精神科Q&A
【1214】人と接したくない、悪口が聞こえる、下垂体に腫瘍がある
Q:
30代の女性です。長い文章で大変申し訳ありませんが,下記の質問1〜2についてお答え下さると幸いです。
質問1.
私は小学生くらいのころから,一人でいたほうが落ちつく,協調性がないという性格でしたが,友達もおり楽しく過ごしていました。
高校生の時にいじめを受けて以来,勉強意欲が低下し,成績が著しく下がりました。また,人の顔を見て話ができなくなりました。
なるべく悪口を言われないよう目立く地味になり,ファッションにも興味が無くなりました。感情を表に出さないよう無表情になり人前で笑わなくなりました。
趣味については家で音楽を聞いたり,絵を書いたりできましたが,集中力が無くなった気がします。
休み中も外出する気になれず家にいて漠然と死にたいと思うこともありました。
なんとか高校は卒業でき,上の学校に進学しましたが勉強意欲がわいた以外は高校時代と変わらず,常に人に対し不信感がありました。特に人の悪口に関して,ものすごく嫌悪感があります。就職してから現在も変わりません。
全てについてではありませんが,周りが楽しいと思うことが楽しいと思えず常につまらない気持ちです。
人と接するとお金もかかり,トラブルになると嫌なので友達を作ろうと思えませんし,自分から人に接したいとも思えません。人と接して楽しいと思えず,むしろ苦痛です。
また,人との距離のとり方がわかりません。この状態は人格障害なのでしょうか。
質問2.
6年前の出産後から,仕事以外の休日の外出が億劫(子供が泣いたり騒いだりするのが嫌なため),人に会うのが嫌で近所を歩けない,自宅の生活音が漏れるのが嫌で自宅の窓を開けられないといった状態でした。
2年前から職場や近所の人,保育園の園児の親や先生からも悪口を言われ始め,以前より増して外出するのが億劫になり,近所の人の話し声が聞こえるのが嫌で窓を開けられない,気分が落ち込む,泣きたくなる,食欲がない,家族以外の人と会いたくないといった状態になり,休日は疲れて横になることが多くなりました。
心療内科・内科が併設された病院へ行き,5年前発症し4年前に軽快した橋本病の再発の可能性もあったため,血液検査をしましたが異常はみられませんでした。
そのときは適応障害と診断され,パキシル錠10mgとプリンペラン錠5mgを処方され,2ヶ月ほど飲んでいましたが,(担当医からは半年位飲むよう勧められていました。)診療費や薬の金額が高額なことと,引越したことで症状が軽快したため(外出が億劫,人に会 うのが嫌で近所を歩けない,という状態はまだありました)通院を中止し,以来診察・投薬を受けていません。
引越の1年後,職場でのリストラ決定から,他の人からの悪口や嫌みの回数が多くなり,生徒にも勤務中や休日の外出先で悪口を言われ,休日に外出できなくなりました。
また仕事が忙しくなったため,食欲不振になって体重が1ヶ月で7キロ落ちました。
自宅でめまいがしたため,念の為脳神経外科でMRIを受けてみたところ,下垂体に腫瘍があったものの,良性で視神経を圧迫していないため,経過観察となりました。
同時に血液検査も受け,甲状腺等のホルモンの値は正常範囲内でした。(結局その時は貧血と診断され,現在は治っています。)
この頃から体が疲れやすくなり,休日は疲れて横になることが多くなりました。
人の話し声が自分の悪口を言っているように思え窓を開けられない,気分が落ち込む,人に会えない,人が大勢居る所に行けない,電話をしたり電話に出られない,人と接するのが嫌という状態になり,職場を退職しました。
その後も窓を開けてなくとも自分の悪口が隣の部屋や換気扇を通して外から聞こえる,人と話せない,家族が信用できず離れたい,自分に価値がなく思え死にたいと思うようになりましたが,2ヶ月後その状態は収まりました。
現在も外出が億劫,疲れやすい,人の話し声が自分の悪口を言っているように思え窓を開けられない,家族以外の人に会うと針のむしろ状態でひどく疲れる,人が大勢居る所に行けない,電話には出られるが電話をしなければならない時も電話ができない,もともと好きだった音楽を聞いたり,絵を書いたりという趣味も楽しめない状態です。
人の顔を見ることもできず,話どころか挨拶もできません。
自分のこの状態が子供の成長の妨げになるかと思うととても不安です。
心療内科や精神科へ行って治療を受けたほうが良いのでしょうか。
だとすると考えられる病名は何でしょうか。また,現在の状態は下垂体の腫瘍が原因でしょうか。
林:
質問1.に関しては、
この状態は人格障害なのでしょうか。
いいえ、人格障害ではありません。
あなたは仕事も結婚も出産も特に問題なくされているわけですから、社会に十分適応しているといえますので、人格障害ではありません。質問1.に書かれている内容は、正常範囲の悩み、あるいは個性とでも言うべきレベルと判断できます。
質問2.に関しては、
6年前の出産後から,
という発症は産褥期精神障害の形です。ただし産褥期精神障害と呼ばれるものの中には、いろいろな種類の病気が含まれています(【0080】をご参照ください)ので、これだけでは何とも言えません。
2年前から職場や近所の人,保育園の園児の親や先生からも悪口を言われ始め,
この症状と経過からは、統合失調症を第一に考えるのが普通です。ここに書かれているそのあとの経過も統合失調症に一致しています。だとすればまず薬物療法ということになりますが、気になるのは
MRIを受けてみたところ,下垂体に腫瘍があった
という点です。
この腫瘍は、【1214】の精神症状(幻聴や被害妄想)の原因である可能性があります。かなりよく似た症例も発表されています。
なお、
良性で視神経を圧迫していない
このことは、精神症状の有無とは無関係です。つまり、腫瘍そのものは良性であっても、精神症状の原因になりうるということです。したがって、
現在の状態は下垂体の腫瘍が原因でしょうか。
その可能性は十分にあります。しかし、もちろんそうでない可能性もあります。残念ながらはっきりさせるためには、おそらく過去の症例のように、手術で腫瘍を切除し、症状がどうなるかを見る以外にないと思います。精神科(このケースでは、脳外科もある大学病院をお勧めします)を受診し相談なさってみてください。