精神科Q&A
【1189】高校を中退し引きこもりの甥
Q:
この度は、甥のこと(仮にRとします)で先生の所見をお伺いしたくメールしました。
Rは現在18歳です。通常であればこの3月には高校を卒業し就職なり大学進学をしている年齢ですが、県立高校入学後わずか1週間で学校に行かなくなり1学期終了時点で退学届けを出し、その後は今後の進路を考えるという本人の希望で自宅で暮らす毎日です。離れて暮らしているので、Rの一面のみを捉えた内容になってしまっているのかもしれませんが、以下に、Rの様子を記しました。
退学届けを出した理由は、学校がなんとなく合わないということでした。本人曰く、もっと自分には力があるはずでそのようなレベルの学校へ行くのは不本意ということのようです。県立高校のほかに有名私立高校を受験し不合格であったことはRの父親から聞きました。私は、そんな上のレベルの高校を希望していたことに意外な感じをうけました。というのも、客観的に見て成績は中の下の方で(本人の口からも学校の成績は良い方では無いということでしたし)、受験勉強も3年の夏休みを過ぎた辺りから始めたようで、そんなレベルの高い高校を目指して勉学に励んで言う様子も伺えませんでした。外資系で英語関連の仕事をしていた私に英語の勉強法を尋ねる一方で、英語なんて簡単だから英検1級なんてその気になれば半年で自分(R)は合格できるよと言っていました。しかしながらRは、英語が特に得意なわけではありませんし、根拠の無い自信に私は説教したい気持ちでしたが、あまりの自信過剰に唖然とした気持ちでもありました。
中学2年の後半から3年の受験の頃は、大学院で心理学を勉強したいとよく口にしていました。退学後は将来何がしたいかを模索している様子で、年に一度法事で会う毎に将来の希望が変わっています。退学直後は、新聞配達のアルバイトを始めましたが1月ほどで辞めました。理由は、15歳の年齢の自分(Rのこと)に早朝4時から仕事をさせている新聞販売店は法律違反である、朝早い仕事の割にはあまり良い収入ではないので辞めたとのことです。次に、オートバイの免許を取り、バイクに関連した仕事をしたいということになりました。ある日、私の父(地方住まい)から電話があり、”今Rが来ている”との話。何か良い仕事が無いか訪ねてきたとのこと。1週間ほど田舎にはいましたが結局職につけなかったので実家に帰ってきました。Rが田舎を訪ねたことは私たちにとってはかなり唐突な感じでした。バイクにはずっと興味を持っているようでハーレーダヴィッドソンはアメリカでは人気があるの?と、7年ほどアメリカで暮らしたことのある私に聞いたりしていました。その間に大検受験の話も本人の口からありましたが、そのための勉強をしている様子も見えませんし、受験もしていないようです。
Rは、中学2年の2学期頃までは、野球部で活躍しており県大会でもかなり上位に食い込むほどの力があったようですが、怪我がもとで退部しました。本人は、野球推薦で高校進学を希望していたようですがその道が閉ざされてしまい、それからすこしずつ以前の明るさが無くなっていったように感じます。話し方もあまり喉が開いていない感じに聞こえる声で話します。感情は穏やかで一定しています。
将来の進路を模索していろいろ悩んだりすることは、青年期には誰もが通る道だと思うのですが、Rの思考・行動は一貫性に欠けるところが多く、統合失調症的な感じを受けたりします。不本意でも高校に通いながら、或いは何か一つのことを継続しながら試行錯誤の行動をするのなら私も納得がいくのですが。また、引きこもりの生活からうつ状態なのではと心配しています。Rの父親(私にとっては義理の兄)は、状態改善を宗教に求めているようですが、さほど心配しているようでもありません。或いは、心配している様子をあまり人に知られたくないのかもしれません。
Rの母親(私の姉)は、Rが小学5年生のときガンで亡くなりました。その姉が生前、”うちの次男(Rには2つ年上の兄がいて現在大学2年生で、しっかりした性格です)は、赤ちゃんのときはなかなか寝付かず夜、ドライブと称して車に乗せて寝かしつけたりした事もあった”、”社宅に住んでいるとき、ベランダから階下に向かっておしっこをしたり本当に目が離せなかった”と、話していたことがあります。幼児のこのようなことと、今の引きこもり状態の生活と関連があるのかわかりませんが、Rが精神科での診察を必要とするような状態にある或いは可能性があるなら、叔母の立場から手助けができればと思います。
お忙しいとは思いますが、先生の所見を宜しくお願い致します。
林:
将来の進路を模索していろいろ悩んだりすることは、青年期には誰もが通る道だと思うのですが、Rの思考・行動は一貫性に欠けるところが多く、統合失調症的な感じを受けたりします。
ご指摘の通り、Rさんについての描写からは、統合失調症的な印象があることは否定できません。
けれども、今の時点で統合失調症と診断できるほどの状態でないことは言うまでもありませんし、また、統合失調症的という印象が間違いである可能性も否定できません。
このような段階で、Rさんのために何ができるかというのは、非常に難しい問題です。統合失調症を将来発症する可能性が高ければ、あるいは現在すでに統合失調症になりかかっているとすれば、なるべく早く精神科での治療が必要でしょう。
しかしそうでなかった場合、つまりこの【1189】の質問者の方のおっしゃるような、「青年期には誰もが通る道として、将来の進路を模索していろいろ悩んでいる」のであれば、精神科での治療は場合によってはマイナスにもなりかねません。ですから、
Rが精神科での診察を必要とするような状態にある或いは可能性があるなら、
この点についての回答は、「わかりません」とせざるを得ません。いや、「可能性」だけをいえば、確かに可能性はあるといえるでしょう。しかし、実際には精神科が必要ないという逆の可能性に伴うリスクをおしてまで、受診する必要があるかどうかはわかりません。
このあたりの問題は、【1190】にも比較的詳しくお書きしましたので、ご参照のうえ、どのようにされるかお決めください。