精神科Q&A
【1594】短時間の診察で娘がアスペルガーと診断されたのですが・・・
Q: 6歳の年長になる娘の事について質問させてください。
年長になってからの幼稚園での個人面談で、
〇落ち着きの無さ
先生が話している時に自分の意見を言ってしまう
他に注意が行くとそちらに集中してしまう。
自分のやりたい事を途中で止めづらい。
泣き出すと手がつけられないことがある。(暴れはしない)
順番を守れない。(早くやりたいという気持ちを抑えづらい)
長い間体操座りで待たなければならない時に、キョロキョロしたり 注意力が散漫である。(体操の時間)
このような点を指摘され、私自身気になる所もあったため、地域の療育センターを受診しました。
それまで、対人関係でもマイペースなところがあり、年上の子には懐いて遊んでもらい、それとはまた別に小さい子が好きでよく面倒を見て遊んでいました。
同年代の子とはいまいちコミュニケーションが取りづらいと感じていました。
でも、周りの人は娘の事を「面倒見のよい優しいお姉ちゃんだね」と言ってくれていたため私もそうなのかな・・・。と思っていました。
たまに空気が読めなくて(6歳の子供がどれだけ読めるのかわかりませんが)親が困る発言をする事もあります。自分の意見をハッキリ言うということですが。
妹と喧嘩をしても、妹の方が譲れたり、不器用さが目立ちます。
洋服でも気に入った洋服があり、洗濯をしてはそれを着たり(お気に入りは変わります)
食べ物ではマクドナルドが大好きでお店に行くと同じ物を食べる。
カレーライスが大好きでよく食べる。
その様なこだわりも少し気になると言えば気になります。
この点で発達心理のテストも受け、先日結果を聞いたらIQ90です。
言葉を認識する能力にばらつきがあり、模倣された図形をきちんと書く事も出来ないとの診断でした。医師にはアスペルガー症候群でしょうと言われました。
しかし、上記の話を初めに話した時は、「子供らしい子供なんですよ。注意もこれからよくなります。お母さんは自分の思う通りの、カチカチに子供を育てたいのではないの?」と言われました。
そこで、私は一つ娘がしてしまった事で、娘がハサミでお友達の髪の毛を切ってしまった。
(年中の終わり頃、娘はお友達の家に遊びに行きお友達の部屋で遊んでいました。ネコちゃんごっこというのをしていたらしいのですが、お友達の女の子は髪の毛を切りたいとよく話していて、ハサミをこっそり持っていき男の子のネコちゃんに変身したいから、髪の毛を切ると言って少し切ったそうです。そして、娘にも切って欲しいと言いました。娘はそのまま切りました。この理由を先生には話していませんでした。失敗です。)
この行為をした事を先生に話したところ、一変してテストを受けた方が安心するかもね。
と言われてテストを受ける事にしました。
その結果がアスペルガー症候群という結果になりました。
先生は娘がハサミでお友達の髪の毛を切ったという事実を重く受け止め、
「普通さ、お母さんはお友達の髪の毛をバッサリいきなりハサミで切る?」
いきなりバッサリはやってないけど・・・・・。診断結果に動揺していた私は反論できませんでした。
大人でもあまり判りにくい聞き方で、2つ3つ子供に質問をして、きちんと答えられなかったため「彼女は頭はいいけど、こっちの聞いている所はほとんどわかってないよ」と言うのです。
確かに、娘は理解能力が低いのかもしれません。
でも、同年齢の子供達と話していても、あまり大差は感じられないし・・・・。
空気の読めない発言など、園では他の子供もよくあるし・・・。
「この前診療に来たときに、パンツが見えていたけど、全然気にしてなかったんだよ
ね〜。普通さ、年長さんくらいになったら気にするものよ。アスペルガーの人は羞恥心がないのよ」とも言われました。
でも、その時たまたま短いスカートをはいていたと言う事で、本人は多分気づいていないのです。
指摘すれば、きっと隠したと思いますし、周りの年長の子供達もパンツが見えていても平気でジャングルジムしたり、鉄棒でぐるぐる回っていますから、娘だけ特別のような気はしないのです。
運動能力の面でも、補助なし自転車は2回で乗れるようになった。鉄棒、登り棒など他の子がなかなかできない事もできる。
読み書き、絵を書くのが得意。夫婦喧嘩のときに雰囲気を察知して他に意識をもっていこうと働きかける。
エレベーターが止まった時、妹に配慮しながら落ち着いて避難ができる。
私がイライラして娘達(特に下の子供)を怒り過ぎたときかばっていたわる事ができる。
買い物の時に、何も言わなくても荷物を持ってくれたり気遣いができる。
いい所も沢山あるのに、私はほとんど診療の時に何も話さなかったのです。
心配な所だけ並べて、大人でも少し難しいテストを1時間近く受けさせて、娘に負担をかけたような気がします。
結局診断が下りてから、アスペルガー症候群について調べましたが、人間誰しもある特徴があり娘だけに限られるのかどうかと、とても疑問に思ったのです。
医師が娘を見ているのはほんの2分くらいです。それが2回。それでぱっと見て判るものですか?
テストの診断結果を他の医療機関に持っていったら、娘を見なくてもアスペルガーと判断できるのでしょうか?
私は娘への思いと、これから先の人生の難しさを思うと辛くて動揺しています。
それを娘は感じ取っているのか、「ママは私の事好き?」と毎日寂しそうに聞いてきます。
そんな風に娘に言わせている私は母親として失格です。
色々思い悩み、林先生のQ&Aに行き当たった為、質問をさせていただきました。
私自身、もしかするとアスペルガーの要素があるような気がします。娘と似ているからです。
落ち着きの無さも、今思うとあります。それでも今何とか頑張っています。
これから、娘の就学問題などあり、さまざまな対応に迫られています。
娘は本当にアスペルガー障害なのでしょうか?
通級制度など利用した方がよい。校長に話して配慮を受けるようにと言われましたが、人と違う、お友達と違う事をするという事に敏感な娘に対して、それがよい対策なのか、今一度、他の医療機関での受診をしたほうが良いのか、お伺いしたいです。
長々と大変申し訳ありません。どうかどうか宜しくお願い致します。
林:
娘は本当にアスペルガー障害なのでしょうか?
わかりません。このようなメールからそれを判断することは不可能です。なぜなら、質問者は、この6歳の娘さんがアスペルガーではないという願望を持っておられることは明らかだからです。そのような願望のもとに書かれたメールに、事実が公平に書かれているはずはありませんので、それを読めば「アスペルガーではなさそうである」という結論に傾くのは当然です。したがって、判断できません。
以上が回答ですが、これを前提としたうえで、メールの内容を検討してみたいと思います。
この【1594】のケースの全体の流れを整理すれば、
幼稚園で、他の子どもとは違う点があることを指摘された。
↓
医師を受診。最初は問題ないと言われた。
↓
検査と診察の結果、アスペルガーと診断された。
と表せます。こうしてみますと、幼稚園の先生と、医師、この二人が(いずれも、少なくとも質問者よりはアスペルガーについての専門的な知識を持っているはずです)、このケースをアスペルガーか、少なくとも典型的な子どもとは違うと判断されています。したがって、アスペルガーの可能性は高いと考えるのが自然です。このメールの中心は医師の診断についての疑問で、普通の子どもにもよくあることをアスペルガーと判断している、と述べられていますが、その前に幼稚園の先生からの指摘があったことが軽視されていると思います。一人ではなく、二人の専門家の見解であることは重視せざるを得ません。
そしてこの医師の診断は、
最初は普通と言われた。しかし検査と、その後の診察の結果、アスペルガーと確定診断された。
という流れになっています。これに対する質問者の疑問は、もっともに思える点もあります。たとえば、アスペルガーは検査だけで診断できるものではありませんので、検査の結果と2分くらいの診察2回で確定診断しているとすれば、それは不合理なことです。
しかし、実際にはこれに加えて、質問者自身が医師とかなりお話をされているのではないでしょうか。発達障害では、母親からの情報はきわめて重要で、時にはそれだけで診断がかなり確定することもあるものです。ですから、その情報があれば、検査と短時間の診察で診断が確定しても不合理なことではありません。
また、
大人でもあまり判りにくい聞き方で、2つ3つ子供に質問をして、きちんと答えられなかったため「彼女は頭はいいけど、こっちの聞いている所はほとんどわかってないよ」と言うのです。
とのこと、これもこれだけを読むと、軽々しい診断方法に見えないこともありませんが、このときの具体的な質問内容や、それに対する娘さんの反応を見なければ、何ともいえません。診断にかかわる専門的な質問は、はたからは不合理に見えるのはしばしばあることです。
結局診断が下りてから、アスペルガー症候群について調べましたが、人間誰しもある特徴があり娘だけに限られるのかどうかと、とても疑問に思ったのです。
この疑問はある意味もっともですが、そのように誰しもある特徴だからこそ、専門的な判断が必要なのです。
この点に限らず質問者は、娘さんがアスペルガーであってほしくないという強い願望のあまり、判断が混乱していることが読み取れます。
・・・と、ここまでの回答からは、この【1594】のケースを私はアスペルガーと判断していると読み取れるかもしれません。しかし、結論は冒頭にお書きしたとおり、「わかりません」です。私のここまでの回答はある意味、「質問者は娘さんをアスペルガーであってほしくないという強い願望があることから、メールの内容が偏っている」ということを前提にしたものです。
もしこの前提が誤りで、メールの内容がかなり客観的事実に近いとすれば、この医師の診断過程には疑問が残ります。(つまり、母親である質問者からのお話もそれほど聞いておらず、本人の短時間の診察と検査だけで診断したとすれば、それは問題でしょう)
ですから、この【1594】の質問者には、もう一度冷静になって、客観的事実が何で、ご自分の願望が何であるか、よくお考えになることをお勧めします。その結果、やはり診断に疑問があれば、他の医師の判断を求めるのもいいでしょう。(但しその際、アスペルガーを否定してほしいという願望から情報を歪曲すれば、正しい判断は期待できません)
なお、
テストの診断結果を他の医療機関に持っていったら、娘を見なくてもアスペルガーと判断できるのでしょうか?
テストではアスペルガーは診断できませんので、それだけでは無駄です。ご本人の診察と、これまでの成長過程についての客観的な情報が必要です。
最もよくないことは、
私は娘への思いと、これから先の人生の難しさを思うと辛くて動揺しています。
このような中途半端な状態で母親が悩み続けることです。
それを娘は感じ取っているのか、「ママは私の事好き?」と毎日寂しそうに聞いてきます。
そんな風に娘に言わせている私は母親として失格です。
決して失格ではありませんが、このような状態が好ましいといえないのは当然ですから、より良い方向に進むべく努力することが必要です。そして、子どもは刻一刻と成長するわけですから、この努力は開始が遅れたら意味がなくなってきます。速やかに開始すべきです。
通級制度など利用した方がよい。校長に話して配慮を受けるようにと言われましたが、人と違う、お友達と違う事をするという事に敏感な娘に対して、それがよい対策なのか、
このご心配は実にもっともです。小児を何らかの障害であると診断し、それが誤っていた場合、ご本人の成長に与える影響は甚大で、時には取り返しがつきません。しかし逆に、障害を見過ごした場合も、やはり取り返しがつかないこともあり得ます。これは小児の診療にあたる医師も常に留意していることで、この【1594】のケースをアスペルガーと診断した医師も、当然そういった問題を理解したうえで診断を下しているはずです。
が、それはともかくとして、【1594】の質問者であるお母さまには、冷静に現実を見直し、そのうえで必要と判断されれば、他の医師の診断を仰ぐことをお勧めします。