精神科Q&A
【1165】娘は強迫神経症から統合失調症になったのでしょうか
Q: 20代後半の娘のことで、ご相談いたします。
娘は幼い頃よりおっとりとした性格です。高校に入り間もなく周りから無視されるいわゆる (シカト)のいじめに逢い、やがて自ら殻に閉じこもり学校で周りと話さなくなったそうです。 これは、後に本人から聞いた話です。学校へは1日も休まず通いました。当時、娘が顔を頻繁に洗う姿が気になった妻が心配して精神科へ連れて行きました。娘の話によると先生から胸から声が聞こえるでしょうと聞かれたので、聞こえないと答えたのに、先生は分裂病だと言ったとのことですが、薬は出ませんでした。病院へ行ったのはその1回だけです。私を精神科へ連れて行ったと、娘は非常に怒っていましたが、それ以来頻繁に顔を洗うことはなくなりました。
娘は今の勤務先で5年以上になりますが、夜勤もあり、勤務時間が過ぎてもなかなか帰れず辛いそうです。昨年の4月、リーダー的な立場を任され更にきつくなったようで、不眠、めまいを訴え辞めたいと言うようになりました。心配した私と妻は娘の休日にアパートを訪ねました。部屋の中はきちんとしており、娘も意外と元気でした。最近、土曜日の夜になると、隣の部屋から数人の話し声が聞こえ深夜2時ごろまでうるさくて眠れないと言っていました。最初は土曜だけだったのが、昨年10月ころからは金曜〜日曜(日曜は少ない)へ拡大したようです。聞こえてくる話の内容については、「チョーヤベー」、「マジカヨー」といった言葉が聞き取れるそうです。月に1〜2回、夜勤明け(大体土曜日)に泊まりで家へ帰ってくるのですが、家では変わった様子は見られません。
今の仕事を辞め楽な日勤の仕事をしたい。疲れてどう帰ってきたか分からないことが2度あった。手相を気にしたり、自分は負け組みで一生結婚できない。その他いくつか気になることがあり、9月に2人で娘のアパートを突然訪ねました。部屋の中は乱雑ではないものの埃が溜まり掃除をしてない状態でした。ただし、テーブルの上は食べ物のかすが少しでも落ちると気にしてすぐに拭き取っているのが異様でした。妻は本などを読み統合失調症ではないかと思うようになりました。
そこで、娘に疲れているようだからメンタルクリニックへ行くよう説得したのですが、 受け入れないため私たちが行って今までのことを説明しました。先生の話では統合失調症の疑いがあるので、できるだけ早く受診したほうが良いとのことでした。娘の住む地区の保健所にも相談に行きましたが、とりあえず様子を見ようとのことでした。
娘の勤務先を訪ね、上司の方に様子を伺いましたが、元気でやっており変わった様子は見られないとのこと何かあれば連絡をもらうことになっていますが、今のとこ連絡はありません。
最近の娘の状態で気になることは、
1.部屋の鍵をいつもの場所に置いたはずなのに、1時間ほど探したが見つからず
新しい鍵に付け替えた。
2.電波が弱くパソコンのインターネットがつながらなくなったと言っていた。
3.突然、電話をかけてきて留守の間に部屋に入ったでしょうと怒ってきた。理由を
聞くと出した覚えのない皿が2枚出ていたとのこと。
4.家に来て、夜寝るとき神社のお守りを枕元に置いていた。
5.以前は家に来るときはシャンプーまでを持ってきたのに、最近は風呂にも入らない。
6.歯磨きをしたのに30分後にまた歯を磨いていた。
娘は強迫神経症から統合失調症になったのでしょうか?
幻聴は特別な場所、時間(例えば自分の部屋で土曜日の夜だけ)で起ることはあるのでしょうか?
一日も早く、受診させたいと娘に色々試みていますが、思うようにいかず月日ばかりが経ち毎日悩んでいます。アドバイスをお願い致します。
林: 娘さんは統合失調症の可能性が高いと思います。
当時、娘が顔を頻繁に洗う姿が気になった妻が心配して精神科へ連れて行きました。
高校入学後のこの症状は、統合失調症の初発であったのだと思います。統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のcase 27 (156ページから)に記したとおり、統合失調症が若い年齢で発症する場合、強迫行為(強迫性障害と区別がつかない場合も、単に外見上強迫に見えるにすぎない場合もあります)が初発症状であることもしばしばあります。ですから、
娘は強迫神経症から統合失調症になったのでしょうか?
「強迫神経症(強迫性障害)から統合失調症になった」というよりも、強迫症状が統合失調症の初発症状だったと見るべきでしょう。また、
高校に入り間もなく周りから無視されるいわゆる (シカト)のいじめに逢い、やがて自ら殻に閉じこもり学校で周りと話さなくなったそうです。 これは、後に本人から聞いた話です。
この「いじめ」も、実は被害妄想であったということも、統合失調症の初発時にはよくあることです。
そして、「最近の娘の状態で気になること」としてあなたが書かれている6項目は、いずれも統合失調症の悪化を反映しているエピソードであると解釈できます。また、
幻聴は特別な場所、時間(例えば自分の部屋で土曜日の夜だけ)で起ることはあるのでしょうか?
統合失調症の幻聴は、患者さんによっては、特定の状況で起こりやすいということは時にあります。けれども、おそらくこの【1165】のケースでは、他の状況でも幻聴があると思います。幻聴の有無は、ご家族にはなかなか正確に把握できないことも多いものです。
一日も早く、受診させたいと娘に色々試みていますが、思うようにいかず月日ばかりが経ち毎日悩んでいます。
スムースな受診が困難でお悩みであることはよく理解できます。しかし、あなたがおっしゃるとおり、一日も早い受診が必要です。治療が遅れた場合、あるいは治療しなかった場合の帰結については、統合失調症 患者・家族を支えた実例集 の第五章「治療しなかった場合」をお読みください。早く治療を開始し、良い経過になることを願っています。