精神科Q&A

 【1392】記憶に関して自信がないのですが、解離性健忘でしょうか


Q:  32歳女性です。【1160】の方の相談内容を拝見して、メールをさせていただいております。私は精神科に通院しはじめて2年4ヶ月になります。症状は不安障害、うつ病、自律神経の不調です。
通院後すぐに、薬物治療などでうつ病の気分が塞ぎ込むなどの症状は全く無くなりましたが、自律神経の不調がしつこく続いていました。
が、それも最近になり、目に見えて良くなってきております。

一週間ほど前、子供の頃、近所のいとこの家の階段から転落したことをふと思い出したのですが、家族にそのことを言うと、「そんなことなかったと思うけど・・・」と言われてしまいました。
私自身も、学童期前であったということ以外、何歳の時のことで、どうして転落したのかもわからず、その後病院に行った記憶もなく、ただ階段を転がり落ちている状況だけが浮かんだという感じで、「あれっ、あの記憶は勘違いか?」と思い直したりして釈然としません。
思い出した瞬間、「そういえば、そんなこともあったなぁ。」と懐かしく思ったので、自分の中では当然現実だという認識だったのですが。
ちょうどその時に、記憶に関することが取り扱われていたのを拝見いたしました。

今まで全く気に掛けていなかったので、主治医の先生には話していませんが、私も記憶に関して、自信のないことが多いです。
階段から転落した記憶もそうですが、他にもたとえば、ピアノを習っていたはずなのですが、私には全く習った覚えがありません。
2年ほど前に知ったのですが、ピアノを教えてくださっていた方は昔からよく知っている方です。
あと本当に些細なことですが、日常的にもほんの一時的にだけですが、頭が真っ白になって今何をしているのかがわからなくなったり、「今日は何をしてたっけ?」だとか、「あれ?もう夜?」と思うことも多いです。
(これに関しては、熱中しやすく、ボーとするのも好きという性格の問題でもあると思いますが。)
あとは、中学〜高校は自転車通学でしたし、自転車に乗れるはずなのに、いざ乗ろうとすると自転車の乗り方というかバランスの取り方をすっかり忘れてしまい、全く乗れなくなってしまっていた、などもあります。
それから【1160】の方が体験されたような、自分が自分を上から見ている感じとは少し違いますが、ふーっと体が浮かび上がること(おそらく物理的にではないでしょうが)を何度か体験しました。
これが幽体離脱現象と言われているものでしょうか?とても不思議です。

特に日常生活に支障をきたすような内容でもありませんし、仕事に関することや大事なことに関する記憶は正常です(だと思います)ので、困っているわけではありませんが、
【1160】の方への林先生のご回答を読んで少し心配になったので、質問させていただきたいのですが、

(1) 私の記憶に関する事柄は、解離性健忘でしょうか?

(2) 幽体離脱のような不思議な体験は、精神科疾患からくるものなのでしょうか?

(3) たとえ今困っているわけではなくても、やはり精神科の主治医の先生には話しておいたほうが良いのでしょうか?

ちなみに【1160】の方は、幻聴や鬱はないとおっしゃっていましたが、私はたまに幻聴や入眠時幻覚もありますし、うつ病にもかかりました。現在治療中です。

逆に、自殺を考えたことや衝動的に自傷行為をしてしまったことはありません。

また【1160】の方のように、虐待と言えるようなひどい暴力やいじめの経験はありませんし、少々の身内同士の口げんかはあっても、基本的に家族はみんな大好きです。


林: 
(1) 私の記憶に関する事柄は、解離性健忘でしょうか?

わかりません。あなたの記憶障害についてのエピソードを順に検討しますと、

一週間ほど前、子供の頃、近所のいとこの家の階段から転落したことをふと思い出したのですが、家族にそのことを言うと、「そんなことなかったと思うけど・・・」と言われてしまいました。
私自身も、学童期前であったということ以外、何歳の時のことで、どうして転落したのかもわからず、その後病院に行った記憶もなく、ただ階段を転がり落ちている状況だけが浮かんだという感じで、「あれっ、あの記憶は勘違いか?」と思い直したりして釈然としません。


学童期前の記憶は、曖昧でも不思議はありませんので、これだけでは何もわかりません。

他にもたとえば、ピアノを習っていたはずなのですが、私には全く習った覚えがありません。

いつからいつまで習っていたのでしょうか。その情報がなければ、これが記憶障害か、正常範囲かの判断はできません。

あと本当に些細なことですが、日常的にもほんの一時的にだけですが、頭が真っ白になって今何をしているのかがわからなくなったり、「今日は何をしてたっけ?」だとか、「あれ?もう夜?」と思うことも多いです。

これらは、

(これに関しては、熱中しやすく、ボーとするのも好きという性格の問題でもあると思いますが。)

という可能性も十分にあります。

中学〜高校は自転車通学でしたし、自転車に乗れるはずなのに、いざ乗ろうとすると自転車の乗り方というかバランスの取り方をすっかり忘れてしまい、全く乗れなくなってしまっていた、などもあります。

「自転車に乗る」というのは、「泳ぐ」などと同じ、手続き記憶と呼ばれるもので、本来は失われることはないとされています。けれども、とても長い間自転車に乗らなければ、下手になることはあるでしょう。「全く乗れなくなってしまった」というのが、文字通り「全く」であれば、なんらかの異常を疑うきっかけにはなります。だとしても、解離とはまず無関係です。

(2) 幽体離脱のような不思議な体験は、精神科疾患からくるものなのでしょうか?

その内容が、

ふーっと体が浮かび上がること(おそらく物理的にではないでしょうが)を何度か体験しました。

ということだけであれば、まずこれはいわゆる幽体離脱にはあたりませんし、これだけでは精神疾患によるかどうか判断できません。

(3) たとえ今困っているわけではなくても、やはり精神科の主治医の先生には話しておいたほうが良いのでしょうか?

そのほうがいいでしょう。私の回答は「判断できない」ばかりになりましたが、直接お話をうかがえば、診断のための有力な判断材料になる可能性はかなりあると思います。

それに関連して、

私はたまに幻聴や入眠時幻覚もありますし、

これだけではほとんど診断的価値はありませんが、その具体的内容がわかれば、大いに診断に役立つはずです。

また、

虐待と言えるようなひどい暴力やいじめの経験はありませんし、

とのことですが、そういうものがあっても完全に忘れてしまうのが、解離性健忘の一つの形ですから、今の時点でのあなたのこの言葉は、解離性健忘でないことの根拠にはなり得ません。他の解離性健忘の実例をお読みになれば、「ないと思っていた出来事の記憶が、あるときよみがえった」という体験が一つの典型であることがおわかりになると思います。


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