精神科Q&A
【1340】母や父を殺害してしまうイメージが頭のなかによく再生されます
Q: 二十歳代前半の男、求職中で最近はあまり外出しておりません。学校を退学後実家にて生活しております。病歴は高校生のときから発作性運動誘発性舞踏アテトーゼを治療中で抗癲癇剤(アレビアチン)を服用中です(発症は中学生の頃)。質問させていただきたいのですが、一ヶ月ほど前から自分の経験したことの無い症状に苦しんでおります。以下に症状をあげます。
・まずこれが一番辛く先生に質問させていただく最大の原因なのですが、母や父を殺害してしまうイメージが頭のなかによく再生されます(主に母)。妙にリアルで不気味です。これには波があってなんとも思わないときもありますし、罪悪感と嫌悪感で一杯になり体が熱く冷や汗が噴出す場合もあります。
何故か自分では分からず悩んでおります。気にくわないときもありますが、両親との仲は悪くなく一般的に良好で殺す理由など全くありませんし正当な理由もなく人を殺すと、人道に反するし自分及び自分を取り巻く全ての人々の人生を破壊する事も理解しています。虫も害虫以外は殺さないのに母と居るとき目の前に包丁などがあるとイメージしてしまい体が熱くなり、自分の中でおかしくなった自分の一部と戦っているような気がします。ナイフ等があると自分を傷つけるイメージが沸いてくることもあります。高校生の時も似たことがありましたが、ここまで長く続いて真剣に悩んだこともありません。現状が維持できれば実行してしまうことは無いでしょうが、自分がいつか壊れて人を襲うか自殺しそうで不安です。憎んでいるわけでもなく、ネクロフィリアでも無く殺人好きでもないのに自分が理解できません。
・夜に眠れません、床について四、五時間たっても眠りにつけないのです。どうしても夜に寝たい場合は一日徹夜して翌日の夜に床に就くと何とか眠れます。朝になると眠ることができるのが不思議です。なんとなくですが朝になると安心できるからかもしれません。
・一人暮らしの頃はなんとも無かったのですが最近夜が怖い気がします。一人で夜起きるときは照明をつけてテレビなりラジオをつけておかないと不安になります。視力のせいかもしれませんが、パソコン等をしているとき、視界の端の物が気になりその物が霊的なものに見えたり、就寝中の母の閉じた目が見開いてこちらを見ているような気がしたりします。するべき事がたくさんあるのに一人で夜に起きていると何もやる気が起きません。全体的にも行動力は低下していると思います。
・性欲が低下しました、勃起しても通常より弱いです。想像だけで勃起することもなくなり、快感も低下しています。
・胃腸の調子が良くありません。下痢や便秘と言うわけではないのですが、自分の体では無いようで不気味です。今まで大便は二、三日に一度程度だったのですが、最近は日に数回行くこともあります。あと便を拭いた紙が無色で便臭とは異質な異臭がすることもあります。
ここまでがここ一ヶ月あたりに出てきた症状です。以下は関係は不明ですが自分の気になる要素です。
・数年前から平熱が上昇しまました。三十五度八分あたりだったのですが三十六度五分あたりから三十七度くらいまで平熱があがりました。
・数ヶ月前からワキガ、スソワキガになった気がします、ワキガは他人が分かるほど臭いので違うと両親に言われましたが、少なくとも今までに無かった異臭を放っているのは事実です。勘違いかもしれませんが、顔ににきびが増え体にまで発生するようにもなりました。二十歳代前半にもなってそうそう体質が変わるとは思えないのです。
・自分の好きでもない嫌なものがイメージされることがあります。蛾、醜い人物、不潔なものなどです。
不摂生がたたったかただの夏ばてなら良いのですが、それでは説明のつかない要素が多いのでたまらなく不安です。まだ短いですが、我が人生最悪のときと言えます。自分が壊れて自分が死ぬのは勝手(それでも他人に多少の影響はでますが)ですが、他人を巻き込むのだけは御免です。精神科の先生の診断はうつまで酷くはなく強迫性障害の軽いもので、しかしその薬を飲むほどの酷さではないので睡眠薬だけを出して様子を見てみるというものでした。追加で不潔強迫や数唱強迫があれば薬を出すみたいなことを仰ってました。より多くの先生にご意見を御伺いしたくメールさせていただきました、何卒アドバイスをお願いします。
林: 発作性運動誘発性舞踏アテトーゼは、急激な運動開始や驚愕によって発作性に不随意運動が出る病気ですが、発作のないときは全く異常がないのが普通です。ですから、この【1340】のケースでは、アレビアチンで発作が抑えられていれば、何も問題もない状態が期待できるところです。
にもかかわらず、タイトルの「母や父を殺害してしまうイメージが頭のなかによく再生されます」をはじめとする、いくつかのつらい症状が出てしまっています。
精神科の先生の診断はうつまで酷くはなく強迫性障害の軽いもの
とおっしゃっているとのこと、確かにその通りで、このメールに書かれている症状の多くは強迫性障害の色彩があるものです。
ところで、発作性運動誘発性舞踏アテトーゼには、原因不明のもの(「本態性」と呼ばれます)と、原因としての疾患が別にあるもの(「症候性」と呼ばれます)の2種類があります。【1340】には「発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ」としか記載がありませんので、そのどちらであるかは不明です。が、ここで重要な点は、症候性のケースでは、その多くは大脳の深い所にある大脳基底核という部位に何らかの異常があることです(また、「本態性」でも、大脳基底核の異常が推定されています)。
一方、強迫性障害は、基本的には原因不明ですが、ごく少数ながら、大脳基底核の脳梗塞などの異常によって、強迫性障害とほとんど同じ症状が出るケースがあります。(そして、原因不明とされる強迫性障害でも、大脳基底核の血流に異常があることが、精密な検査で示されることがしばしばあります)。
つまり、この【1340】では、発作性運動誘発性舞踏アテトーゼと、強迫性障害の症状は、どちらも大脳基底核に原因がある可能性があるということです。
したがって、この【1340】の方には、そもそも発作性運動誘発性舞踏アテトーゼの原因が何であったのか、再確認することをお勧めします。もし「本態性」とされていたのであれば、もしかするとそれは間違いで、大脳基底核に病変のある何らかの別の疾患があるのかもしれません。その場合でも、アレビアチンによる発作コントロールという治療方針は変わりませんが、それに加える形で、別の治療が必要になることが考えられます。
また、仮に原因が不明のままであっても、今の強迫症状があなたにとって非常につらいものなのであれば、強迫性障害としての薬物療法(主として抗うつ薬の処方になります)を受けたほうがいいでしょう。