精神科Q&A

【1409】自閉症の女子部員の言動への当惑


Qこれは私が友人であるAから相談されたことですが、私では解決策が容易に見出せないので、林先生にお聞きします。
 私とは別の私立高校に通う友人の所属する美術部の二年生に、自閉症の女子部員(普通学級に通っています。不確かですが、統合失調症とも診断されているらしいです)がいるのですが、その部員の言動に部員全員が当惑しているそうなのです。
 Aは高校一年生の時に、その自閉症の女子(Sとします)に気に入られたらしく、部室で絵を描いている時に後ろに立ってAの描いている絵を無言でじっと見ていたり、学校にいる間や学校から駅までの道などでSにつきまとわれていたことがあったそうです。暴力をされたり物を盗まれることなどの実害はなかったので、その当時は「怖い、薄気味悪い」と思ってはいたものの、Aはそれほど問題視はしていない様子でした。
 ところが二年生になってAとSが別のクラスになると、SはAの友人である女子のBに付きまとうようになったそうです。Aが言うには「Sは、私とSは友達だと思っているからBとも友達なんだと思ている」らしいのです。

 AとBはとても仲がよくて、仲のいい女子同士がよくするように抱き合ったりAがBの頭を撫でたりすることがあるのですが、Sはそれを真似しようとしたのかBの髪を引っ張ったり、いきなり抱きついてきたりするようになりました。
 腹がたったAは部の顧問に相談したのですが、学校としても教師としても相手が自閉症の生徒だから扱いにくいのでしょうが、「あの子は病気なんだから我慢してやれ」といってそれきりなんだそうです。
 そして修学旅行の班分けのとき、Sがそうしたいと言ったという理由でAとBとSが同じ班に振り分けられたそうです。AとBは、Sとは別の班にしてくれと嘆願しましたが、教師はなかなか了承してくれず、Aが「それなら私もBも修学旅行には行かない」と言うとようやく別の班にしてくれたらしいのです。

 私自身それらの現場に居合わせたわけではないので、感情が入り混じり誇張されていたりして事実とは差異があるかもしれません。これを書いている私自身、感情的になっているかもしれません。しかし、実際にAやその他の部員が対応に困っていて、相談に対して気の利いた返答をできず、「まぁ、我慢するしかないだろう」としか言えない現状を歯痒く感じています。

 世間では「自閉症を理解して」とか「なりたくてなったわけじゃない」とか言われていますが、実際にこうやって迷惑している人間がいて、対応に困っています。自閉症の人も客観的に見れば被害者であるということも重々理解はしています。しかし、AやBは、Sのせいで(というのはあまりに酷かもしれませんが)高校生活を楽しめないでいます。
 Aは最近に「Sなんか入院すればいいのに、いなくなればいい」などと言うようになり、かなりストレスを感じている様子です。さまざまなところで言われる対応は患者を支援しようというものばかりで、私やAは納得できないでいます。自閉症の人の周りにいる人間は、どのように対応すればいいのでしょうか。具体的でなくても、Aにかけてやればいい言葉だけでもかまいません。どうか、お答えください。


林: まず、このSさんが本当に自閉症であるか否かが不明ですが、何らかの精神障害者であることは確かと一応は判断できますので、そのように仮定してお答えします。

まず簡潔に結論だけ申し上げます:
Sさんを理解し、支援すべきです。けれども、無制限に支援するべきであるということではありません。

さまざまなところで言われる対応は患者を支援しようというものばかりで、

それはある意味で当然です。精神障害者の方には、周囲には理解できない苦しみがあります。ですから、
患者を支援する
のは、精神障害ではない人に対し、当然期待されることです。ただし、
患者を無制限に支援する
ことは期待されるべきではありません。
これは【1408】【1311】にもお書きしたことと共通しています。つまり、「無制限に支援する」ことは、本来が無理ないし不合理なことであって、そのようなことを強いられれば、誰でも精神障害者を嫌う気持ちを抑えることができなくなります。いや、表面的には抑えることは出来るかもしれません。表面的には無制限に支援するポーズを取ることは出来るかもしれません。しかしその場合、心の底には精神障害者を忌み嫌う気持ちが沈殿し、それは別の機会に陰湿な形で表面化するでしょう。たとえば、将来、精神障害者とつきあう事態が生じそうになったとき、それを何としてでも避けるというような形です。そのような事態が精神障害者の方々にとって望ましくないことは当然です。そうならないためには、「支援する。しかし、限界があることは認識し、限界を超えた支援はしない」ことが必要です。さらに言えば、「迷惑なことは迷惑であることを否定せず、現実的な対応を講ずる」ことが必要です。

これを【1409】のケースにあてはめてみますと、このままでは、質問者やAさんの中には、「自閉症は迷惑だ」という気持ちが固定されるでしょう(Sさんを自閉症であると思っているからです。Sさんを他の病気だと思っていた場合は、その病気について「迷惑だ」という気持ちが固定されることになります)。そして将来、自閉症の人と接する必要が出てきた場合には、それを何としてでも避けようとするでしょう。さらに想像を発展させれば、他の人(自閉症について中立な考え方を持っている人)に、「自閉症を支援せよとかよく言うけど、実際に自閉症の人が近くにいたらたまらないよ」というようなお話をされるかもしれません。
それが最悪の事態であることは説明するまでもないでしょう。

ではどうしたらいいでしょうか。
これも【1408】などにお書きしたことと基本的に同じですが、「限界を設定し、そこまでは支援するが、それを超えた支援はしない。もしそれ(限界を超えた行為)が迷惑であれば、迷惑な人として対処する」ということです。
 そして、この【1409】のケースの場は学校ですから、その対処の責任はある程度までは先生にあると考えるべきでしょう。その意味で、

腹がたったAは部の顧問に相談したのですが、学校としても教師としても相手が自閉症の生徒だから扱いにくいのでしょうが、「あの子は病気なんだから我慢してやれ」といってそれきりなんだそうです。

という、この先生の対応は適切なものとはいえません。

但しここでもう一度考えなければならないのは、Sさんの言動が本当に限界を超えていたかどうかということです。そもそも質問者の方は直接にはこれらの言動をご存知ないわけですし、すでに腹を立てているAさんの、Sさんに対する認識が、公平・客観的なものであるという保証はありません。
したがって今すべきことは、Aさんと学校の先生、さらにはその他の関係者の方々をまじえて、まず現在起こっていることの共通認識をはっきりさせ、それが限界を超えているか否かを確認することです。限界を超えていなければ、我慢すべきです。そしてSさんをできる限り支援すべきです。一方、限界を超えていれば、それは「耐え難い迷惑行為」として、現実的に対処すべきです。そしてその場合、場が学校であるわけですから、学校の先生に主導していただくのが適切ということになるでしょう。


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