精神科Q&A

 【1123】68歳の父が感情をコントロールできなくなりました


Q: 私は30代女性です。68歳の父のことです。数年前から、難聴、言葉の出ずらさから、受診した耳鼻科経由で、大学病院の高次脳障害科で精密検査を受けました。結果は、側頭葉付近に何らかの障害がある(脳が消えている)とのことでした。しかし、リハビリや、積極的な治療法などはないとのことで、ビタミンをしばらく処方されていました。しかし、半年経過し、症状が進み、感情コントロール(主にすぐ怒鳴ったり、殴りかかってきたり)ができず、前頭葉に働きかける薬も追加されました。

 父は、定年目前のリストラや、職場での対人関係、生活環境の変化、妻に対する対抗意識や劣等感などストレスも多かったと思います。しかし、もともと多かったアルコールを、ここ2〜3年は、昼夜関係なく飲むようになりました。医者に注意されても、聞かず、下痢が続き食欲が落ちても飲んでいます。大好き好きだった風呂にも、面倒がって、滅多に入らなくなりました。

 また、買い物依存症と思われる症状もあります。高額な健康食品、ネットでのおとりよせ(自分は少ししか食べない)、スーパーでの買い物も、消費しきれない量を買ってしまいます。冷蔵庫はイッパイです。

 自分のしたいこと、することが少しでも否定されるような時、思い通りにならない時、すぐに怒鳴っています。母とはもともと性格が合わない、とまで、大学の医師には言っていました。

 現在、父母2人暮らしなので、母のストレスも、大変なものです。どうにかしたいのですが、父とは満足に話すこともできません。大学の医師からは、とにかく父が心穏やかに過ごせるように、注意してあげてください、決してリハビリなんて言わないように、と言われています。アルコールについても注意はしますが、父にはまったく効いていません。このままでよいのでしょうか。こんな脳障害を持った父から、アルコール依存や買い物依存を治すことは期待できないのでしょうか。


林: 高齢になってからの感情コントロールの障害に加えて、側頭葉の萎縮。おそらく診断名は前頭側頭型認知症に間違いないでしょう。お父様のケースは、側頭葉から萎縮が始まり、現在はそれが前頭葉に及んでいるものと思われます。易怒性、買い物や飲酒の抑制がきかないこと、自己中心的性格への変化。いずれも前頭葉から側頭葉の萎縮による症状です。

前頭側頭型認知症には、現在のところ治療法はありません。したがって、残念ながら回復は期待できません。

大学の医師からは、とにかく父が心穏やかに過ごせるように、注意してあげてください、決してリハビリなんて言わないように、と言われています。

このように告げられ、失望されたこととお察ししますが、これは事実です。
(もっとも、前頭側頭型認知症であっても、初期の段階であれば何らかのリハビリはある程度の効果がある可能性はあります。しかし、診断された段階ですでにかなり萎縮が進んでいて、リハビリができるレベルではなかったということだと思います)

アルコールについても注意はしますが、父にはまったく効いていません。

効かないと思います。

こんな脳障害を持った父から、アルコール依存や買い物依存を治すことは期待できないのでしょうか。

残念ながら期待できません。

このままでよいのでしょうか。

「このままでよい」とはもちろん言えませんが、方策はありません。
今後、症状はどんどん進み、家庭生活は不能になることが予想されます。その時点でどうされるかを、今からご家族で相談しておくことをお勧めします。つまり、長期的に入院できる施設を考えておくということです。


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