精神科Q&A
【1267】手術後せん妄への対応方法はありますか
Q: 私の祖母(86歳)は、10日前に足の骨折のため全身麻酔をして手術をうけました。
翌日以降から、目つきが変わったり、一日中激しく手を動かしたり、口の中が切れるまでしゃべりつづけたりと、今まで見たこともない症状があらわれ始めたそうです。ある日は穏やかになり、おちついた状態で普通に近い会話ができることもあるようです。
毎日お見舞いに行っている母から、症状を聞き、素人判断ながらネットで調べていると、術後せん妄というものがあることを知りました。
祖父が亡くなって約20年独り暮らしを続け、85歳を過ぎるまで、大きな病気をしたこともなく、手術や入院経験もないという中で、今まで気をはって生活していたものが、過剰なストレス、特異な環境の中で溢れ出たためだと思い、術後せん妄であれば、その回復の可能性を信じてもう少し気を落とさずに待ち続けようと思っています。
しかし、主治医の先生をはじめ、母は毎日通っている病院で、術後せん妄という説明も特に受けていないようです。
症状のひどいときは軽い精神安定剤のようなものをあたえられているようですが、術後せん妄にとってこうしたことは回復へとつながる治療になるのでしょうか?
多くのせん妄は治癒するとありますが、治療が遅れたり、手間取ると慢性化してしまうの ではないかと心配でなりません。
【1239】で3週間せん妄状態が続いたけれども回復したというケースを拝見しましたが、早く治ってくれることを願うばかりです。
林: 経緯と症状から考えて、ご指摘の通り、術後せん妄の可能性が高いといえます。【1218】などに述べたとおり、せん妄は基本的に完全に回復します。
症状のひどいときは軽い精神安定剤のようなものをあたえられているようですが、術後せん妄にとってこうしたことは回復へとつながる治療になるのでしょうか?
せん妄の回復のための一般的な治療については【1079】をご参照ください。
なお、さきほど私が「せん妄は基本的には完全に回復します」と言ったのは、単なるせん妄だけでなく、何らかの合併症があると、回復しないことがあるからです。たとえば【1242】は、一見するとせん妄と思えるかもしれませんが、その回答に記した通り、脳梗塞による症状である可能性が高く、そうなると完全な回復は期待できないことになります。
そしてこの【1267】も、脳梗塞の可能性をチェックすべきと思います。というのは、骨折の手術の合併症として、骨折部分から微小な組織片が血管内に入り、これがどこかの血管を詰まらせることがあるからです。これを塞栓といいます。脳に塞栓が生じれば脳梗塞となり、【1267】ではそれを合併している可能性を否定できません。
もっとも、
ある日は穏やかになり、おちついた状態で普通に近い会話ができることもあるようです。
これは非常にせん妄らしい経過であり、総合的にみて(【1242】とは違って)、脳梗塞の可能性は低いでしょう。しかし確認は必要です。脳のCTかMRIを撮れば通常はすぐわかります。
そして合併症がなければ、たとえ現在の症状がいかに激しいものであっても、【1218】と同様、完全な回復が期待できます。ただしご高齢であることから、回復過程で身体の状態が悪くならないように注意することは重要です。