精神科Q&A
【1592】成績は最低だが記憶力は抜群の弟
Q: 28歳になる弟のことで、初めてメールさせていただきます。
彼は小さいときから、周囲の平均的な子より出来ないことがとても多いと思っていましたが、まだ一度もIQテストのようなものを受けたことも精神科などの病院も受診したことはありません。
出来ないことが多いなりにも、彼のペースで少しずつ進んでいけばよいと思っていましたが、今まで数多くのアルバイト先でトラブルないしクビになったりと、やはり一般的な社会での生活は難しいのかと今になって感じています。(トラブルは、バイト仲間にお金を貸す、暴力を受けるなどです)
中学生の頃の成績はほぼ3年間ともオール1、高校受験にも失敗し専修学校に行きました。
両親との同居の日常生活に不自由はないですが、理解力、記憶力が乏しく手先や身体を動かすこと(文字を書く、運動をするなど)に関しても不器用に思われます。金銭管理はひとりではできません。そしてたまにパニックになることがあります。 独り言、その際の身体の動かしも多く、注意しても自分では止められないようです。
また記憶力に関しては自分の好きなことに関してはとてもよく覚えていることがあります。(彼は高校野球が好きでたとえば1990年の甲子園の3回戦は?などと質問すると対戦チーム点数などを即答する)
軽度の知的障害にあてはまるかどうか、またもしそうだった場合何か守られた環境での就職などできるのでしょうか?
精神科を一度受診してみたほうがよいでしょうか?
どこに相談してよいか分からず偶然ネットで拝見してメールさせていただきました。 よろしくお願いいたします。
林: 記憶力は抜群だが対照的に学校の成績は悪い。そして対人関係は非常に苦手。このような場合、もっとも考えられるのは広汎性発達障害です。
と書いたそばからすぐに注意しなければなりませんが、「記憶力は抜群だが成績は悪く、対人関係は非常に苦手」というだけで広汎性発達障害と診断できるわけではありません。病気の知識が広まる最初の段階ではこのような短絡的な決め付けがしばしば行われる傾向があり、広汎性発達障害をめぐる現在はまさにその段階のように思えます。
と注意を述べたうえであらためてお答えします。この【1592】のようなケースで、まず最初に考えるべき診断は広汎性発達障害です。
質問文には、記憶力が抜群という記載の一方で、
理解力、記憶力が乏しく
とあり、一見すると記載が矛盾しているようですが、これは矛盾ではありません。例として書かれている高校野球のデータのような記録の記憶力は抜群でも、日常生活では記憶力が乏しいために不都合が生じているように見えることは、広汎性発達障害ではよくあることです。
そして、
手先や身体を動かすこと(文字を書く、運動をするなど)に関しても不器用に思われます。
これは、広汎性発達障害のひとつであるアスペルガー障害の診断基準にもある、特徴的な所見です。
また、
そしてたまにパニックになることがあります。 独り言、その際の身体の動かしも多く、注意しても自分では止められないようです。
このような症状も広汎性発達障害として矛盾はありません。
軽度の知的障害にあてはまるかどうか、またもしそうだった場合何か守られた環境での就職などできるのでしょうか?
知的障害と発達障害は別の概念です。そして発達障害に対する社会的な支援は知的障害とは別に存在します。まずは保健所等でご相談すること、また、発達障害についての一般向けの本をお読みになることをお勧めします。(ネットを参考にすることはお勧めできません)
発達障害についてのQ&Aもある程度はご参考になると思います。