精神科Q&A
【1080】交通事故の後、認知症のような症状が出ているが、退院を促されている
Q:
姑(71歳)が2週間前に交通事故で脳挫傷と外傷性くも膜下出血と診断されました。
(当初2週間は生命の危険がありますといわれました)
左側に出血があり前頭葉も傷ついているらしく人格が変わるかも・・・ともいわれました
現在は、言っていることのつじつまが合わない、同じことを何度も言う、などの認知症のような症状が出ています
3日前に医師よりお話があり「とりあえず危険な時期は去った、くも膜下出血のことは心配しなくてもよくなりました」と聞き安心していたのですが、昨日医師よりまた話があり「歩いてトイレにいける患者さんは脳外科では退院してもらっています」といわれました。その準備として「外泊もしましょう」とも・・・
まあ、3ヶ月病院にいたいというときは相談してください、とは言ってくださいましたが・・・
よほど経過がよいということなのでしょうか?
この程度の病状でこの時期の退院というのは十分ありうることなのでしょうか?
また「認知症のような症状は3ヶ月たっても戻らなかったら元には戻らないかも・・・」
と言われましたが、姑の年齢で元に戻ることはあるのでしょうか?
退院はまだまだ先だと考えていたので何の準備もしていなくて大変あせっています。
林: 事故で脳に外傷を負って2週間の時点での認知症のような症状。これはせん妄です。【1079】などにお書きしたとおり、せん妄は基本的には完全に回復します。けれどもこの【1080】では、脳そのものに損傷があるため、事情は異なります。損傷の程度によっては、そのまま認知症になったり人格が変わったりすることも考えられます。その可能性がどの程度かは、損傷の部位や大きさにより違ってきます。脳のMRIなどの画像をお送りいただければある程度の推測を述べることが出来ますが、
左側に出血があり前頭葉も傷ついているらしく
というだけの情報では推定することは出来ません。
しかし、言えることは、普通のせん妄よりは、認知症などの後遺症が残る可能性は非常に高いということです。
それを判断する臨床的な一応の目安は、脳の損傷を受けてから三ヶ月の時点での状態というのが一般的ですので、
「認知症のような症状は3ヶ月たっても戻らなかったら元には戻らないかも・・・」
と言われましたが、
この説明は妥当です。
姑の年齢で元に戻ることはあるのでしょうか?
元に戻ることはあります。ただし上で申し上げたように、脳の損傷の部位と大きさによっては、後遺症が残ることもあり得ます。
なお、退院を示唆されたことについては、
よほど経過がよいということなのでしょうか?
いいえ、そういうことではありません。
もっとも、非常に悪い経過でしたら退院を示唆されることはあり得ませんので、非常に悪いとはいえないですが、だからといって逆にいいということでもありません。
退院を示唆されたのは、脳外科ではこれ以上の治療の必要はないということでしょう。
となれば、他の脳外科手術が必要な患者さんのために、退院を促されるのは自然なことです。
もっとも、まだまだ完全に回復しているわけではありませんから、リハビリを含め、病院でのケアは必要な状態です。このような場合、病院によって、その病棟でリハビリまで行う場合もあれば、他の病棟に移る場合もあれば、他の病院への転院や退院となる場合もあります。本来どうあるべきかは意見の分かれるところですが、とにかくこの【1080】の方の入院している病院では、リハビリまでは行っていないということなのでしょう。ですから、
この程度の病状でこの時期の退院というのは十分ありうることなのでしょうか?
それは十分ありうることです。
退院はまだまだ先だと考えていたので何の準備もしていなくて大変あせっています。
そのお気持ちはよく理解できます。
このような状態では退院せよと言われても途方に暮れてしまうでしょう。
そのために、転院先の調整などをしてくれるのがソーシャルワーカーという職種です。一定以上の大きさの病院では、常勤のソーシャルワーカーがいるのが普通です。脳外科のある病院であれば、ソーシャルワーカーが常勤していることが期待できるはずですが、医師からそのような説明はなかったのでしょうか。もしなければご家族から質問してみるべきと思います。そしてソーシャルワーカーがいないということになると、あとはその脳外科医がどこかを紹介してくださるかどうかということになりますが、それもかなわなければ、保健所などにご相談するのが次の手段ということになります。
いずれにせよ、脳に一定以上の損傷を負ってしまったこの【1080】のようなケースでは、手術のあとのケアが非常に重要です。また、原因は交通事故とのことですが、だとすると今後の長期のケアへの補償の問題が出てきますので、医師から診断書などの書類をきちんと書いてもらうことも非常に重要です。