精神科Q&A
【1041】承知で偽装結婚をしようとしている知的障害の弟
Q: 27歳の軽度知的障害の弟についての相談があります。
弟には軽度の知的障害と足の障害があります。足の障害については「障害者手帳」を
持っていますが、「療養手帳」は持っていません。
普段はアルバイトとして工場での流れ作業をしています。
見た目にはちょっと足が悪くて口下手な印象があるだけで知的障害には見えません。
弟自身も自分は普通だと思っているようです。
しかし、思春期の頃に父親とケンカの末、興奮して裸足にパジャマ姿のまま家を飛び
出し翌朝10キロ先を歩いていたところを補導されたことがあったり、300万円のダイ
ヤモンド指輪をローン契約したり。普通の感覚じゃこんなことしないと思います。
とにかく人を疑うことをせず、頼まれたらいやだと言えません。
それにこうと決めたら人の意見はまったく聞かず、誰にも止められません。
最近、その弟が結婚すると言い出しました。部屋に婚姻届が置いてあって両親が何か
と問いただしたところ、「外国人女性と結婚する」とのこと。せめて相手に会わせて
ほしいと言っても「相手が会うのをいやがっているから無理」との一点張りで、まっ
たく話し合うことすらしません。
どうやら知人に連れられて行ったキャバクラで知り合った東南アジア人のようです。
そこで両親が弟のメールを盗み見したところ、その女性から「偽装結婚の話、親に言ったらだめだよ」とのメールがありました。
これは完全に東南アジア女性の「ビザ」目的だと思われます。
弟は偽装結婚と知っていながらも相手に押されて結婚届を出す気になっているのです。27年間女性に優しくされたことがなかったのですっかり舞い上がっているようです。
相手はビザを取りたい一心で、今にも婚姻届を出してしまいそうです。
そこで、「成年後見制度」というものがあると知りました。
「成年後見制度」は婚姻届申請後も後見人が婚姻届不受理の手続が出来るそうですが、申請には「精神科の証明書」が必要だそうです。
家庭裁判所に相談したところ、「キャバクラへ行けるんだから精神科でも判定は難しいのではないか」とのことでした。
やはり精神科での鑑定は難しいのでしょうか。だとしたら、どうしたらいいのでしょうか。
林:
「キャバクラへ行けるんだから精神科でも判定は難しいのではないか」
この【1041】のケースの鑑定は、やさしいとは言いませんが、悩むほど難しいことではありません。
誰でも一見して障害があるとわかるのであれば、そもそも専門家の判定など不要ですから、
キャバクラへ行けるんだから
というように、一見しただけでは障害があるのかどうかよくわからないような人の判定をする必要があるからこそ、専門家による判定が法律で定められているともいえるでしょう。
ですから、この【1041】では、成年後見制度の鑑定そのものはさほど困難はないと思います。ただし、その結果として、婚姻を中止させることが出来る、あるいは婚姻成立後も取り消しが出来るかどうかは別です。
というのは、成年後見制度での判定にはランクがあるのです。それは
補助
保佐
後見
の三段階です。このうち、後見がいわば最も重い障害と判定するもので、補助が最も軽いものです。
この【1041】のケースはおそらく 補助 のレベルではないかと思われます。
「成年後見制度」は婚姻届申請後も後見人が婚姻届不受理の手続が出来るそうですが、
これは 後見 レベルの場合でしょう。補助の場合はそこまでは出来ないと思われますが、これは公的な機関に確認された方がいいでしょう。
したがってこの【1041】では
1. 成年後見制度のために、精神科の診断を受けることは、今後のためにも意味があると思います。
2. しかし、今回の結婚問題に、成年後見制度の判定が役に立つかどうかはわかりません。それとは別に、ご家族としての説得を試みるべきだと思います。