症は、昨年の夏の異動がきっかけでした。それまでよりも、さらに高いスキルと、スピードが要求される職場で、日常的に誰かが叱責されている、それを目にしなければならない、時には、自分も叱責を受ける、ストレスの高い職場でした。 その職場のことは、以前から何かと耳にしていたので、異動が決まった時点から、動悸、不安、抑うつ、緊張に伴う発汗、食欲不振、不眠などの症状が出始め、再び心療内科を受診しました。以前とは異なるクリニックです。医師の診断は、「適応障害に伴ううつ状態」というものでした。症状は、実際にその職場で働くようになってからも続きました。 薬物投与を受けながら、半年間耐えましたが、あるとき、とうとう「希死念慮」を感じるようになり、上司に相談し、異動前の職場に戻してもらい、現在に至っています。 現在、日常の仕事においては、過度なストレスを感じることはありません。自分なりに、その日その日をきっちりとこなせていると考えています。休日も、以前はひたすら寝逃げに走っていたのが、好きなスポーツを楽しむなどの余裕も出てきました。ただ、時に漠然とした不安感に陥ることや、将来、もっといえば次の異動について、先の見えない不安などはあります。 現在も、投薬は続けており、トレドミン25mg、アモキサン10mg、ワイパックス0.5mgを1日2回。ハルシオン0.25mg、デパス0.5mgを就寝時に、1日1回。この処方は、1年以上変わっていません。
今、私が最も不安に思っているのは、定期的な異動が避けられない現在の職場において、再び次の異動で同じような状態になるのではないかということです。現在の”小康状態”は、比較的精神的ストレスの低い今の職場と、投薬によって保たれているだけで、異動があれば、また前のような状態になるのではないか。 そして、そのように考えると、この状態はもはや病気ではなく、ひとえに自分の弱い性格や、新たな仕事や責任を担いたくない「わがまま」を、「病気」というレッテルに転嫁させているのではないか、とも考えます。 私は、先生のおっしゃる「擬態うつ病」なのか、仮に一時「うつ状態」であったとしても、もう治っていて、あとは自助努力、さもなければ定期的な異動というストレス源の回避、つまり今の会社を辞めることでしか現状を打開することができないのではないか。 私は病気なのか、病気ではないのか、どうなれば回復なのか、それすらもよくわからない状態です。 間の悪いことに主治医が倒れてしまい、ここ2カ月ほどは、毎回異なる代診の医師で、薬の処方以上の、今後の見通しなどの相談を、落ち着いてできる状況ではありません。 とりあえず今、私は、環境の変化やストレスに弱い自分をなんとか少しでも変えて、今後に備えていきたいと、クリニックとは別に、臨床心理士によるカウンセリングを受けています。そこでは、「親から受け続けた過度な期待や、それに伴う、自分の満たされなかった経験が、現在の希薄な自己肯定感や自信のなさにつながっているのでは」という仮説(あくまで私自身の私説)をもとに、過去の自分の感情を振りかえるなどしながら、自分を見つめなおす作業をしています。これによって、意識の中で希薄な「自分」というものが、少しでも色濃い存在となってくるのではないかということです。(カウンセラーの言葉を、あくまで自分なりに理解した範囲ですが) わかりにくい文章で大変恐縮ですが、現在の私の状況が何なのか、どうすれば、不安感を覚えることなく生きることに近づくことができるのか、ご助言いただければ幸いに存じます。
林:
医師の診断は、「適応障害に伴ううつ状態」というものでした。
これをうつ病と呼ぶか呼ばないか、それは現在、学会でも議論となっているところです。つまり賛否両論がありますが、私の立場では、これはうつ病とは呼びません。擬態うつ病です。
この状態はもはや病気ではなく、ひとえに自分の弱い性格や、新たな仕事や責任を担いたくない「わがまま」を、「病気」というレッテルに転嫁させているのではないか、とも考えます。
これは私の考えにかなり近いものです。ただ、「わがまま」という言葉には、道徳的に好ましくないという意味が含まれていますので、このまま受け入れることには抵抗があります。
新たな仕事や責任を担いたくない気持ちを、
「病気」というレッテルに転嫁させている
という表現のほうが適切であると思います。
ではなぜ「適応障害に伴ううつ状態」をうつ病と呼ぶべきでないのか。これは長い答えになってしまい、ここには書ききれません。それは「うつ病」ではありません! をお読みください。