精神科Q&A
【1035】妄想にとらわれている母を私の家の近くに引っ越させた方がいいでしょうか
Q: 70歳の母が、妄想性人格障害と診断され、私(娘)の家の近くに引越しさせた方がいいのか迷っています。
母は隣人とは元々仲が悪く、8年前に父が亡くなる以前(私も同居していた頃)から、「家を覗かれた」「電話を盗聴されている」などと言っていたのですが、当時既に60歳を超えており、元々猜疑心の強い性格だったので、歳のせいかとあまり気にしていませんでした。
ところが、3ヶ月前に警察から私のもとへ電話があり、母が
「隣人が雇った男達が家に盗みに入った」
「私が寝ている間に睡眠薬の注射を打たれ、その間にレイプされた」などと言っていると連絡があり、さっそく総合病院の精神科に連れて行ったところ、かなり以前から妄想が出ている割には、母は健康に気を付けて食生活などにも気を遣い、隣家に対する被害妄想以外は普通の生活を送れているので、妄想性人格障害と診断されました。
今、母は嫌々ですが2週間に一度、私が幼児二人を連れて電車で1時間半のところを通い、
病院で待ち合わせて通院しています。
ですので、離れて暮らしているため、ちゃんと薬を飲んでいるのか確認できません。
現在リスパダール2錠(何mgかは不明)を処方してもらっていますが、今のところは全く効いていません。
我が家に同居は無理ですが、うちの近所にはすぐ近くに精神病院があるので、母に近所に引っ越してきてもらえば、通院に付き添ったり、薬をちゃんと飲んでいるのかも、確認しやすいと思います。(母は、引越しに乗り気ではありませんが)
ですが私が心配しているのは、もし引越しをするとしたら、治療を始めたばかりなのに、
引越しの手続きや準備などで、母に余計なストレスを与えて悪化させたりしないか、ということと、母が近所に引っ越してきて、私が始終母の家に寄るようになると、今度は母の被害妄想の相手が、私になってしまうのではないか、ということです。
もし、母が私に対して被害妄想を抱くようになると、今度は病院に連れて行くこと自体が
困難になります。
しかし、母の妄想は今のところ隣人に対してだけなので、それなら今の家から引っ越した方が、現在のストレスを減らすことが出来るのではないか、とも思い迷っているのですが、
いずれ引っ越すとしても、薬が効いて妄想が出なくなってからの方がよいのでしょうか。
林: まず診断については、妄想性障害だと思います。
妄想性人格障害と診断されました。
この診断は誤りです。
なぜなら、妄想性「人格障害」とは、性格が形成されるころから妄想傾向が認められるものに限ってつけられる診断だからです。性格が形成されるころ、というのは具体的には遅くとも20代です。
かなり以前から妄想が出ている割には、母は健康に気を付けて食生活などにも気を遣い、隣家に対する被害妄想以外は普通の生活を送れているので、
これは統合失調症を否定する根拠にはなりますが、「かなり以前」が20代頃に遡れなければ、妄想性人格障害とはいえず、妄想性障害が正しい診断になります。
(もっとも、「元々猜疑心の強い性格」の内容が問題ではあります。それが妄想レベルであれば、妄想性人格障害ということになりますが、メールからはそうではなかったと一応判断しました)
治療のためには、まず薬をきちんと飲むことが必要です。
現在リスパダール2錠(何mgかは不明)を処方してもらっていますが、今のところは全く効いていません。
とお書きになっていますが、飲んでいるか飲んでいないかわからない状態では、薬が効くも効かないもありません。まず飲まなければ話になりません。
したがいまして、
引っ越してきてもらえば、通院に付き添ったり、薬をちゃんと飲んでいるのかも、確認しやすいと思います。(母は、引越しに乗り気ではありませんが)
この意味で、引越した方が治療上望ましいといえます。
ですが私が心配しているのは、もし引越しをするとしたら、治療を始めたばかりなのに、引越しの手続きや準備などで、母に余計なストレスを与えて悪化させたりしないか、ということと、
これはもっともなようにも思えますが、薬をきちんと飲めていない現状では、治療を始めたとさえいえません。ストレスで悪化などを考えるよりも、まずは治療が始めることが先決です。そのための引越しと考えるべきでしょう。
母が近所に引っ越してきて、私が始終母の家に寄るようになると、今度は母の被害妄想の相手が、私になってしまうのではないか、ということです。
この心配はあまりないと思います。
いずれ引っ越すとしても、薬が効いて妄想が出なくなってからの方がよいのでしょうか。
繰り返しますが、薬はきちんと飲まなければ効果は期待できず、したがって妄想はいつまでも続くでしょう。