精神科Q&A

【1640】統合失調症の薬を自己判断でやめた結果、生き生きと生活している


Q: 私の母は、統合失調症で2年前に強制入院の経験があります。母は50代後半、私は30代で結婚して実家を出ています。退院後、月に2度ほどの通院を続けて今に至ります。入院前は妄想がひどく、「ストーカーに狙われている」「電気をあてられて痛い」などと言って、家中に黒いガムテープを貼り、家事もあまりできていませんでした。人付き合いもなく、表情も暗かったです。長年、家族の病気に対する認識不足から、精神病ではなく宗教のためにおかしくなったのだと思ってしまい(実際に一時期は母だけが信仰をしていました)病気のことを知って入院させることになった時には母に対する申し訳なさで一杯でした。それだけに病気の認識ができたこと(入院前にはこのサイトもよく拝見させていただき、参考になりました)治療をできたことを本当に感謝しています。 ですが母の気持ちとしては、強制入院でしたので、今も病院や主治医の先生に対する不信感が残っているようです。同じ時期に入院していて仲良くなった患者の人たちから聞いた、薬に対する副作用への疑いが消えず、薬を飲むことにとても消極的です。「病院をかわりたい」とも言います。(ただ、実行に移すほど積極的に通院も考えられないようで、仕方がなく同じ病院へ行くといった様子です) 退院後、薬を隠れて捨てていた時期がありました。1年前、退院して1年ほどたったときです。その時は主治医の先生が気づき、私たち家族も同席しての診察で「薬を飲まないようであればまた入院もやむを得ません」と強く話してくださいました。母は入院の記憶が相当つらいものとして残っているようで、その時は納得して飲むことを約束していましたが、今になって(さらに1年後)また飲んでいないことを告げられました。通院は続けていますので、おそらく主治医の先生もこのことは気づいていらっしゃらないかと思います。 この1年、母は家族との海外旅行や趣味のサークルに参加したりと、とても生き生きとしており、もちろん言動なども特におかしいところはなかったので家族は皆、恥ずかしながら気づきませんでした。薬をやめると症状が悪化し、病気の症状が再発することは知っています。主治医の先生に連絡して頂いたときはまさにそうでした。 (感情の起伏が激しく、時に攻撃的でした) ただ、今は入院前の母からは考えられないくらいに交友関係も広がり、とても毎日楽しそうです。友達と呼べるべき存在もでき、旅行なども楽しんでいます。薬を飲んでいなくても、統合失調症の症状がでないということはありえるのでしょうか? 子ども達は皆実家をでており、母は今は父との2人暮らしのため、目が届いていない可能性もありますが。。家事はきちんとこなしています。話口調も落ち着いており、変わった様子は特にありません。父は事なかれ主義の傾向が強く、よほどの症状がでないかぎりは動きません。薬を飲んでいないことも気づいていませんでした。 母は薬を飲んでいない=再入院の図式がありますので、先生には黙っていてほしいと言います。私としては知ってしまった以上、再発もこわいので先生に相談してなんとか薬を飲んで欲しいのですが。そうなるとこの生き生きとした毎日(趣味に交友関係に楽しむ生活)を母から奪ってしまうことになるのでしょうか。(薬を飲むと実際に眠気などが強く、出かけたりが億劫になることは本当のようです) 薬を飲まずに楽しく生活しているということを考えて本人にまかせるのか、やはり統合失調症の患者として薬は絶対服用すべきで、入院も視野にいれて服用を説得すべきか。。(説得は容易ではないので、最終的に入院も考えられます)薬を飲まなくても今のような生活が維持できるのであれば、それが一番理想的なのですが、そういったことはありえるのでしょうか? 主治医の先生にご相談する前に先生の意見をお伺いしたく、質問させて頂きました。長文で申し訳ありません。宜しくお願いいたします。


林: 統合失調症で、薬をやめた場合、一時的にはむしろ良くなったように感じられるのはよくあることです。そしてその大部分は再発します。したがって、やはり薬は飲み続けるのが適切という結論になります。

しかしここで、「大部分は再発する」ということは、再発しない人もいるということだから、の必ずしも薬を飲み続ける必要はないのではないか、という反対意見が考えられます。けれども、ここでいう「大部分」は、文字通り大部分であって、薬をやめても再発しないケースはきわめて稀な例外ですので、この反対意見は理にかなったものとはいえません。

では薬をやめて、再発の兆候があったらまた飲み始めればいいのではないか、という反対意見も考えられます。しかし、統合失調症が他の病気と違うところは、再発の兆候があったとき、本人はそれが病気とは感じにくいことが非常に多いということですので、この反対意見も理にかなったものとはいえません。ご家族からみて、再発しかかっている、早く治療を再開しなければ、と思われ、実際その時点で治療を再開すれば事なきを得る状況であるにもかかわらず、本人は治療再開を頑なに拒否し、激しい症状が出るまで何もできず、結局は強制入院になるというのもよくあるケースです。したがって、

薬を飲まなくても今のような生活が維持できるのであれば、それが一番理想的なのですが、そういったことはありえるのでしょうか?

この問いに対する答えは、「ありえます。しかし、それは例外ですので、例外を期待するのは不合理です」ということになります。

また、

薬を飲んでいなくても、統合失調症の症状がでないということはありえるのでしょうか? 

それは一時的には十分にあり得ることです。しかし、

子ども達は皆実家をでており、母は今は父との2人暮らしのため、目が届いていない可能性もありますが。。

この可能性を軽視すべきではありません。特に、

父は事なかれ主義の傾向が強く、よほどの症状がでないかぎりは動きません。薬を飲んでいないことも気づいていませんでした。 

というようなお父様との二人暮らしでは、再発の兆候には気づかれにくいでしょう。

家事はきちんとこなしています。話口調も落ち着いており、変わった様子は特にありません。

このことから、少なくともはっきりした症状は出ていないと推測できますが、再発していないとまでは推測できません。

母は薬を飲んでいない=再入院の図式がありますので、先生には黙っていてほしいと言います。

それを聞き入れるのは愛情ではありません。

私としては知ってしまった以上、再発もこわいので先生に相談してなんとか薬を飲んで欲しいのですが。

当然です。

そうなるとこの生き生きとした毎日(趣味に交友関係に楽しむ生活)を母から奪ってしまうことになるのでしょうか。(薬を飲むと実際に眠気などが強く、出かけたりが億劫になることは本当のようです)

ここが最大のポイントの一つで、もし眠気などの副作用が問題なのであれば、薬の種類や飲み方をかえるなどの工夫により解決できることが期待できます。そして、薬を飲んでいない状態でもほとんど症状が出ていないのであれば、再発防止に必要な薬の量は少なくても大丈夫と推定できますので、副作用がほとんどない状態にすることが十分に期待できます。なぜ薬を飲まないのかをはっきりさせ、それを解決するのが第一ということです。メールの内容からは、薬を飲まない理由は、現に出ている副作用ではなくて、ご本人がどこかから仕入れたあやしげな副作用情報である可能性も読み取れます。これらを含め、薬を中断している理由を明確にすることがまず勧められます。

主治医の先生にご相談する前に先生の意見をお伺いしたく、質問させて頂きました。

主治医の先生に先にご相談されたほうがいいと思いますよ。


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