精神科Q&A
【1140】薬を飲まず再発し、自分の世界だけに生きている妻
Q:
私は50代の男です 家内48歳は、12年前、近所のトラブルから被害妄想的な発言が多くなり我々には見えない物が見えたり聞こえたりすると言うようになり、大学病院を受診しました。精神的ストレス、過労からだろうということで、はっきりした病名も聞かず薬を処方され 2週間に1度の通院と毎日の服薬を命じられました。
最初のうちは 家内に同行し受診に付き添いました。そして服薬のかいもあり被害妄想的な事も言わなくなり 受診に同行するのを止め家内一人で行かせるようになりました。半年たった頃でしょうか また 前回のような妄想めいた事を言うようになり その時知りました・・・・家内は薬を飲むとダルくなると断薬して 受診を止めてしまっていたことを・・・・!
再度受診を進めるも 聞き入れてくれず・・・ まだこの段階で私は家内がどんな病名なのかも知りませんでした。病院には同行しますが、待合で待つだけで担当医と話すことはありませんでした。子供も低学年でもあり、また私も仕事などで時間が取れず 無理やりでも連れていこうとしましたが出来ず・・
そのうち、夫である私に無断で、家内の身内が それは妄想などは悪霊だと、わけのわからぬ霊媒師などでお祓いしたようでした。
それからです 急激に幻聴や妄想が酷くなり、家の壁に盗聴器があるとドンドンと叩く 頭の中で聞こえる声と喧嘩腰のように会話するようになって行きました。
病院に行こうと進めても 私を病人扱いする! お前は悪魔だと・・
家事もしなくなり、セルフケアも落ち・・感情も鈍磨して行く妻・・ どうにかしなければと思いながら、家内の代わりに子育て、学校行事、家事を引き受けた私には、家内を病院に連れて行く事が、年々希薄というか・・疲れてきました。
外では奇行などしないので 家の中だけでわめくだけだからほったらかしにしたと言われて仕方ないかもしれません。
どうにか 子育てを一段落させた 5年前に、最初の受診から7年後に再度ケースワーカーさんなどの手を借り行政介入で受診させる事が出来ました。医師からは、奥様は統合失調症ですと告げられました。以前の大学病院の説明もしますと、その頃から発症していたのでしょうとの医師の判断でした。 病状も重くはないけれども、未治療の期間と奥さんの頭の中で絡まってしまった心の糸を解すのは容易ではないでしょうと言われ 一日リスパダール2mgを処方されました。
リスパダールを飲み始めてからは、大声でわめくことも少なくなり、家事も少しずつこなし、夜もちゃんと眠れているようでした。通院も2週間に1度通っておりました。 医師は家内には病名は告げず 神経症みたいな風に言っていたようです。
ところが・・・2年たった頃でしょうか また 妄想 幻聴 大声でわめくなどが始まり、セルフケアが落ちて来ました。
家内に薬は?と聞くと精神病でも無いのに 何故 精神科の薬を飲まなければいけないんだ!ほっといてくれ! バカ 死ね!クズ!と私を罵倒するようになりました。 やっと順調にと安堵しかけていたところに、また受診拒否です。
その間私も、言い訳かもしれませんが、リストラ・再就職で慣れない夜勤などで、もう家内に時間を割いて付き添ったり受診を諭すような気持ちの余裕が無くなってきたのも事実です。 そのような期間を含め発症から11年近くです。
家内の心の中に居る妄想と会話し・・私にも子供達にも感情を表すことなく、自室にこもり独り言を言い毎日を過ごしている妻。妻には妻の世界が出来てしまっている。そんな中私が強制的に病院など連れて行き・・投薬させ現実世界に引き戻すのはかえって可哀想なのでは?と 考えるようになりました。薬を飲み病識がもし出た時、家内自身自分が精神疾患者だと受け入れた時の方が今より苦しむのではないのかと考えたりします。
家内は裕福な家庭で育ち、どちらかと言えば気位の高い女性でしたし世間も羨むような美貌の女性でした。そんな彼女が今の自分を受け入れられるのか、色んな医学書を読んでみますと50代後半もなると病気も固定化され、それ以上悪化することは無いのというような文を読んだことがあります。
正直今の私には彼女はもう家内ではなく痴呆になった母親を介護するような気持ちで接し 無理強いして病院受診は諦めようかと思ってしまいます。
このような私の考えは間違いなのでしょうか? またこのような家内の場合デポ剤というのがありますね?有効ではないのでしょうか?
やはりどのような手を使ってでも 家内を受診させるのが優先なのでしょうか? 長い文面になりましたが なにか助言頂ければ幸いです。
林:
最初の受診から7年後に再度ケースワーカーさんなどの手を借り行政介入で受診させる事が出来ました。医師からは、奥様は統合失調症ですと告げられました。以前の大学病院の説明もしますと、その頃から発症していたのでしょうとの医師の判断でした。
おそらくそうだと思います。この【1140】は、36歳で発症した統合失調症だと思います。
最初のうちは 家内に同行し受診に付き添いました。そして服薬のかいもあり被害妄想的な事も言わなくなり 受診に同行するを止め家内一人で行かせるようになりました。半年たった頃でしょうか また 前回のような妄想めいた事を言うようになり その時知りました・・・・家内は薬を飲むとダルくなると断薬して 受診を止めてしまっていたことを・・・・!
いったん治療を開始したものの、服薬中断による再発。統合失調症では非常によくあることです。統合失調症 患者・家族を支えた実例集のp.122のcase 17もご参照ください。
再度受診を進めるも 聞き入れてくれず・・・
薬を再開さえすれば改善することは確実なのですが、薬を再開するということ自体がなかなか出来ない。これも上記のcase 17と同じ問題です。
家内の身内が それは妄想などは悪霊だと、わけのわからぬ霊媒師などでお祓いしたようでした。
このように、医療以外の手段に頼ろうとするのは、統合失調症では最悪の対応で、
それからです 急激に幻聴や妄想が酷くなり、家の壁に盗聴器があるとドンドンと叩く 頭の中で聞こえる声と喧嘩腰のように会話するようになって行きました。
病院に行こうと進めても 私を病人扱いする! お前は悪魔だと・・
このようにさらに悪化し収拾がつかなくなることは多いものです。
そして、統合失調症が悪化すると、このケースのように、本人に病気であると指摘する人に対し攻撃的になるのはよくあることで、【1141】などにも見られます。
妻には妻の世界が出来てしまっている。そんな中私が強制的に病院など連れて行き・・投薬させ現実世界に引き戻すのはかえって可哀想なのでは?と考えるようになりました。薬を飲み病識がもし出た時、家内自身自分が精神疾患者だと受け入れた時の方が今より苦しむのではないのかと考えたりします。
これは非常に意味深長なご意見です。
どんな病気でも、軽い時期には必ずしも治療の必要はありません。けれども、統合失調症は、放置するとどんどん悪化していくことが推測されますので、軽い時期であっても治療開始する必要があります。
しかしこの【1140】は、軽い時期とはいえません。そういう時期に、ご家族が治療という選択肢を捨て、
正直今の私には彼女はもう家内ではなく痴呆になった母親を介護するような気持ちで接し 無理強いして病院受診は諦めようかと思ってしまいます。
という方策を選ばれることについて、全否定することはできないでしょう。
けれども、この【1140】の今の状態をみると、質問者の方にいかに介護していこうという気持ちがあろうとも、(24時間介護は不可能ということもありますし)、やはり医療なしで対応するのは無理だと思います。
色んな医学書を読んでみますと50代後半もなると病気も固定化され、それ以上悪化することは無いのというような文を読んだことがあります。
「読んだことがあります」というのは、このような重大な決定をする根拠としては、あまりにいい加減な態度と言わざるを得ません。
それはともかく、「50代後半もなると病気も固定化され、それ以上悪化することは無い」というのは誤りです。誤りですが、そのようなケース、すなわち、症状が固定化されるケースもあることはありますので、ケースによっては正しいということは出来ます。しかしどのケースがどうなるという予測は現在のところ出来ませんので、この【1140】のケースが、今の状態に固定するか、あるいはさらに悪化するかは、誰にもわかりません。
またこのような家内の場合デポ剤というのがありますね?有効ではないのでしょうか?
デポ剤の効果は十分期待できます。受診した際に、医師と相談することをお勧めします。
やはりどのような手を使ってでも 家内を受診させるのが優先なのでしょうか?
そうです。結局のところ、結論は受診にたどり着きます。ほかの方法はありません。