精神科Q&A
発達障害の子どもの「興味」を具体的に記述した論文を紹介します。
石川元 精神科治療学 23巻2号 p.136
筆者が最も強烈な印象を受けたのは、多くの子どもが夢中になる「となりのトトロ」に関するものである。
長男は、2歳半を過ぎると「となりのトトロ」のビデオに夢中になり、母親に毎日、3, 4回は再生を要求してきた。当時よく、「トトロのようこちゃんが、ようこちゃんが・・・」と言うので母親は、「ようこちゃんなんて出てこないでしょう? サツキちゃんとメイちゃん(主人公の姉妹)、それにサツキちゃんの友達はミッちゃんよ」と、そのたびに応じていた。答はなかった。一緒に観ることが多く、「ミッちゃん」という名前すら2度ほどしか登場しないことまで知っていて、「ようこちゃんだなんて、何を言い出すのかおかしな子どもだ」と、すでに母親もトトロ通になっていたのである。
その後、数ヶ月は「トトロ」を観ない時期が続き、3歳を過ぎたある日、突然、「トトロ」の話題を出してきた。「あのー、メイちゃんが迷子になって『止まってくださぁい』って言ってバイクのお兄ちゃんが『ようこちゃん気が付いた?』って!」と。
トトロ通だった母親は、このとき初めて「トトロのようこちゃん」の存在を知らされた。改めてビデオを再生してみると、妹のメイが迷子になり、姉のサツキが必死に捜すなか、偶然、男性が運転し後部の荷台に女性が立っているオートバイが通りかかる。サツキはバイクの進行を塞ぐように、「止まってくださぁい」と叫びながら勢いよく飛び出し、男女のもとに駆け寄ると、妹を見なかったかと訊ねる。そのとき、男性は荷台の女性に「ようこちゃん気が付いた?」と問うているのである。母親は納得した。バイクは車とともに常にこの男児にとって興味の的であったし、メイが勢い良く飛び出すインパクトが息子には強烈だったのかもしれないと。同時に、「他の子どもとは違う」と改めて認識したのだった。
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すなわち、通常人であればまず気づかない脇役である「ようこちゃん」に、この男児が強い興味を持っていることに、筆者は強烈な印象を受けており、また、この興味はこの男児のオートバイへの興味と関連していることが示唆されています(アスペルガー障害ではメカニックなものに異常なほど強く執着することがしばしばあります)。