精神科Q&A
【1174】うつ病の中途覚醒と持続性勃起
Q: 30代の男です。半年ほど前から,仕事・家庭のストレスで不眠となり、うつ病と診断されました。現在も治療中です。
治療は投薬が中心で,抗うつ薬としてトレドミン25mg日3回,アモキサン25mg日3回,あと,睡眠薬はサイレース4mg,ハルシオン0.25mg,アモバン10,ソメリン10mg,精神安定剤にレキソタン5,ワイパックス1.0です。
仕事を続けながら治療しているのですが,これだけの睡眠剤を飲んでも中途覚醒で苦しんでいます。しかも4ヶ月前に抗うつ薬が増量したころから,中途覚醒したときに再度寝ようとしてもペニスが勃起したままで眠れません。精神科,泌尿器科でも,はっきりしたことは分からないが多分抗うつ薬の副作用だと思うといわれました。もちろん対処や処方箋にかわりはありません。毎日苦しんでいます。何かよい処方箋はないでしょうか。
林:
抗うつ薬が増量したころから,
という経過からすると、やはりこれは抗うつ薬の副作用と考えるべきでしょう。
しかし持続性勃起は、抗うつ薬(あるいは、あなたに処方されている他の薬)の副作用としては、稀なものです。このことと、中途覚醒したときにのみ生じるというパターンからすると、これはむしろ抗うつ薬(あるいは他の薬)の、睡眠に対する影響から来ている可能性があると思います。
人間の睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠があり、一晩のうちにこれらを交互に繰り返しています。レムとノンレムを定義するとなると厳密で難解なのですが、ごく簡単にいうと、夢を見ている睡眠がレムで、それ以外がノンレムということになります。(この言い方は厳密には誤りですが、おおむねはそうだということです)。そして、レム睡眠の時の体に起こる変化に、ペニスの勃起があります。
また、うつ病の睡眠障害の特徴として、レム睡眠が減っている、あるいは、睡眠に入ってからレム睡眠までの時間が短くなっているということがあります。
そして抗うつ薬は、レム睡眠を抑える作用があります。「レム睡眠を抑える」というのは実は単純な説明で、これもおおむねはその通りなのですが、実際は複雑で、「レム睡眠に影響する」くらいのほうが正確な表現といえるでしょう。
ですから、この【1174】のケースで、「抗うつ薬を増やした頃から、中途覚醒時にペニスが勃起して眠れない」というのは、抗うつ薬がレム睡眠に何らかの影響を与えたためと考えられます。
また、話がどんどん複雑になって恐縮ですが、抗不安薬もレム睡眠への影響がありますので、【1174】の男性が飲んでおられるどの薬も、原因として関与している可能性は否定できません。
とは言っても、抗うつ薬の影響が最も考えられますので、抗うつ薬の処方の調整が、対策としては最善でしょう。具体的には、(1) 抗うつ薬の種類を変える (2) 抗うつ薬を飲む時刻を変える が考えられます。抗うつ薬の効果の方は、一日のうちのいつ飲んでも変わりはありませんので、夜の副作用でお困りの場合は、朝や午前中に多く飲むようにするというのがまず試みるべき方法でしょう。
それから、不眠に関しては、今の【1174】の処方でも改善しないとすると、これはかなり重度の不眠と言わざるを得ません。今の処方はベンゾジアゼピン系の薬が大量に出ていますが、別の系統の薬に置き換えることも考えていいでしょう。そして不眠の改善がすれば、中途覚醒時の勃起という悩みも解消するでしょう。