精神科Q&A
【1410】1年前くらいから耳元で笑い声が聞こえる
Q: 私は10代後半の女です。
1年前くらいから私の身に起きている悩みがあります。
それは、耳元で笑い声が聞こえるというものです。
(文章が苦手なので状況を箇条書きにさせてもらいます。)
・必ず夜、寝ているときに起こる。金縛りで起こされ、その直後から聞こえる。
・大勢の男女の人を嘲笑ってるような笑い声が耳にまとわりつくように聞こえる。
・毎日ではなく、数ヶ月に1度程度。忘れた頃に前兆なく起きる。
・力を抜き、呼吸を整えるとスーッとぬけるようになくなる。
最近、力を抜くなどの対処法を見つけられましたが、やっぱり怖いです。
霊的なものかなと考えたときもありましたが、この事以外は特に何もないので、自分に問題があるのではと考え直しました。
しかし、この事が起こった日の自分の生活を見直しても、特に目立ったことはありません。
何か精神的な病でも持っているのかと思い、友人に相談しましたが、それはないとキッパリ言われてしまいました。
林: 最も考えられるのは入眠時幻覚です。金縛りと結びついていることが、その大きな根拠になります。
人間の睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。ごく単純にいうと、レム睡眠は、体の力が抜けており(「筋肉が弛緩している」のほうが正確な表現ですが)、夢を見ているときの睡眠です(ノンレムでも夢はあるのですが、レム睡眠のほうがずっと多いです)。
金縛りという体験は、レム睡眠なのに意識だけが目覚めている状態で、「体が動かない」レム睡眠の特徴が、意識的に体験されるものです。さらにここに、レム睡眠のもうひとつの特徴である「夢」が加わることもあります。それが入眠時幻覚です。
入眠時幻覚の多くは幻視(ないはずのものが見える)ですが、幻聴の形を取ることも時にはありますので、この【1410】の方の体験は入眠時幻覚として矛盾はありません。また、
力を抜き、呼吸を整えるとスーッとぬけるようになくなる。
これは、レム睡眠から脱したことによる症状の消失と解釈できますので、このような方法で対処できるということは、レム睡眠による入眠時幻覚であることの根拠のひとつになります。さらに言えば、
霊的なものかなと考えたときもありましたが、
というふうに一度はお考えになるというのも一つの典型で、金縛りの体験をした人の多くが、それを何か霊的な体験ではないかと考えているという比較的有名なデータもあります。
入眠時幻覚そのものは正常範囲の体験ですが、ひとつだけ、ナルコレプシーという病気の可能性を考えておく必要があります。ナルコレプシーは、ひとことで言えば睡眠パターンの異常で、入眠時幻覚もその一つの症状として現われます。
この【1410】の方の問題がこのメールの記載内容だけで、日中の異常な眠気などの症状がなければ、これは正常範囲の症状であり(つまり、ナルコレプシーの可能性はほとんどない)、心配はありません。入眠時幻覚は、成長するにしたがって自然に消えていくのが常です。たとえ幻聴だけでなく幻視が加わってきても、特に心配はありません。
但し、万一、日中の異常な眠気などの症状が出てきた場合、あるいは、睡眠とは無関係に幻聴が出てきた場合には、早目に病院を受診する必要があります。そうしたことが出てこなければ、気にする必要はないでしょう。