精神科Q&A

【1489】非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬より弱いのですか


Q私は20歳代はじめの統合失調症女性を子供に持つ母です。子供は16歳で発症し服薬6年になります。親戚に患者がおりましたので注意していたためとても早く発見し、精神科クリニックのお医者様にもほめていただいたほどです。その際「この子は軽いよ」とおっしゃって下さいました。当時の症状は頭痛と、記憶力の低下でした。成績はずいぶん下がり、眠気、意欲低下と戦いながらでしたが高校を卒業できました。自宅療養にもなった浪人を経て本人の希望していた学部に進学し一人暮らしをしています。これまであった陽性症状らしきものは、音に過敏になることと、好きな音楽が頭の中に浮かぶことです。 薬はフルメジン、インプロメン、セレネースと徐々に量を増やし現在セレネース6mgを4年続けています。その途中は1mg増やすたびに二ヶ月ほどぐったりし表情も暗くなり「薬を増やせば増やすほど悪くなるみたいだね」と夫婦で心配したものです。現在服用している薬はセレネース6mg、パーキネス5錠、メイラックス1錠、他に睡眠薬で、先生からはこれだけ飲んでいれば再発したとしても軽いものだから、それほど心配しなくても大丈夫と言われています。 しかし進学先の大学がとてもハードな学部で、勉強についていくのにたいへん苦労しストレスにどっぷりとひたった生活です。大学の長期休暇中は全く問題無いのですが、それでも数日少し遠出をするとその疲れで二日ばかり身動きができないほどになります。 今現在とても困っているのは、1:眠気がひどく先生の説明が理解できず授業を受けるのに支障がある 2:説明を聞きながらノートをとることができない、覚えられない、すぐ忘れる 3:授業を聞こうと必死になるせいか、週の半ばには疲れて起きあがれないほどつらい 4:努力しても勉強が友達ほどはかどらない 5:試験に対する不安と緊張がひどく頭が真っ白になることなどです。 勉強以外の面では友達との大学生活は楽しく、本人も希望の進路ですのでなんとか卒業させてやりたいのですが「この先ついていく自信がない」と不安がり、頑張れない自分を情けないと責めているようです。 最近になり、親としましては薬のことが気にかかっています。1:ひどい陽性症状は一度もないのに定型薬であり抗パ剤が多いこと 2:セレネースによって認知にも悪影響があるのではないか 3:セレネースによって抑制が強すぎ、体の疲れがひどいのではないか、4:遠い将来起こりうる副作用も心配しておく必要があるのではないか 素人考えなのですがこの4点に対する不安から、リスパダールではどうでしょうかと主治医の先生にご相談しました。 先生はとても慎重な方でそれはとても大事でありがたいことなのですが、非定型薬は弱くて危ないと、具合が悪いときに少量上乗せして使う時以外は使われません。また、セレネースの容量も最低限の維持量だから今後も減ることは無いとおっしゃいます。 結局「リスパダールでもセレネースに比べたら二十分の一くらい弱いですけど、いいですか?」と聞かれました。子供の現在の高ストレスぶり、薬を変えることの悪性症候群などの危険性を考えると「お願いします」と言えませんでした。肥満、生理が止まることなどさまざまの副作用も勘案し、総合的に考えてセレネースを選んで下さっているのだとも思いますし…。 大学の学年を考えると、薬の調整がしやすい長期休暇は残り少なく、違う薬を試すかどうかの結論を出すタイムリミットが近づき、どうすればいいか悩んでおります。
 そこで一般的な傾向を教えていただきたいのですが、リスパダールや非定型抗精神病薬では再発の危険性はぐっと高くなるのでしょうか? 主治医の先生は患者が薬のことに口出しするのがお嫌いのようですが、先生には助けていただいたと感謝し、進路の相談にものってくださっているので、できるだけ良好な関係を続けて行きたいと願っています。また本人に告知していませんのでセカンドオピニオン外来などにもいけません。 以上が現状と相談です。それではどうぞよろしくお願いします。


林: 統合失調症を発症した後、比較的良好な経過が続いており、それは質問者をはじめとするご家族の適切な対応と、主治医の先生の適切な治療の結果であることは疑いありません。現在の薬物療法(セレネースの選択)は、質問者の推定の通り、

肥満、生理が止まることなどさまざまの副作用も勘案し、総合的に考えてセレネースを選んで下さっているのだとも思いますし…。

であると私も思います。そして何より、その治療によって良好な経過が得られていることが、いかなる理屈よりも重要なことです。したがって結論としては、主治医の先生の方針にこれからも従うことが望まれると思います。

けれどもこの精神科Q&Aの方針として、以下に事実をお答えします。
まず主治医からの説明ですが、

「リスパダールでもセレネースに比べたら二十分の一くらい弱いですけど、いいですか?」と聞かれました。

これは全くのでたらめです。リスパダールとセレネースの効果には若干の差はありますが、あくまで「若干」であり、そしてこの差は薬の量の調整によってなくすことが出来ます。
「二十分の一くらい弱い」という説明には何の根拠もありません。

質問項目については、

1:ひどい陽性症状は一度もないのに定型薬であり抗パ剤が多いこと

確かにこの点はやや疑問の処方と言えないこともありませんが、これだけでは些細なことにすぎません。(統合失調症の症状自体が良くなっていることのほうがはるかに重要なので、相対的に些細という意味です)

2:セレネースによって認知にも悪影響があるのではないか 

この疑問自体はある意味もっともですが、だからといってリスパダールなどに変更すべきということはありません。リスパダールをはじめとする非定型抗精神病薬については、認知機能を悪化させない、ないしは改善するとする研究論文は多数ありますが、その多くは信頼度が高いものとは言えず、むしろ非定型抗精神病薬の市場を広げるために認知機能をターゲットにした研究、いうなれば論文の外見をした宣伝と思われるものであることも否定できません。
 したがって、認知機能への悪影響を危惧してセレネースをやめようとする方針は誤りと言えます。

3:セレネースによって抑制が強すぎ、体の疲れがひどいのではないか、

このケースでは、これはその通りです。メールの内容を見ますと今の症状は、一部は統合失調症の陰性症状とも考えられますが、多くはセレネースの副作用であると思われます。
 しかしここでも、統合失調症自体が良くなっているというプラスと、セレネースの副作用というマイナスのどちらが大きいかを考える必要がありますので、直ちにセレネースをかえるべきという結論に達することはできませんが、現在の副作用の強さからみて、他の薬にかえることを考慮するのは自然でしょう。
 また、一緒に飲んでおられるメイラックスは抗不安薬ですが、これによる副作用が出ている可能性もあり(メイラックスは作用時間が長いので、たとえ夜にお飲みになっているのだとしても、翌日の昼間に眠気が出る可能性があります)、そして抗不安薬は統合失調症が安定した時点では必ずしも必要な薬とは言えませんので、メイラックスを中止することも考慮していいでしょう。

4:遠い将来起こりうる副作用も心配しておく必要があるのではないか

それはいかなる薬でも同じことです。
非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬に比べて、慢性的に飲んだ場合、遅発性ジスキネジアなどが起こりにくいとする研究論文も多数ありますが、その多くはやはり論文の外見をした宣伝と解釈できるものにすぎません。
 したがって、「遠い将来起こりうる副作用も心配しておく必要」は、どんな薬を飲む場合でも常にあることで、ここでも薬を飲むことのプラスとマイナスから方針を決める以外にありません。そしてこの【1489】では、薬をやめれば統合失調症の再発はまず確実ですから、遠い将来に起こるか起こらないかわからない副作用というマイナスよりも、薬を飲むことのプラスを重視すべきでしょう。

そこで一般的な傾向を教えていただきたいのですが、リスパダールや非定型抗精神病薬では再発の危険性はぐっと高くなるのでしょうか?

そんなことは全くありません。
但しそれはあくまで一般的傾向にすぎず、人には合う薬・合わない薬というものがありますので、処方の変更には常に症状悪化のリスクがあります。したがって、変更する時期は慎重に考える必要があります。その意味で、

大学の学年を考えると、薬の調整がしやすい長期休暇は残り少なく、違う薬を試すかどうかの結論を出すタイムリミットが近づき、どうすればいいか悩んでおります。

長期休暇中に処方の変更を試みたいというこの質問者のお考えは正当かつ合理的です。メールの情報を総合的にみて、この時期にセレネースからリスパダールへの変更を試みるべきだと私なら考えます。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る