精神科Q&A

 【1224】被害妄想の母を受診させたが、家族の内輪もめが原因と言われた


Q: 66歳の母の症状について、私、38歳の実娘がお尋ね致します。
下記の内容から、母は、病気なのでしょうか?それとも、ただのストレス(家族のうちわもめ?)なのでしょうか? 又、病気の場合、病名は何でしょうか? ご回答の程、宜しくお願い致します。

約7年前から、約1年半前迄、私達家族(主人・娘・私)と母は同居しておりました。同居から5年が過ぎた頃です。同居のストレスがピークに達していた頃、最初の症状に気づきました。

突然、「大事にしていた書類が無い」・・と騒ぎ、「私や主人が盗んだ!」と言い張るのです。私たちは、訳もわからず、何の書類かを訊いても、母もその書類がなんなのか説明もできずに、一方的に血相を変えて怒鳴るだけでした。その後も、書類やお金、自分の持ち物など、品を替え度々ありました。私の勤務先にまで電話を掛けてき、問いただされました。

また、私と主人にいじめられていると思い込み、娘を含め三人で出掛けて帰ると、出掛けた先が全く別の所にもかかわらず、親戚に自分の悪口を言いに行っているのではないかと疑い、親戚中に電話をしていたことがありました。

また、知り合いに電話を掛けまくったり、突然、電話線をジャックからはずし着信音がならないようにしてしまったり、私が作った食事を全部食べた後、あれはまずかった。とか、年寄りにあんなもの食べさせて病気になるわ!など自己中心的な言動も多くありました。
但し、他人(知り合い)と話す時は、全く普通なのです。
さらに、些細な事の判断ができないことが多く、回答を求められ答えても、大抵は、自分自身、2転3転し、結論を出せず、もういい! 親身になってくれないと不満になります。

その他体の症状としては、頭痛、ご飯がむせる、眩暈、ひどい耳鳴り等でした。その都度、耳鼻科、脳神経外科でのCTに連れて行きましたが、異常はありませんでした。

精神科には、半騙しで、1度だけ、やっとの思いで連れて行きましたが、ニコニコして答える母を見、物忘れテストで高得点を出した母に、20代の女性の先生は、「どこも悪くありません。家族のうちわもめが原因でしょう。」という答えでした。後で、母は、その病院が、精神科だったことを知り、さらに、私に警戒心を抱くようになってしまいました。

1年半前から、母の言動でストレスがかかった私の方が参ってしまい、今は、近くで別居しています。お互い、同居のストレスがなくなり、一時よりは、母も落ち着いているように感じられます。(ずっと一緒に居ないのでわからないだけかもしれません。)食事の支度や、病院通いなど、身の回りの事は自身でなんとかやっているようです。但し、寒さ、暑さの厳しい時期や、季節の変わり目などは、今でも、突然、泥棒扱いされます。決まって、「大事な書類が無くなった。」です。また、電話は、些細な内容で、1日に何度も掛けてきます。いじめられているという意識は薄くなってきているようです。先生如何でしょうか? 


林: 60歳前後にこのような形の妄想が始まった場合、もっとも考えられる病名はアルツハイマー病です。「このような形の妄想」とは、

「大事にしていた書類が無い」
「私や主人が盗んだ!」


などを指し、「物盗られ妄想(ものとられもうそう)」と一般に呼ばれています。アルツハイマー病にかなり特徴的な妄想です。

耳鼻科、脳神経外科でのCTに連れて行きましたが、異常はありませんでした。

とのことですが、アルツハイマー病の初期にはCTには異常は認められないことはごく普通にあることです。そのような時期でも、脳の血流の検査(SPECT スペクト)を行なうと、異常がとらえられることは多いことは、【0435】【0703】にお書きした通りです。

また、

精神科には、半騙しで、1度だけ、やっとの思いで連れて行きましたが、ニコニコして答える母を見、物忘れテストで高得点を出した母に、20代の女性の先生は、「どこも悪くありません。家族のうちわもめが原因でしょう。」という答えでした。

とのことですが、この医師は全く未熟と言わざるを得ません。「物忘れテスト」(これが何であるか、具体的なテスト名の情報がほしいところですが、どのテストであっても回答は同じです)だけでアルツハイマー病初期の診断ができないことは医学的常識ですし、また、この【1224】のような妄想は他の病気の可能性も考えられますので、テストだけでは診断できないのは当然です。

上記の「他の病気の可能性」とは、たとえば統合失調症や、それから

頭痛、ご飯がむせる、眩暈、ひどい耳鳴り等

などの症状からは、他の変性疾患も考えられます。
「家族の内輪もめが原因」などということはあり得ません。残念ながらあまりにひどい精神科を受診してしまったと言うしかありません。

しっかりした精神科を受診し直すことを強くお勧めします。アルツハイマー病であれば、薬物療法によりある程度は進行を遅れさせることができますから、少しでも早く受診し治療を開始すべきです。また、妄想に対しては抗精神病薬の効果が期待できます。


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