精神科Q&A
【1524】「新型うつ病」は擬態うつ病か。病名変更の可否は?
Q:
私は33歳の女です。いつも林先生のホームページを興味深く拝読させて頂いております。私は昔から心理学や精神医学関連に興味があり、いろいろな本を読んできました。林先生には現役の精神科医として、現代人のさまざまな心の病、そして最新の臨床例に基づいた精神医学についてたくさんの事を教えて頂き、とても勉強になります。相談ではありませんが、先日ネットのニュースを見ていたら気になる記事が目に止まり、最近の精神の病気の命名や名称変更について気になったため、林先生のご意見を聞かせていただければと思い、メールさせて頂きました。 気になった記事というのは、X月X日に配信されたニュースで「仕事中はうつ 会社の外では元気 『新型うつ病』大流行の裏側」というタイトルです。このニュースでは「新型うつ病」と名づけられていますが、これは林先生が独自に命名し、すでにサイトで度々使われている「擬態うつ病」と全く同じものですよね。個人的に思うところでは、専門的・学術的に見て良いか悪いかは別として、林先生が命名された「擬態うつ病」という名前の方が患者の実態をよりよく表現できていて、ふさわしいのではないかと思います。
ところで今後「擬態うつ病」「新型うつ病」が、本来のうつ病と区別され、別の病名に変更される可能性はあるのでしょうか?また、すでに名称変更されている心の病気に、 ・痴呆症→認知症・精神分裂病→統合失調症 がありますが、このような名称変更は専門家の立場から見て、変更するにふさわしいものだと思われますか?私の個人的考えでは、専門家病気の状態をより正確に表現する事ができ、それによって一般の人に誤解・偏見がないようになるものであれば、病名の名称変更は大いに行うべきだと思うのですが、ここ十数年、いわゆる「人権活動家」による人権尊重・差別撤廃をスローガンとした政治的、そして偽善的な動機で人権に過剰に迎合し、半ば圧力に屈する形で名称変更が行われている事が増えてきているように感じます。例えば、昔使われていた「登校拒否」が「不登校」に変わり、「自殺」が差別的であるという理由から「自死」に変えるように言われるようになった事などです。そのような動機で安易に名称を変更するのは非常に疑問であり、おかしいと思うのですが、現役の精神科医である林先生はどのようにお考えでしょうか? 長文になってしまい、申し訳ありませんでした。どうかこれからもホームページを続けて下さい。
林: 新型うつ病についてのご質問を2008年にはいくつもいただきました。(たとえば【1525】)
いわゆる「新型うつ病」は、擬態うつ病と重なる部分はかなりあると思いますが、話はそう単純ではありません。
この種のご質問にはどう回答すべきか、2008年に私はいろいろ考えたのですが、最終的には、いかにしても簡潔には回答できないという結論に達しました。
で、回答は一冊の本にすることにいたしました。
それがようやく書きあがり、2009年2月に発売されることになりました。それが
それは「うつ病」ではありません! 宝島社新書
です。いわゆる新型うつ病のみならず、うつ病をめぐる現代の問題についてがこの本の真のテーマです。
私としてはかなり考えて書いた本ですが、部分的に読まれると、大きく誤解されるおそれもある本になっています。したがいまして、ぜひ最初から最後までお読みいただきたく、一部を引用するのは差し控えたいのですが、
このニュースでは「新型うつ病」と名づけられていますが、これは林先生が独自に命名し、すでにサイトで度々使われている「擬態うつ病」と全く同じものですよね。
この【1524】のご質問に関連する文をひとつだけ引用します:
最近次々に出てきた、「○○うつ病」という名の新病名。確かにうつ病に似たところがあります。でも、これらはすべて擬態うつ病です。数ある新病名は、ただ混乱に拍車をかけているだけだと私は思います。
(『それは「うつ病」ではありません! 第4章より』)
それから、
ところで今後「擬態うつ病」「新型うつ病」が、本来のうつ病と区別され、別の病名に変更される可能性はあるのでしょうか?
も非常に重要なご指摘です。これについても、上記の本の終章に私の考えを示しましたので、ぜひお読みください。