精神科Q&A
【1591】「他罰的うつ病」は擬態うつ病でしょうか
Q: ある新聞の連載で、「メランコリー親和型」という典型的なうつ病のほかに、最近は「他罰的」傾向のあるうつ病が若い世代を中心に増えているという記事を読みました。
その特徴はおよそ次のとおりで、
1 自己主張が強く「私はうつ病です」と自分から言う。
2 周囲のせいで自分が理不尽な目に遭っているという「他罰的」傾向。
3 うつ病で休職中に趣味に興じたり、海外旅行に出かけたりと従来では考えられない行動をとる。
4 受診時にはうつ病の症状を示しており、心身ともにつらい状況にあることは否定できない。
研究者の間でも「逃避型抑うつ」・「未熟型うつ病」・「ディスチミア親和型」など様々なとらえ方、用語があり、その言動に周囲が困惑することも多いとのことです。
私の職場にも、このタイプではないかと思われる同僚がおります。
当時の仕事の内容・対人関係等で具合が悪くなったとのことで、突然休み始め、その後休職になりました。
約1年休職して復帰しましたが、その間も旅行や外出もけっこうしていたようです。その話を復帰後私たちに堂々と話すので、びっくりしました。
現在も1〜2週に1回のペースで通院し、薬も飲んでいるようです。
周囲の状況に無頓着で、仕事にはまったく消極的で、仕事中はいつも具合が悪そうにしています。
毎日複数人で協力してやる仕事があるのですが、必ず数テンポ遅れて、ある程度分担が決まってから参加してくるので、(いまさらもういいよ)という気分になり、参加を断ると「じゃ、よろしくお願いします」と早々に引き下がります。
その他の仕事もはっきり自分の分担と決まっているもの以外は、まったく見向きもしないか、ある程度目処がついたころに絶妙のタイミングで手伝いを申し出てくるので、結局やらずじまいで終わります。
毎度のことなので周囲の状況に気づいていない・聞こえないのではなく、実はよく把握していて、自分で選んでいるように感じます。
その反面、自分の利益になりそうなこと(諸手当の届出や自分が休もうと予定している日の前日の仕事)はテキパキと的確に処理します。
また、興味を引くこと(仕事以外の与太話)に対しても敏感で、周囲が潮時と考えて話を終えても、いつまでも騒いでいたりととても生き生きしています。
私の仕事の内容が、自分の担当のほか、その同僚がやらない仕事をすべてカバーするような状況になっており、どこまでやればいいのかわからないストレスと、本人の前述の態度が度重なることで、最初は病気だからできるだけカバーしようと思っていたのですが、復帰後約1年半たった今では、顔を見たり声を聞くだけでイライラしてしまい、憎しみを覚える自分のほうが病気なのではと思えてきます。
今でも病気は治って欲しいと思っていますが、本当に病気なの?という疑問が付きまといます。
林先生のおっしゃる「擬態うつ病」のある種のタイプと「他罰的うつ」は似ているように思い、この同僚にも当てはまる部分があると思うのですが、どう思われますか?
この同僚に対し、現在私は面と向かっては何も言わず冷たい態度をとってしまっています。どんな言い方をすればいいのかわからないし、自分の感情があふれ出しそうになるからです。どのような対応をするのが適切なのでしょうか?
林:
林先生のおっしゃる「擬態うつ病」のある種のタイプと「他罰的うつ」は似ているように思い、この同僚にも当てはまる部分があると思うのですが、どう思われますか?
おっしゃる通りです。
このご質問は約一年半前にいただいたもので、類似のご質問はこの前後から現在までいくつもいただいています。
どのようにお答えすれば最もよく理解していただけるか。それを吟味するうちに、一冊の本になってしまった。それが、それは、「うつ病」ではありません! です。
この【1591】へのお答えとして、同書の一部を引用します:
最近次々に出てきた、「○○うつ病」という名の新病名。確かにうつ病に似たところがあります。でも、これらはすべて擬態うつ病です。数ある新病名は、ただ混乱に拍車をかけているだけだと私は思います。
これがお答えの要旨ということになります。けれども、これだけでは誤解を招きかねないかと思います。だからこそ、一冊の本のボリュームが必要だったのです。さすがにすべてをここに引用するわけにはいきませんので、お手数になりますが、本の全体を通してお読みください。新書ですから本としては薄めです。