精神科Q&A

 【1368】本人も両親も統合失調症と認めず困り果てています


Q: 妹(30代)と両親とのことについて、ご相談です。長文になりますがお赦しください。
妹は大学院修士課程を卒業後、会社に勤めていましたが、その頃から頻繁に、職場で自分のパソコンをみられている、フリーメールやインターネット電話などは第三者に傍聴されるので使ってはいけない、というようなことをいうようになりました。その後、『自分に言い寄ってくる上司がいる。通勤途中に通りすがりに知らない人から自分の噂話をされる』などといって、会社にいかなくなり、その後自主退職し、数年間自宅で資格取得の為の勉強をしていました。

あるとき、ふと妹の部屋に行き、彼女が買い求めた(膨大な数の)参考書を手に取って眺めたところ、殆どがまっさらの新品であることがわかりました。どうも勉強とは名ばかりで、昼夜問わず、インターネットをしているような状態である事がわかりました。さらに、自分の写真をタレント事務所や結婚相談所に送っていたこともあります(宛先は自宅だと自分の素性がわかってしまうということで、何故か無断で私のマンションが登録先になっていました)。初めは自分の将来の目標が途切れてしまったショックかと思ったのですが、自分の個人情報を非常に気にする反面、インターネットを頻繁にしたり、自分のホームページを作ったり(しかも実名、写真付き)と、考え方に一貫性がないことを疑問に思っていました。

自宅で自分の部屋に1日中籠っている様子を数年間ずっとみていましたが、同居している両親の精神的負担が大きいと判断して、私が仕事の都合で自分のマンションを引き払う際に妹をそこに住まわせました。

両親との適度な距離を保ちつつ、自分の時間を持って欲しいと思いましたし、私が長年住んでいて安全性も高いと思ったからです。そのように両親との物理的距離を離してみて初めてわかったのですが、初めは綺麗だからとマンション自体を気に入っていた様子でしたが、次第にマンションの管理人さんに対しても『自分に対して気がある』とか、『この周りに住んでいる人達は柄が悪い』『自分を色目でみている』『自分の話が盗聴されている』など、虚偽のことを盛んに訴えるようになりました。そこで、大きな違和感を感じて知り合いの精神科の先生にみて頂いたところ『統合失調症』である、との診断を受けました。もともと高校時代から自分の臭いに対しての執着(自分の臭いを誰かから噂されているとか)があったので、おそらくその頃からの発症だろうということでした。ただし、妹は非常に自尊心の高い性格のようで(これが本来の性格なのか病気によるものか..私にはわからないでいます)、事あるごとに治療の障害になります。例えば、精神科の先生に対しての信頼が非常に低く、私でも聞くに堪えないような悪言をいうことをいうこともあります。折角処方された薬(ジプレキサ)も、本当に症状が悪化した時にちょっと飲むだけで、あとは捨てているとのことです。本人には病識がまったくなく、自尊心の高さが治療にも社会適応にも大きな障害になっていることを、これまでの経過から嫌という程感じさせられています。病気の事を本人にも伝えた事がありますが、激高して、逆に私にその薬を飲むようにと薬を送ってきた事もあります。

病識がない場合、具体的に治療はどのようにすすめていったらいいのでしょうか。現在までに2人の精神科の先生にみていただいていますが、両方の精神科の先生の所見は、『まず医者との信頼関係を築くのが先ですから、慎重に対応しないと..』ということで、本人が病院に自主的に通院する形をとっていますが、非常に不定期です。現実には数ヶ月に一回の時もあります。
私自身も患者さんとしての妹への接し方がわからずに、どうしたらいいのか..と思っています。厳しく言う事はせずに、あくまでも本人の自主性を重んじないといけないのでしょうか。それから、上記の症状はすべて病気によるものですか、それとも本人の性質によるものなのでしょうか。

もう一つの大きな問題として、両親が現在の妹を『統合失調症』であると認められないでいます。両親の精神科に対しての偏見があるのかもしれませんが、妹の症状を『段々好転してきている』とか、『そういう色々な事に迷う時期なのだろう』という風に、(あくまでも彼女に対しての接し方に気をつければ)自然治癒で改善されるもの、という風に頑に信じているようです。私や周りの人に送ってくる妹からのメールの内容をみる限り、妄想も幻聴も時々おきていて、とても改善しているとは思えません。私は仕事のため遠距離で生活をしているので、実際には両親と妹との向き合い方に頼るしかありません。叔父や叔母からも両親を説得するように働きかけてもらっていますが、両親は、頑に、むしろ『妹が周りからいじめられているのではないか』などと、妹のいうことを無理にでも信じようとしていて、会話が噛み合いません。

統合失調症の患者さんを抱えている家族の方でもこのように、本人だけでなく周りの家族でも受け入れることに抵抗を示す場合があるでしょうか。そのような場合にどのようにして、説得を試みたらいいのか、本当に困っています。現在も妹は職に就かず、両親の仕送りで生活をしているようですが、本人にはまったく危機感がありません。妹の年齢と両親の老後の事を考えると、残されている時間というのはそれほど長くないと、とても心配です。将来、このような状態でどのように私が関わっていけるのだろう・・と私自身もとても不安になります。私は一刻もはやく、妹の治療に向けて周りから働きかけないといけないのでは..と思うのですが、現実では私と両親との意見の統一すらもできないことに、歯痒さと私自身の力不足を感じるばかりです。
私も離れたところに生活しているので、現実には両親に理解してもらわないと難しい状況です。

ずっと長い間このような状態で悩んでいて、林先生のホームページをみて思い切って相談させて頂きました。
妹の治療、妹への接し方と両親への説得の3点に関してアドバイスなどがありましたら、どのようなことでも是非教えて頂けると大変有り難いです。長くなりましたが、どうぞ宜しくお願い致します。


林: 
両方の精神科の先生の所見は、『まず医者との信頼関係を築くのが先ですから、慎重に対応しないと..』ということで、本人が病院に自主的に通院する形をとっていますが、非常に不定期です。現実には数ヶ月に一回の時もあります。

信頼関係が重要であるというのはもちろん正論です。それが先決というのも正論です。けれども統合失調症をはじめとする精神疾患の中には、病気そのものの症状のために、信頼関係が築けないことも十分にあり得ます。
ですから手順としては、最初は信頼関係の構築を目指すのは当然としても、それが現状では困難ということになれば、入院など強制に近い手段を取らざるを得ないこともあり得るのもまた当然です。この【1368】のケースでは、このまま自主性を尊重しているだけでは病状は悪化するばかりでしょう。

私自身も患者さんとしての妹への接し方がわからずに、どうしたらいいのか..と思っています。厳しく言う事はせずに、あくまでも本人の自主性を重んじないといけないのでしょうか。

「あくまでも」ではありません。上でご説明したとおり、それは正論ではありますが、「あくまでも」というのはきれいごとにすぎません。

それからご両親の問題、

統合失調症の患者さんを抱えている家族の方でもこのように、本人だけでなく周りの家族でも受け入れることに抵抗を示す場合があるでしょうか。

そういう場合は少なからずあります。
そしてその帰結は、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 の、「治療しなかった場合」にある実例の通り悲惨なものです。このような実例をお示しするなどして、ご両親に理解を促していくことが最善の方法だと思います。


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