精神科Q&A

 【1115】18歳の息子のうつ病がなかなか治らない


Q: 18歳の一人息子について、ご相談いたします。私は49歳の父親です。 
息子は、昨年、大学受験に失敗し、現在、隣県のマンションで一人で生活しています。 
 息子は、幼少の時期より集団での生活が苦手で、友達の輪の中になかなか入ってゆけませんでした。そのうち慣れれば直ってくるだろうと考えていました。 

 小、中、高と勉強は、いつもトップクラスでした。高校は、県内の進学校で、その中でもいつも5番以内の成績でした。志望大学にはかなりの確率で合格するといわれておりました。 
性格は、まじめで几帳面、やさしくて温厚です。でも、外で大きな声を出すような活発な面はありませんでした。これらのことも慣れれば、徐々に改善されるだろうと考えていました。 

 第一志望大学の受験には失敗し、後期試験では有名国立大学に合格しましたが、第一志望大学に行きたいということで、本人の希望で予備校に通っています。 
受験失敗のショックはほとんどないと思っています。 

 今年、3月末に独身用マンションに入居し、4月から予備校の授業が始まりました。4月中に電話をすると勉強はほとんどしていないということでした。 
 5月の連休後半に帰省をした際にも、一日中自宅の部屋で過ごしているのですが、勉強をしている様子はありませんでした。5月連休が終了してからは、もう、マンションへはひんぱんに来なくてよいからと言うので、勉強の邪魔になるからかなと考え、電話も週一回程度しかしておりませんでした。 

 先日、予備校の父兄懇談会があったので、ほぼ、2ヶ月ぶりに私ども両親で、息子のマンションを訪問しました。相変わらず、掃除は行き届いており、自炊もすべて自分でやっているようでした。でも、自宅での勉強はまったくしていないということでした。 

 妻が、予備校の父兄懇談会に出席している時に息子と二人で本屋にいきました。繁華街にある4階建ての大きな本屋です。息子が、「疲れたので待ち合わせのところで、待っている。」というので、私だけ専門書のところで本を探して、10分ぐらいで待ち合わせ場所に帰ると息子の姿はありませんでした。それから、40分ほど待ちました。息子の携帯電話に電話をしても留守電になっていました。 
結局、息子とはぐれたまま、私一人で妻との待ち合わせ場所に行きました。息子とはぐれてから、1時間ぐらいして息子の携帯電話につながりました。 
 妻と私の前に現れた息子は、少し泣いていました。 

 「どこにいたの?」との私の質問に、「今まで、本屋のトイレに入っていた」というのです。 
 「体でも悪いのか、腹でも痛いのか」との質問にただ泣くばかりで、「マンションに帰ってから話す」というのでとりあえず、マンションに帰りました。そこでの話は、次のようなものです。 

 本屋で、周りの視線が気になり、いたたまれなくなりトイレに入ったが、涙があふれ出て、なかなか出て来られなかった。 
 予備校でも、人と接するのが苦痛だが、一人でいると変に思われるので、無理をして人と接している。 
 同じ高校から8人予備校に通っているが、彼らと接するのが一番の苦痛である。 
 まったく知らない人と接するのはまだいいが、少し知り合いになると苦痛を感じてくる。 

 幼少の時から自分は、人と話ができなかった。今でもうまく話ができない。何を話したらいいかわからない。人から話しかけられると頭が真っ白になってどうしたらいいかわからない。 
 大学に入っても、必ず人と接しないといけないし、就職しても、必ず人とのコミュニケーションが必要だ。このままでは、結婚もできないしこんな人生には、希望が持てない。 
このようなことを考えていたら、勉強の意欲はわかないし、でも、勉強はしなくてはいけないし、どうしたらいいかわからなくなった。そこで、4月から近くの心療内科に通院をしている。わたしども両親に心療内科に通院していることの話をしようと思ったが今までできなかった。このことを知られたくないためにマンションへ来てほしくなかった。と泣きながらいうのです。 

私どもも、一人暮らしをすることで、少しは改善されていると思っていたのに、いままで、息子が一人で苦しんでいたと思うと涙が止まりませんでした。 

 私どもは、自宅でも勉強はできるので、しばらく自宅でゆっくりしてはどうかとすすめたのですが、自宅の周りには、知っている人がたくさんいるので自宅には帰りたくない。自宅に帰ると、本当に引きこもりになってしまい立ち直れないような気がする。このまま、マンションにいるのもつらいが、このままマンションにいるしかないと思う。勉強そのものは好きだが、将来を考えるととても不安で勉強をする気になれない。どうしたらよいかわからない。マンションで自炊をしているのは、外で食事をすることがとても苦痛だから。というのです。 

 心療内科の先生には、人と接することが苦手である旨は話していないということなので、時間をかけてすべてを話すように言っています。 
 今は、2週間に1回通院しており、うつ病との診断をいただいています。薬を飲んでもあまり改善は見られないようですが、しばらくは、このまま見守るしかないのかなと思っています。そして、なるべく、会いに行ってやり、息子の話を聞いてやろうと思っています。 

私どもの現在の対応としては、他にどのようなことが考えられるのでしょうか。通院している心療内科の先生にお会いしてみたいと思うのですが、私どもが会うのをとても嫌っています。また、このまま一人暮らしをさせておいてよろしいのでしょうか。 
また、他人とのコミュニケーションがうまくできないとうつ病そのものが治らないのではと心配しています。 


林: 総合的にみて、息子さんはうつ病ではなさそうです。

今は、2週間に1回通院しており、うつ病との診断をいただいています。

とのことですが、あなたは実際に先生にはお会いになっていないようですので、この「うつ病との診断をいただいています」という根拠がはっきりしません。息子さんから間接的にお聞きになったのでしょうか。それでは本当の診断名はわかりません。

通院している心療内科の先生にお会いしてみたいと思うのですが、私どもが会うのをとても嫌っています。

この文章からは、「とても嫌っている」のが誰であるかがはっきりしませんが、おそらく息子さん本人が嫌っているのだと思われます。だとすると、無理にお会いするのは差し控えるべきですが、先生にお会いにならない限り、診断名も、適切な対応もわからないままになってしまいます。

なるべく、会いに行ってやり、息子の話を聞いてやろうと思っています。

現時点ではこれが最善の対応と思われますが、その息子さんとのお話の中で、あなたが主治医の先生とお会いして話を聞けるような方向に持っていくことがまずは必要だと思います。

ところで息子さんの診断名ですが、

まったく知らない人と接するのはまだいいが、少し知り合いになると苦痛を感じてくる。

これは対人恐怖症の典型的な症状で、また、

 本屋で、周りの視線が気になり、いたたまれなくなりトイレに入ったが、涙があふれ出て、なかなか出て来られなかった。

このエピソードからは、対人恐怖症としては重症の部類に属するように読み取れます。

幼少の時期より集団での生活が苦手で、

このような点からも、対人恐怖症が疑われます。

しかしその一方で、重症の対人恐怖症は、統合失調症とかなり近縁の病気であると考えられており、事実、統合失調症に発展するケースもあります。
今後、慎重に、きめ細かく接していかれることが望まれます。そして主治医の先生のお話を聞くことはどうしても必要でしょう。


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