精神科Q&A
【1034】離婚をきっかけに出た私の症状はPTSDでしょうか
Q:
私は27歳のシングルマザーです。死に直面したわけでも、重傷をおったわけでもありません。なのでPTSDとは言えないのかもしれませんが、PTSDではなければ、病名があるのか、自分の思い過ごしなのか…教えていただきたいのです。
私は夫の浮気で離婚しました。
離婚の話合いの最中、数々の暴言で罵倒され、罵られ、他の女性に心が移ったのは私の責任だと散々言われました。
離婚を拒む私に、「子どもとは一緒にいたいが、お前とはやっていけない。お前さえいなければ…」と言われた事もあります。
子どもを連れて一時実家に帰っている時、夫は相手の女性を家に呼び、泊めていました。
一度はやり直そうと家にもどってからも、夫の浮気は続き、女性の車で朝帰りする事もありました。
私の携帯にも自宅の電話にも無言電話やイタズラ電話もありました。後に、相手の女性がかけていたことがわかりましたが、多い時にはわずか10分ぐらいの間に携帯電話の着信履歴が20〜30件非通知の電話で埋め尽くされる事もありました。
離婚後、子どものためにと近所に住んだ夫は、そこで相手の女性と同棲を始めました。
住んでいた場所を離れ、実家に戻ったり、別の場所に移ったりする事も何度も考えましたが、親の離婚に巻き込まれた子どもの気持ちを考えると、できる限り離婚前と同じ環境(住む場所も幼稚園も)でいてあげることが、私が子どもにしてあげられることだと思っていました。
子どもは幼稚園なので、離婚の理由を知りませんし、傷つけてしまうので言えません。
なので、このどうしようもない思いを一人で抱えて生活しています。
台所に立っても、ここで彼女も料理を作ったかもしれない。とか、夜寝る時も、この布団で二人は寝ていたんだろうに、彼女と同じ布団に子どもを寝せている…と思い、眠れなくなったり、頭ではできるだけ考えたくないと思っているのに、物事一つ一つがそれに繋がってしまい、胸が苦しくなります。
車で1〜2分の距離ですから、相手の女性の車とすれ違う時もあります。二人が一緒にいるところを見かけたこともあります。
ちょうど子どもと一緒の時に近くのガソリンスタンドで鉢合わせをした時、子どもは「パパだ!」と喜んでいましたが、助手席には女性が乗っていたので、私はそのままガソリンスタンドを立ち去りました。子どもに、「どうしてパパがいたのに、停まってくれなかったの?」と泣きながら責められました。
運転しながら自分に冷静になるように言い聞かせていましたが、手も足もガタガタ震えていました。
子どもが乗っていたので、「母親」としての自分の精一杯で、気丈に振舞いました。
自分一人の時は、彼女と同車種の車を見ただけでも気分が悪くなります。ナンバープレートを確かめ、彼女の車だった時は、動悸がして目の前が暗くなり、立っていられなくなってその場にしゃがみこんでしまいます。めまいがして息が荒くなり、手と足に力が入らなくなります。そういうときに頭をめぐるのは、上に書いた数々の出来事です。心のどこかでもう一人の自分が、「しっかりしろ!」と言い聞かせていますが、その状態をどうする事もできず、フラフラしたままどうにか家までたどり着いた途端、大声で泣き叫んでしまいます。そこまでくると、子どもの前であろうが止まりません。しばらくして少し落ち着いてくると、子どもの前で取り乱してしまった自分に自己嫌悪になります。
最近多い不倫や浮気などのドラマも見ることができません。話の一部に出てきても、それを見てまた思い出してしまって、涙が止まらなくなります。
「母親」である以上しっかりしないといけないと思い、冷静にいられるように自分で心がけているつもりですが、名前一つにしても、車の車種一つにしても、夫や彼女に背格好が似てる人を見かけるだけでも、心をぎゅっと握られるように苦しくなります。
これだけ書いても、今の私の状態がきちんと伝わらないかもしれませんが、このような状態はPTSDにふくまれるんでしょうか?
もしよろしければ、お回答いただければ幸いです。よろしくお願い致します。
林: あなたはPTSDではありません。あなたがおっしゃっている通り、PTSDの診断には、命にかかわるレベルのトラウマがあったことが条件になります。
もちろん他人から見れば命にかかわっていなくても、本人の中では命や全世界がかかわるトラウマであるということはあり得るでしょう。この【1034】もそうかもしれません。しかしたとえそうであっても、PTSDには含まれません。主観的なつらさはトラウマの判断にはもちろんきわめて重要ですが、ここは厳密に規定しておかないと、あまりに多くの状態がPTSDと診断されることになってしまいます。
けれども、あなたの症状がPTSDに似ていることは否定できません。そして実際、診断基準はともかくとして、あなたの症状はPTSDとほぼ同じメカニズムによって成立していると思われます(これをdisorders of extreme stressと呼ぶこともあります)。したがって、PTSDかどうかということは実はあまり重要ではなく、PTSDに準じた治療が必要であるということになります。ですから、治療方法や日常経験されている症状への対処法としては、PTSDについて書かれているものを参考になさっていいと思います。