精神科Q&A
【1372】人間関係に無頓着な、酒好きの友人について
Q: 私は30代後半の女性です。二十年来の友人の事で、林先生の御意見を是非お伺いしたいのです。どうか宜しくお願いします。
友人A(30代後半の女性)は大の酒好きで、私と知り合った十代の終わりには既に飲酒をしていました。朝から飲む程ではありませんが、一度飲み始めると日本酒やワインを計3合から、時には一升近く飲んでいました。
その後は強烈に悪酔いし、同性異性を問わずに同席者に抱きついて酷く絡んだり、度を越した悪ふざけ(無理矢理キスをしたり、相手の服にマジックで落書きをしたり)をした揚げ句、歩けなくなって周囲に迷惑をかけたり、深夜に友人の家に押しかけて「泊めて」とねだる等、本当に目茶苦茶な行動をしていました。
ですが、本人は酔っている間の事は「殆ど記憶にない」と言い張り、罪悪感や自己嫌悪も全く持っていないようなので、次第に周囲から敬遠されるようになり、私も大学卒業と同時に距離を置いて、なるべく関わらないようにしていました。
今にして思うと、Aの悪酔いと記憶喪失は「病的酩酊」だったのではないか?と思います。
そうして20代の後半頃、Aから「結婚した」と連絡がありました。そして「もう無茶な飲み方はやめた」「暇だから遊びに来て」と熱心に言うので、お祝いがてら皆で訊ねたところ、たしかに以前のように酩酊する事もなく、ほどほどに飲んでいるように見えました。それですっかり安心して、またAとの付き合いを再開する事にしたのです。
ところが数年後、Aが大人しいのは御主人が同席している時だけ、という事が判明しました。御主人の目が無いと以前のように悪酔いして、同席した人に絡んだり、抱きついたりするのです。また、表向きは「最近はあまり飲まない」と言い張っていますが、御主人の話によると月に2〜3回は友人と飲みに行き、しかもその度に酷く酔っ払って真夜中に帰宅したり(自力で帰って来れるだけ以前よりセーブしているのかもしれませんが)、財布や携帯を無くしたりするので困っている、との事でした。実際、私と会う時は必ず飲みたがっていました。「お金がないから」と断ると、「奢ってあげるから付き合って」とまで言うので、何だか不憫になって言う通りにしていましたが、その度に酔い方がエスカレートして行くのです。そしてとうとう以前のように絡まれるようになったので、今後暫くは付き合わない事にしました。
また、Aは20代の頃から人間関係に鈍い傾向があったのですが、近頃はその傾向が、一段と強くなって来ています。
あるときAから「うちで忘年会をするから来て」と誘われたのですが、そのメンバーが私の知らない人ばかりな様なので、行ったところで面白くないと思い、断りました。
ところが友人Bだけは、私や他の友人も来ると思って、忘年会に行ってしまいました。案の定忘年会に来ていたのは、Aの元同僚が中心で、Bや私たちが知らない人ばかりだったそうです。しかもBに対して、あまり友好的ではなかったそうで、彼女はいたたまれなくなって途中で帰ろうとしましたが、Aから執拗に引き止められて困ったといいます。
ところが、その次の年にも「同じメンバーで忘年会をするから来て」と誘われました。「去年Dが行って、案の定浮いてしまったそうだから」と断りましたが、(別に酔っている風でもないのに)何故私が出席を嫌がるのか、全く理解出来ないようでした。
その他にも、ある2人が交際中である(逆に不仲である)事が、周りの目には明かであるのに、Aだけはそれに気付かないという事が何度もありました。この傾向は二十代の頃からあって、飲酒していない時でも分からないようです。
最近の例では、他でもないAの御主人が、内心Bの事を快く思っていないらしく、衆人の前で何度か、侮辱的な嫌味を言っていた事があるのですが、何故かAはそれに気付かず、むしろ御主人がBの事を気に入っている、と思い込んでいるようです。
「夫があなたに会いたがっているから、たまには遊びに来てよ」と、本当に屈託なくBを誘っています。Bが返答に困って頭を抱えていても、全く疑問に思わないようです。
Bの話によると、Aの御主人から中傷的なメールが来た事すらあるそうですが、Bがその調子なので、どう応対していいか悩んでいるそうです。
自分自身に対する嫌味や中傷も、Aには殆ど分らないようです。別の友人Cが迂闊にもAの目の前で、「Aの御主人が、(打算でなく)本当にAの事が好きみたいなので驚いた」と言ってしまい、一同凍り付いてしまった事がありました。その時Aは、まだ飲み始めたばかりで殆ど酔っておらず、呂律もしっかりしていましたが、そんな事を言われてもヘラヘラと笑っていました。
でも内心は腹が立っているだろう、と周りは考えていたのに、その後も自分からCと親交を深めようとしているので、みんな驚いてしまいました。
その友人Cは以前から、あからさまにAを嫌う台詞を何度かこぼしていたのですが、Aには全く通じていなかったようです。
またAは、のちにCが居酒屋を始めると、少し前にCとは絶交したDを、強引に連れて行こうとしました。DはCから許し難い仕打ちをされたので、生涯関わりたく無いと言い、そのことをAにも説明してあったそうですが、Dがきっぱり断っても、Aは諦め悪く「そんな事言わずに行こう」と何度も言ってきたそうです。電話だったので、初めは酔っているのかと思ったそうですが、呂律はしっかりしていて、酔っている様子でも無かったそうです。
その話を聞いた上で、Aと話していて気付いたのですが、どうやらAは「嫌い」という感情を理解出来ない(または、理解したくない?)らしいのです。彼女自身、普段は他人に対する嫌悪感情を決して表に出しません。
でもそれは酔っていない時の話であって、酔うと気に入らない相手に絡み(普段はその人とも仲良くやっているのに)、その人の人格を否定するような台詞を、1時間でも2時間でも吐き続けるのです。でも翌日になると、それを全く覚えてないかのように、相手に屈託なく振舞います。まるで二重人格のようです。
また、最近はありませんが、20代の頃のAは、酩酊すると手当たり次第誰にでも抱き付きながら「ねえ、私の事好き?」と執拗に訊ねる癖がありました。「嫌い」というとパニックを起こして暴れ出すので、相手は「好き」と答える他ないのですが、そう言ったら言ったで酔いが醒めるまで纏いつかれるのです。これも翌日になると殆ど覚えてないと言っていました。
Aはそのように、酔うと周囲に迷惑をかけ通しなのですが、その間の記憶が全くなく、周りからその事を指摘されても殆ど思い出せないようです。でも、本人は自分の記憶喪失を怖れるでもなく、自己嫌悪に駆られ反省することもありません。あまり周囲から強く言われると、一度は「もう外で飲むのはやめる」と言いますが、半年も経つと元通りになりますので、本気で反省しているわけではないようです。
こうした症状があるだけでなく、Aは非常に病弱で花粉症も抱えています。それに数分間歩いただけで座りたがるくらい、極端に体力がありません。結婚当初は子供が欲しいと言っていたのに、授かりませんでした。その上アルコールを飲んだら余計体に悪いんじゃないの?と言っているのですが、まともに取り合いません。酒だけは止める気がないようです。
前置きが長くなりましたが、お聞きしたいのは下記のことです。
(1)Aはアルコール依存症が疑われるでしょうか。
(2)Aが人間関係の機微に極端に鈍いのは、アルコールの飲みすぎによる脳萎縮が原因でしょうか。それとも単なる性格なのでしょうか。
(3)Aはヘビースモーカーでしたが、酒と同じくらいの年月吸い続けた煙草は、比較的アッサリとやめる事が出来ました。それなのに酒だけはやめられないようです。なぜ、煙草は止められたのに酒はやめられないのでしょうか?一般的にいって、アルコールは煙草よりも止め難いものなのでしょうか。
以上です。
取り上げていただけたら大変有り難いです。宜しくお願いします。
林:
(1)Aはアルコール依存症が疑われるでしょうか。
アルコール依存症でしょう。
(2)Aが人間関係の機微に極端に鈍いのは、アルコールの飲みすぎによる脳萎縮が原因でしょうか。それとも単なる性格なのでしょうか。
アルコールの飲みすぎによる脳萎縮が原因とは考えられません。しかし、単なる性格というレベルのものかどうかは判断できません。発達障害の疑いもあると思います。
(3)Aはヘビースモーカーでしたが、酒と同じくらいの年月吸い続けた煙草は、比較的アッサリとやめる事が出来ました。それなのに酒だけはやめられないようです。なぜ、煙草は止められたのに酒はやめられないのでしょうか?
この質問には意味がありません。煙草と酒は関係ありません。そしてこのAさんは、アルコールをやめなければ未来には破滅しかありません。