精神科Q&A
【1101】だましてでも抗酒薬を飲ませたい
Q:
私の父（60歳）のことなのですが、１５年ほど前から酒の量が増え始め、年々周囲の人に対する暴言がひどくなり自分の親である祖父母にも暴言を吐く始末です。
毎晩晩酌をし、毎朝のように二日酔いで、仕事は自営業ですが調子が悪ければ休んでしまいます。
気持ち悪くなって吐いてしまうこともしょっちゅうですし、車の中で熟睡して失禁してしまったなんてこともあります。
親戚や地域住人との集まりの場でも必ず酒を飲み、自分からつっかかり大声で騒いで悪口を言い始めます。挙句の果てに自力で立てなくなって、みんなに支えられながら帰るということを何度も繰り返しています。
家族親族、それ以外の近隣の人にも注意を受けみんなで話し合いをすることもしました。しかし、父は反省はしているが酒をやめる気はないと言います。
そんなことが長く続いて、母も我慢してきましたが耐え切れず、ストレスのせいで体調を崩し、現在別居状態です。それでも父は酒を止めず早く帰って来い、とだけしか言いません。
母としては離婚が一番いいのかもしれませんが、今後の父のことや年老いた祖父母のことを考えると心配ですし可哀想でなりません。
しらふの時の父は比較的穏やかで、普通に接することができるのですが、飲むと本当に人が変わってしまいます。
父から酒を止める、止めたいという意志を聞くことができれば一緒に病院に行くこともできると思うのですが、今の状態では無理だと思います。
本人に内緒で家族が抗酒剤などをもらうことはできないのでしょうか？
そして料理などに含ませ、禁酒に向かわせることはできないのでしょうか？
もしばれたとして父が激怒しても、それは覚悟の上です。
家族も治ってくれるのであればどんな協力もすると思います。
本当にみんな悩んで辛い思いをしています・・・。
林: お父様はアルコール依存症であることは確実です。そして日々破滅に向かっているのも確実です。このままですと、ご家族は崩壊し、お父様は命を落とすでしょう。その破滅まで、悲惨な日々が延々と続くでしょう。
そうならないためには、お父様がアルコールを止める以外に方法はありません。
父から酒を止める、止めたいという意志を聞くことができれば一緒に病院に行くこともできると思うのですが、今の状態では無理だと思います。
では、絶望ということになります。
本人に内緒で家族が抗酒剤などをもらうことはできないのでしょうか？
できません。
そして料理などに含ませ、禁酒に向かわせることはできないのでしょうか？
できません。そんなことをしても一時的な効果しかありません。
もしばれたとして父が激怒しても、それは覚悟の上です。
お父様が激怒され、ご家族がそれを耐える。いいでしょう。しかし、そこで話は終わりです。何の解決にもなりません。
家族も治ってくれるのであればどんな協力もすると思います。
かなり絶望的な状況ですが、ひとつだけ方法はあると思います。
それは、ご家族がお父様を見捨てることです。
ある日、ご家族全員がお父様から離れ、連絡も取れない状態にすることです。
お母様はすでに別居状態とのことですが、このメールからみますと、連絡は取れる状態のようです。その連絡も絶つことです。
お父様のご両親が同居されているのか否か、メールからははっきりしませんが、もし同居されているのなら、ある日、出ていく。
それでどこが解決になるのか、ただ見捨てただけではないか、と思われるかもしれません。
見捨てられたお父様はさらに悪い状態になるのではないか。
そうかもしれません。
しかし、そうではないかもしれません。
底つき体験という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。
アルコールのために、仕事も失い、家族も失い、すべてを失い、生きる望みも失った。これを底つき体験といいます。
そして、この底つき体験は、アルコール依存症から立ち直るきっかけになり得るものです。
そういう絶望的な状態になって、はじめてアルコールをやめる決心をした、そういうアルコール依存症の人(正確に言えば、アルコール依存症から回復した人)を、私もたくさん知っています。
底つき体験がなければ、アルコール依存症からの回復はあり得ないと考える医療者もいます。
私はそこまでは考えません。そこまでいかなくても、回復したアルコール依存症の人も、やはり私はたくさん知っているからです。
しかし、中には底つき体験があって初めて回復できるアルコール依存症の人もいらっしゃることは事実です。
この【1101】に、回復のチャンスがあるとすれば、それしかないように思えます。
もちろんリスクはあります。
ご家族に見捨てられたことで、大量飲酒に拍車がかかり、死期を早めることになるかもしれません。自殺の可能性も考えなければならないかもしれません。
しかし、先にお書きしたように、このままでは未来にあるのは破滅だけです。
いまご家族が思い切った行動に出れば、その未来を変えられるかもしれません。慢性的な破滅を選ぶか、急激な破滅のリスクがあったとしても、活路を見出すべく行動するか。そのどちらかしかありません。
回答は以上です。
あとはご家族でご相談ください。