精神科Q&A

【1566】うつ病の友人のてんかん発作


Q: 友人(女性)Aの恋人B(男性)と私(女性)と私の恋人Cと4人でバーで会った際に(すべて30代です)、Bが突然、『あー!』と叫び声をあげ、体を硬直させ、うなりだしました。私とCは咄嗟に『これはてんかんかもしれない』と思い、イスの上に体を横にさせました。体をこわばらせていた状態はすぐに治まり、落ち着きましたが、大量に汗をかいており、呼びかけても意識が戻りませんでした。お店の方に救急車を呼んでもらい、Aが付き添い病院に搬送されました。Bはビールをコップ半分も飲んでいない状態でした。 翌日、Aに話を聞くと、下記のようなことでした。1)Bはその時の記憶はまったくない2)Bに聞くと今までにこのような状態になったことはないと言っている3)Bはうつ病でかかりつけの医師がおり、うつ病の薬を服用している4)搬送された病院にその薬を見せている5)Bは付き合い程度にお酒を嗜むが、普段は飲まない。6)搬送された病院では、脳の検査をし(具体的な内容はわからない 結果は異常なし)点滴を受けた7)病院では『てんかん』とは言われていない。また、はっきりとした病名や原因は言われていない。 Bから二日後、迷惑をかけてすまなかった という内容のメールをもらいましたが、ことの重大性を認識していないように思えました。腰と四肢が痛く、しばらくしても痛みがとれないようだったら、病院に行くと書いてあったので、かかりつけの医師のところにも行ってないようです。 私とCは、『うつ』も『てんかん』も脳の病と考えており、まずはかかりつけの医師に今回起こったことを相談してほしいと思っています。けれど、Bがうつ病ということを知らないことにしてほしいとAから言われています。Aも自分の恋人がこんな状態になったのを目の当たりにしているので、(まず、うつ病だということを受け入れるのにも、葛藤があったのだろうと思っています)私たちの素人判断でAに気持ちの負担を課すのはどうだろうという思いが半分、けれども、早いうちにできることがあればすべきだとも考えています。 林先生にお伺いしたいのは、a)うつ病の薬がてんかんの(ような)発作を誘発することがあるのかb)Bは30歳なのだが、大人になってから発症することがあるのかc)Bはとてもやさしく繊細で人に気を遣いすぎるようなところがある。今回のことをはっきり告げることによって、Bのうつ病の状態が悪くならないか。d)うつ病を診ていただいている先生に今回のことを報告する重要性はあるのか。(それを、AからBに伝えてもらい、受診を促したい) 服用している薬名や、うつ病の経緯がわからず、回答しにくいとは思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


林: 
Bが突然、『あー!』と叫び声をあげ、体を硬直させ、うなりだしました・・・体をこわばらせていた状態はすぐに治まり、落ち着きましたが、大量に汗をかいており、呼びかけても意識が戻りませんでした。

これはてんかん発作と思われます。
ただし、てんかん発作とてんかんは、厳密には別のものです。「てんかんと同じメカニズムで起きる発作」がてんかん発作です。ですから、てんかん発作の原因としては、てんかん以外に多くのものがあります。

この【1567】のご質問は、Bさんがうつ病であることを前提としてなされていますが、このようにかなりはっきりしたてんかん発作が見られたことは、診断がうつ病で本当に正しいのかということをまず検討する必要があります。考えられるケースとしては、
(1)うつの症状は確かにあり、うつ病と診断されているが、別の病気である。・・・その「別の病気」が何であるかは、てんかん発作があったということがヒントになります。てんかんも考えられますし、脳腫瘍のような器質的な疾患も考えられます。
(2)うつの症状は確かにあるが、実はうつ病とは診断されていない。・・・Bさんが、ご自分の病気を「うつ病」と偽っているという可能性です。このようなことは現代ではしばしばあることで、精神科にかかっている人が、周囲には「うつ病」と告げているが、実は別の病気であることを本人も知っている、というケースです。これは、うつ病へ偏見は減ったものの、他の精神疾患への偏見はあまり変わらないという現代の状況から生まれた事態で、これも一種の擬態うつ病です。それは「うつ病」ではありません! のp.92, p.135などにもお書きした通りです。

そこでご質問の件ですが、

a)うつ病の薬がてんかんの(ような)発作を誘発することがあるのか

過去にてんかん発作を起こした人には、うつ病の薬がてんかん発作を誘発しやすいという事実はあります。

b)Bは30歳なのだが、大人になってから発症することがあるのか

このご質問は、「何が」発症することがあるのかとお聞きになっているのか不明ですが、「何が」がてんかんであっても、うつ病であっても、大人になってから発症することは十分にあることですので、答えはいずれにせよイエスです。

c)Bはとてもやさしく繊細で人に気を遣いすぎるようなところがある。今回のことをはっきり告げることによって、Bのうつ病の状態が悪くならないか。

それ以前に、Bさんの診断名が問題です。
たとえば上記(2)のような事情であったと仮定すると、

Bはうつ病でかかりつけの医師がおり、うつ病の薬を服用している
Bに聞くと今までにこのような状態になったことはないと言っている


↑これらが事実かどうかの確認が必要ということになります。

つまり、「うつ病の状態が悪くならないか」と心配する以前に、診断名が問題だということです。そして、てんかん発作の原因を明らかにすることは、うつ病(かどうかは別として、とにかく今の精神症状)の状態の悪化の心配よりも優先する重要事項といえます。

d)うつ病を診ていただいている先生に今回のことを報告する重要性はあるのか。

主治医に報告する重要性はきわめて大きいです。てんかん発作は、診断の確認ないし見直しにつながるエピソードであることがその理由です。


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