精神科Q&A
【1315】繰り返す左半身の麻痺で、身体表現性障害と診断されました
Q:
私は40歳女性です。看護師です。
昨年9月の仕事中に突然左半身の脱力感にみまわれ、立位が不可能となり、救急外来に運ばれました。一過性脳虚血発作との診断でMRIをとりましたが梗塞像はまったくありませんでした。しかし、微小血栓の可能性もあるとのことで、脳神経外科病棟に入院しキサンボン等の治療を開始しました。翌日に左の脱力感は軽快しましたが、入院3日目に意識消失発作を起こしました。そのときより、全身の脱力感が強くなり、まっすぐに歩けなくなりました。入院は梗塞の治療と、リハビリを行い、16日間のみで退院しました。しかし以後約2ヶ月間はふらつき強く、職場復帰は無理でした。この間に、耳鼻科的・循環器科的にも精密検査しましたが異常はありませんでした。
2ヶ月が過ぎて職場復帰はしましたが、時々宙を歩いているようにふわふわした感じはおこり、時にはふらつきが強く2・3日仕事を休むときもありました。
そして、今年の6月に、また、左の不全麻痺出現し、今度は神経内科病棟に入院しました。多発性硬化症の疑いもあるといわれ、精密検査を行いましたが、抗核抗体が+ 血清補体化が低くなっている以外は、MRI的にも神経伝導速度的にも異常はありませんでした。神経内科のDrの症例検討会で出た診断名は身体表現性障害でした。心の病気があるのではないかといわれました。
今思い返すと、昨年9月は、仕事的に忙しく、昇格したプレッシャーも少なからずあったと思います。でも、仕事は楽しかったので、苦痛には思っていませんでした。しかし、仕事量が増え、帰りが遅くなったことで、家族からのブーイングが多くなり、嫌だった覚えはあります。
今年6月は仕事はまったくつらくなく、むしろ楽しいくらいでした。
しかし、夫の帰りが遅く、私が起きて待っていないと、ものを蹴散らしたりして荒れていることがストレスではありました。自分が仕事で疲れていても、子供のことに関して夫の協力はまったくないため、不満に思ってもいました。夫の言うと、「おまえも遅いくせに勝手なこと言うな!」と反対に怒鳴られるため、もうなにもいわず無視状態でした。
きっとそんなことがストレスになって、突然無意識に症状になって表れてきたのかなと考えます。
今後の方向性として、ストレス診療科にかかって、なにか治療を受けた方がよろしいのでしょうか? 看護師の仕事はかなりハードで、今後続けていけるかどうかが不安です。よろしければアドバイスお願いします。
林: 多発性硬化症は、心因性の疾患と誤診されることが非常に多い病気です。この場合の心因性疾患には身体表現性障害も含まれます。すなわち、身体表現性障害と診断されていた方が、あとになってそれは多発性硬化症だったことがわかることがしばしばあります。質問者は看護師とのことですので、説明するまでもないかもしれませんが、MRIをはじめとする検査は、陽性所見が出れば、多発性硬化症という診断の強い根拠になりますが、陰性所見だった場合には、それをもって多発性硬化症でないということにはなりません。ここに、多発性硬化症の診断の困難さがあります。したがって、原因不明の神経症状が認められた場合、検査で何も所見がなければ、多発性硬化症かもしれないし、身体表現性障害かもしれないのです。これを鑑別する決め手はなかなかありません。
左の不全麻痺出現し、
これが、神経学的にあり得ないパターンの麻痺であれば、身体表現性障害の可能性は高まります。けれども、「左の不全麻痺」としか記載されておりませんので、それが神経学的にあり得るパターンの麻痺か、あり得ないパターンの麻痺かは判断できません。しかし、神経学的にあり得ないパターンの麻痺であれば、最初の時点か、あるいは少なくとも早い時期に、精神科にまわされたはずですので、おそらく神経学的にあり得るパターンの麻痺だったのでしょう。だとすると、確定診断は困難です。
神経内科のDrの症例検討会で出た診断名は身体表現性障害でした。
この記載も、詳細が不明なので何とも言えません。診断名が出たというだけではわかりません。検討会では身体表現性障害という診断名が出るのは当然です。問題は、その検討会で、身体表現性の可能性が高いという結論になったのか、それとも単に診断名が出て議論されただけなのかということです。ですから、
今後の方向性として、ストレス診療科にかかって、なにか治療を受けた方がよろしいのでしょうか?
この問いには回答不能です。
が、総合的にみて、神経内科と精神科(この【1315】の方の病院では精神科を「ストレス診療科」と呼んでいるものと思われますが)の両方の診療を続け、慎重に経過をみて頂くのが最善だと思います。つまり、多発性硬化症の可能性はまだまだ消えていないと考えるべきです。