精神科Q&A
【1531】解離性障害と診断されたと聞いたが、統合失調症ではないか?
Q:
私は35歳会社員、男性です。 今回、私の妹の病気について、先生のご意見をお伺いしたく、メール致しました。 妹は、現在30歳です。 以下、妹のこれまでの生い立ちで、病気と関係あるかもしれない(と私が考えている)事象について、思い出せる限り時系列にお話し致します。
・ 生まれてまもなく大きな病気をし、長時間(どの程度かは不明)脳に酸素が供給されなかったことがあるらしい。ただし、その後、脳に損傷があるかどうかなどの精密検査をしたわけではないらしく、また、社会生活が行えないような発育障害は見受けられない。
・ 高校生時代、ある同級生にいじめを受けており、心療内科を受診していた。
・ 22歳で結婚するが、入籍後まもなく別居。取っ組み合いの大げんかをし、何度か警察を呼ばれる騒ぎとなったらしい。その後まもなく離婚する。
・ その後、暴力が激しくなり、見かねた両親が精神科に医療保護入院させる。
・ 入院後、落ち着きを取り戻した彼女は、父に病院から出たいと願い入れ、2度目の一時帰宅をしたところで、そのまま病院に戻らず退院してしまう。この間、医師からは、「もう少し様子を見てみましょう」と言い続けられていたとのことですが、入院していた期間等については聞き出せておりません。その後、他の病院へも通院はしていないようです。
・ その数年後、某社に人材派遣会社経由で勤務。同じ職場の男性と交際を始める。
・ 一昨年、不規則な勤務に体調を崩し、人材派遣会社を退職。その後、スーパーにパートで勤務。
・ それからまもなく、交際していた男性とうまくいかず別れてしまう。それが契機であったように周りの人間に敵対的になり、職場の同僚に対する不満を語っていた。それが原因でパートも退職する。一度感情が吹き出してしまうと、延々と相手を攻撃していた。また、自暴自棄な発言が散見される。 ここで初めて、父からそれまでの経緯を聞かされたため、即座に精神科を受診することを勧める。上記は、私が帰省中に見たことで、私自身も、彼女が私について気に入らなかったことについて長時間非難される。
・ 派遣会社に就職。再び以前勤務していた某社が職場となる。
・ 妹が父とともに精神科を受診。医師は、統合失調症の疑いがあると語ったらしい。高校生時代のいじめも、実は被害妄想の可能性があるのではないか?とのこと。妹は医師からそれまでの職歴を訊かれたことが不満であるとの理由で、その病院にはそれきり行かなかった。その後、派遣会社の社宅近くの診療所(精神科/心療内科)に通う。※この時点での妹の症状は詳しく聞けていないが、おそらく幻聴が聞こえだしていたものと思われる。
・ 約1ヶ月前に私が帰省。明らかに症状が悪化している。症状は以下の通り。
■度々薄ら笑いをする。
■時々思考が停滞しているようだ。長時間ものを考え続けることが困難に見受けられる。
■被害妄想的言動が見受けられる。会社の人間が自分を辞めさせようとしている。職場の同僚の男性から嫌がらせを受けている。その男性は超能力を持ち、彼女の行動を観察している。彼女が行動を起こそうとすると、それを馬鹿にしたり、わいせつな言葉をかけ嫌がらせをしたりする。また、その声に対して言い返している。彼女にとって甥となる、私の息子の前でも、遠慮することなく「彼(彼ら?)」と会話していた。声がどこから聞こえるのか確認したところ、額の斜め上あたりから聞こえてくるらしい。
■男性の嫌がらせについては、彼女の同僚達の周知の事実らしい。
■男性の嫌がらせについて何度か警察に相談をしている。
■本人とっては、上記はすべて実際に起こったことであり、自分が病的な状態にあるとは全く思っていない。前述の診療所から処方された薬も殆ど飲んでいないらしく、なるべく服薬するように、一時的に父が寮に同居するも、仕事に障るからと言って出勤前には飲まなかったらしい。
■病気によるものとははっきり言えないが、車の運転で物損事故を起こした。
統合失調症については、以前より林先生のサイトにておおむねどのような病気かは存じていたのですが、先生の著作「統合失調症 --患者・家族を支えた実例集--」を購読し、改めて統合失調症に特有な症状が多く見られると感じたため、両親には、入院も視野に入れて、すぐに診察を受けるように伝えた。
大変前置きが長くなりましたが、ここからがお尋ねしたい内容の本題です。 この後、父は一人で、妹が通っている診療所の医師に意見を伺いに行ったそうです。父がどこまで彼女の症状について説明したのかは不明なのですが、先生はこうおっしゃったそうです。
1.以前通院した際に、彼女から職場に好意を持った男性がいるという話を聞いた。恐らく声の主は、その男性なのではないか。
2.統合失調症ではあり得ない。統合失調症であれば、仕事などできる訳がない。
3.彼女の病気は「解離性障害」いわゆる「ヒステリー」だ。
おそらく精神分裂症に偏見のある父は、先生のその発言を聞いてすっかり安心してしまったのではないかと思います。
私は、2の発言に納得することができません。そもそも、彼女の職場での仕事ぶりが確認できていない状態で、このように言い切るのは乱暴だと思われます。 また、解離性障害について調べてみたのですが、近場の本屋ではそのような書籍を扱っておらず、Wikipedia等の情報しかを得ることはできませんでした。近くの精神科も外来は平日の午前中しか受け付けていないという状況であったため、医師にも相談できずじまいです。 私が調べた限りでは、解離性障害とは、強いストレスとなる情報を己から遠ざけようとした結果、それを忘れてしまう等の症状が発する病気だと認識したのですが、残念ながら、被害妄想や幻聴といった症状が生じると言った記述を見つけることはできませんでした。
私が、現在妹がかかっているお医者様の発言に疑問を持っていることはお解り頂けたかと思いますが、是非林先生のお考えをお聞かせ頂ければと存じます。また、解離性障害について参考となる書籍などございましたらご教示願います。 なお、現在処方して頂いている薬もお伝えできればと思い、両親にその旨頼んでおいたのですが、今現在連絡が来ていない為、分からないまま相談させて頂きました。判明しましたら、追ってご連絡致します。 以上、よろしくお願い致します。
林: 妹さんは統合失調症(精神分裂病)だと思います。解離性障害の可能性はほぼゼロです。統合失調症という診断の根拠は、質問者が■で記された症状です。これらの症状が現在あることを認識すれば、過去の不安定な職歴・生活歴も、どこかの時点で統合失調症が発症していたことによると推定できます。
解離性障害とは、強いストレスとなる情報を己から遠ざけようとした結果、それを忘れてしまう等の症状が発する病気だと認識したのですが、残念ながら、被害妄想や幻聴といった症状が生じると言った記述を見つけることはできませんでした。
解離性障害についてのこの質問者の認識は間違いではありません。ただし、解離性障害でも一時的に被害妄想や幻聴が出ることはあります。しかしこれらは、統合失調症のそれらとは質の異なるもので、実際に診察すれば、統合失調症と解離性障害の区別に迷うことはまずありません。つまり、精神科医が診れば明確に区別できるということです。(ごく稀に、区別が難しいことがあります。しかしこの【1531】はそれにはあたらず、統合失調症であることは明らかです)
おそらく精神分裂症に偏見のある父は、先生のその発言を聞いてすっかり安心してしまったのではないかと思います。
私もこの質問者の見解は正しいと思います。
ただし、お父様が精神科医からお聞きになった説明が、ニュアンスを含め本当にこのメールに書かれている通りだったかどうかは疑問があります。つまり、以下のような事情だったことが考えられると思います:
1.以前通院した際に、彼女から職場に好意を持った男性がいるという話を聞いた。恐らく声の主は、その男性なのではないか。
「その男性だったということも考えられなくはない」という程度の説明だったのではないでしょうか。
2.統合失調症ではあり得ない。統合失調症であれば、仕事などできる訳がない。
「統合失調症の症状が強いときは、仕事は困難」という程度の説明だったのではないでしょうか。
3.彼女の病気は「解離性障害」いわゆる「ヒステリー」だ。
「解離性障害の可能性も一応は考える必要がある」という程度の説明だったのではないでしょうか。
つまり私の推定は、医師が「可能性は低いが、考えられなくもない」という程度のニュアンスで説明した事項を、お父様が都合よく(ご自分の願望に合わせて、といってもいいでしょう)解釈したにすぎないのではないかということです。
こういうことは非常によくあることで、きわめて多くの人が、医師の説明の中で自分がそう信じたい部分だけを取り上げてしまいがちなのです。(私が精神科Q&Aで極力断定的な回答をする理由の一つもそこにあります。メールという限られた情報からの判断ですから、厳密に答えようとすれば、ほとんどあらゆる病気の可能性、さらには病気でない可能性までもが考えられることになります。それでは回答することに何の意味もありません。断定しなければ、精神科Q&Aには存在意義がありません)
もちろんこの【1531】での事情もそうだったかどうかわかりません。妹さんの症状についての情報を、お父様が歪めて医師に伝えたということも考えられます。医師のほうに問題があるということも考えられます。上の回答は、一つの可能性を指摘したにすぎません。
しかしそんなことはともかく、【1531】の回答で最も重要なことは、このケースは統合失調症だということです。一日も早く治療を開始すべきです。