精神科Q&A
【1048】汚いものに対する異常な恐怖心
Q:
私は30代後半の女性です。
私は9歳頃に神経症の症状が出て以来、長いことこの症状に悩んでいます。
症状は激しくなったり、ほぼ問題なく日常生活を送れたりの波があります。
9歳の頃出た症状というのは、汚いものが異常に気になり、たとえば自分の後ろで誰かがくしゃみをしただけで自分の洋服を全部着替えないと気になって仕方がないなどのものでした。しかしこれは日常生活が困難になるほどではなく、中学生のころはほとんどそういった症状はみられませんでした。
高校生になってもはじめはほとんど症状はでませんでした。
しかし高校2年の終わりごろから再び汚いものに対する異常な恐怖心が出て、このときはほとんど普通の生活が送れないようになってしまいました。
このとき生活が困難になったのは「汚いものが広がる」という強迫観念から、たとえば友人がトイレでハンカチを落とし、それを拾ったら、もう友人の触ったところはさわれなくなる、という感じでした。
このときは自分の異常さに苦しみ、自発的に精神科を受診しました。
最初の先生は薬の服用をすすめてくれましたが、精神科を受診するというだけで罪悪感にさいなまれていたので、ましてや薬を服用となると完全に自分は正常ではないというような落ち込んだ気分になり薬はのみたくないということで、その先生の診察を続けることはしませんでした。
次の先生は女性で、診察は主にカウンセリングでしたが、何回めかの診察の時、私が話をしていると「一体あなたは何がいいたいの!」と怒り出し、「それに着てくる服も毎回同じで!」と怒り出しました。
私は特別先生が気を悪くするようなことを言った覚えもありませんでしたので、訳がわからず、診察を止めました。ちなみに私は毎回同じ服を着ていったわけではなく、当時黒い服しか着なかったので先生には同じ服と取られたのかもしれません。
その後大学に進みましたが、親元から離れひとり暮らしを始めたため症状は重くなりました。
たとえばお風呂に10時間入ったり、汚いと感じたら洋服をすべてとりかえたえり、自室の床を何時間も拭き続けたり。
しかし大学が厳しくほとんど授業が休めませんでしたので無理をしてでも学校生活を続けていくうちに卒業のころにはずいぶん症状も軽くなりました。
そして就職したら、ほぼ問題なく生活できるくらい症状も軽くなりました。
症状が軽くなった、というのは正しくないかもしれません。
自分の症状に慣れ、社会生活を送っていくためその対処法を会得した、要領を学習したというほうが正しいような気がします。
仕事は大変忙しく時間も不規則でしたが8年間勤めました。
その後色々あって転職などしましたが人間関係で躓いて無職になり、本格的に症状がひどくなり現在に至ります。今仕事をしたいと思いますがとてもまともな日常生活を送れず、本格的に悩んでいます。
症状は日々悪くなっているようです。大学生活から去年までひとり暮らしを続けて来ましたが、今年に入り経済的に立ち行かなくなり実家に戻りました。親は私の生活をみて「異常だ」といいます。
手洗いは1日5回くらいだと思いますが、水道料が倍になり非難を受けています。
ひとり暮らしをしていた去年まではお風呂は10時間くらいかかりました。現在は1時間半くらいかかります。
先生に教えていただきたいのは、こういった私の症状は病院で適切な治療をしないとますますひどくなるものなのかどうか、ということです。
先に書きましたとおり、1度精神科を受診し、そのときの医師との関係が気まずくなった経験からなかなか病院にいく勇気がありません。
また病院で治療をすれば治るものなのかどうかということも気になります。
ちなみに私は冒頭から自分の症状を「神経症」といってきましたが、それは精神科を受診したときに診断してもらったものなのか、あるいは自分が本などを読んで自分とおなじ症状が書いてあるところから自分は神経症なのだと自己判断したものか、ハッキリした記憶がないので、とりあえず「神経症」とかかせていただきました。
林: あなたは強迫性障害です。
強迫というのは「強いこだわり」と言い換えることも出来ます。ある程度のこだわりは誰でも持っているものですが、それが異常に強くなり、日常生活にも支障をきたすようになると、この病名がつくことになります。
あなたのように、子どもの頃からその傾向を持っていて、それがある時期に強まる場合もあれば、全くそんな傾向はなかったのに、一定の年齢に達したときに発症する場合もあります。
治療は薬物療法と認知行動療法です。一般には薬物療法から開始するのが普通です。抗うつ薬が強迫性障害には有効です。ですから、
最初の先生は薬の服用を勧めてくれましたが、
これは妥当な勧めであったといえるでしょう。
いまさら言っても仕方ないことですが、このとき服薬を試してみたほうがよかったと言えます。
次にかかられた先生は最悪だったといえます。
何回めかの診察の時、私が話をしていると「一体あなたは何がいいたいの!」と怒り出し、「それに着てくる服も毎回同じで!」と怒り出しました。
強迫性障害の方にこのようなことを言うとは医師としては考えられないことです。(あるいは、何かの理由であなたとの診療を中断させたかったのかもしれませんが)
それ以前の問題として、強迫性障害をカウンセリングだけで治そうというのは非常識です。残念ながらあなたはとんでもない医師にかかってしまわれたようです。
そのあと症状が強まってかなり苦労されたようですが、
そして就職したら、ほぼ問題なく生活できるくらい症状も軽くなりました。
症状が軽くなった、というのは正しくないかもしれません。
自分の症状に慣れ、社会生活を送っていくためその対処法を会得した、要領を学習したというほうが正しいような気がします。
結果的にはこれは最も望ましい回復のパターンです。「社会生活を送っていくためその対処法を会得した、要領を学習した」、このように自分の力で対処法を身につけられたというのは素晴らしいことです。実は、このような方が現にいらっしゃることから、認知行動療法が開発されたともいえます。つまり認知行動療法とは、対処法の学習にほかならないのです。あなたが会得された対処法、学習された要領の、具体的内容も教えていただけると、強迫性障害に悩んでおられる方々に大いに参考になると思います。
しかし、残念ながら現在のあなたには強迫性障害が再発してしまったようです。今の症状をもっとも早く治すためには、やはり精神科を受診されたほうがいいでしょう。もっとも、
先生に教えていただきたいのは、こういった私の症状は病院で適切な治療をしないとますますひどくなるものなのかどうか、ということです。
これは難しい問題です。強迫性障害は、治療をしなければ必ずしも悪化するとは限りません。(あなたご自身のこれまでの経過がそれを裏付けていると思います)
しかし、これまでのあなたの対処法では症状を抑えきれず、そして現在日常生活に多大な支障をきたしていることを考えますと、やはり治療を受けたほうがいいでしょう。
先に書きましたとおり、1度精神科を受診し、そのときの医師との関係が気まずくなった経験からなかなか病院にいく勇気がありません。
先に書きましたとおり、あなたが治療を受けていたのはとんでもない医師だったといえます。次はまさかあんなにひどい医師にあたることは確率的にまずないでしょう。ですから、以前の経験はお忘れになって受診することをお勧めします。
なお、「強迫性障害」が、現在は正式な病名ですが、かつてはこの病気は強迫神経症と呼ばれていました。今でもこの用語を使うこともよくあります。
ちなみに私は冒頭から自分の症状を「神経症」といってきましたが、それは精神科を受診したときに診断してもらったものなのか、あるいは自分が本などを読んで自分とおなじ症状が書いてあるところから自分は神経症なのだと自己判断したものか、
おそらくあなたは強迫神経症という病名を聞いたのだと思います。