精神科Q&A

【1056】耳鼻科受診患者の幻聴


Q: 私はある総合病院の耳鼻咽喉科医師です。
患者さんが精神科を受診希望されないのでご質問させていただきます。
40歳の女性で2年ほど前から週に一回程度幻聴があるという主訴でした。
たとえば、鳥の鳴き声や車のエンジンの音が人の話し声に聞こえるとおっしゃいます。「企業がどうの、、」。「冷たい」「早く死んじゃえ」など、すべてネガティブな内容の言葉に聞こえるということです。聞こえるのは家の中にいて外を見て鳥の鳴き声や家の外を通る車の音を聞いているときにのみとのことです。
また、白い発光体やオレンジ色のラインが見えたりして人が外から呼びかけているような気がして外に出ると誰もいないということもあるそうです。

これらの症状は統合失調症と考えてよいのでしょうか? 


林: 統合失調症だと思います。

鳥の鳴き声や車のエンジンの音が人の話し声に聞こえる

これは機能性幻聴と呼ばれる症状で、幻聴の内容が被害妄想的なこととあわせ、統合失調症の症状と判断できます。また、

白い発光体やオレンジ色のラインが見えたりして人が外から呼びかけているような気がして外に出ると誰もいない

このようないわば曖昧な幻視も、統合失調症の症状として矛盾はありません。

そして、この方が耳鼻科を受診されているということを、幻聴ではなく耳に何か問題があると思っておられると推定すると、病識がないと判断していいでしょう。

ご質問の、

これらの症状は統合失調症と考えてよいのでしょうか?

に対する回答は以上ですが、ではどうするのが最善かという問題が残るかと思います。
 一般的な医療の常識からすれば、受診された患者さんが自分の専門外の病気であることが明らかな場合は、専門医に紹介するのが正しい手順ということになるでしょう(もちろん、その地域に専門医が存在しなければ話は別ですが)。
 けれども、病識のない統合失調症のケースでは、「精神科を受診してください」というアドバイスがそのまま通用することはむしろ稀です。
 ですから、このケースでは、質問者である耳鼻科の先生から、抗精神病薬(たとえば、リスパタール1ミリグラムなど)による治療を始めていただくことが、この患者さんのためになると思います。
 正確な統計はありませんが、精神科や心療内科以外の病院を受診している統合失調症の方は相当な数にのぼると推定できます。そしてそのうちのかなりの数の方が、「精神科を受診してください」と言われて、以後、治療を受けないままに経過していると思われます。
 専門外の病気の治療を続けるのは、医師として抵抗があるものですが、このケースでも、あなたが治療を開始し、経過によってしかるべき時期になってから、精神科の受診を促していただくことが最善であると思います。

 (上記の回答の中には、医師である質問者の方に対しては、失礼な内容もあるかと思いますが、その部分は質問者以外の読者へのものとご理解ください)


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