精神科Q&A
【1032】父への浮気疑惑をきっかけに、妄想ばかり口にするようになった母
Q:
母（現在58歳）の症状と、家族の対応についてお聞きしたくてメールしました。
母は４年前から、父（現在62歳）が浮気していると決め付けています。きっかけは、父が一晩家に帰らなかったことらしいです（当時私は実家を出ており、姉と両親の３人暮らしで、このときの出来事は姉からききました。父は朝までお酒を飲み、ラーメンを食べていたといっていますが本当か嘘かはわかりません）。
これをきっかけに、母は一時的に物を食べず家事もせず寝ず、という状態になり、姉によると夜中に冷蔵庫の前に座り込んでビールをのんでいたりしたそうです。２〜３ヶ月で１０キロほど痩せ、げっそりしていました。
また、おかしい行動がでてきました。
「アキ(浮気相手)が靴を盗んだ」
「お父さんとアキが２人でマンションを買った」
「２人で貯金してる。」
「布団にエッチしたあとがのこってる」等と、あるはずのないことを言ったり、
「家の電話が盗聴される」と言って家の電話をダイヤル式の黒電話に変えたりしました。
「テレビのチャンネルがチラチラする、これはアキが操作してる」と言ってテレビ画面に新聞紙を張り付けていることもあります。家にこっそり入ってくるからと、家のドアに大きな音のなる鈴をつけました。
パソコンや携帯電話に対して妙に執着しており、父やアキが悪さをしている、連絡をとっている、と、家のパソコンを使えなくして、一時は父の携帯電話もとりあげました。それでも、父が新しい携帯電話を隠し持っていると言い、きりがない状態です。
一度は別居、離婚の話がでて、親戚がきて話し合いました。親戚は、父が本当に浮気をしたと思っているように対応していましたが、母が少しおかしいとも感じているようでした。ただ、先のことを考えて、離婚はしないことを勧めてくれて、結局離婚はせずに落ち着きました。
一時は精神科の受診も考えましたが、母に病識が全くないので拒否され、結局何もできないままで経過しています。物を食べられないとか家事をしない、という状態は数ヶ月でおさまり、現在はパートの仕事も続けられており、日常生活には支障のない状態です。
ただ、父が浮気をしているとの思い込みと、携帯電話やテレビへの執着は変わりません。
父に直接は何も言わず、父のいないところで、私に父の浮気の根拠を話します。
もし本当に父が浮気しているとしても（していないように思うのですが）、実際に起こっていないことを、思い込みで言うことが明らかにおかしいです。父がトイレにいった途端、私にヒソヒソ声で「今お父さん携帯電話もってトイレに入ったで、トイレで電話してるんやで」と言ったり・・・等の小さなことですが。
父は元々口が悪いのですが、母の行動に対して「キチガイ！」などと言い、いつも喧嘩しています。
母は元々、神経質なところがあり、以前から、洗濯物の細かいゴミをガムテープで１〜２時間、テレビをみながら毎日ペタペタととっていました。色々調べたところ、妄想性障害の嫉妬型に当てはまるように思い、人格が崩壊されるなどの進行はないと思っているのですが、進行がないにしても、このまま両親が歳をとっていくことを辛く思います。
このような症状を抱えた家族は、母の言動に対してどのような対応をすべきなのでしょうか？
母が言うことに対し、頭から否定せず、聞き流すようにしていますが、改善することなく、４年になります。
治ることはないのでしょうか？
林: 嫉妬妄想です。診断基準的には、ご指摘のとおり、妄想性障害の嫉妬型に当てはまると思います。古典的にはパラノイアと呼ばれるものに含まれるでしょう。
一般にはこのような場合にはあなたがお調べになったとおり、人格が崩壊されるなどの進行はありません。けれども人格そのものは崩壊しなくても、このままでは家庭生活が崩壊し、ご両親の晩年は悲惨なものになるでしょう。また、いま人格は崩壊しないと言いましたが、それは一般的にはそうであるということにすぎず、人格崩壊が起こらないとは言い切れません。
母が言うことに対し、頭から否定せず、聞き流すようにしていますが、
これは正しい対応であるといえますが、
改善することなく、４年になります。
治ることはないのでしょうか？
このままでは治ることはありません。妄想性障害は、統合失調症に比べて薬がききにくいと、これも「一般には」いわれていますが、実際にはそうでもなく、薬が有効な例が多いというデータもあります。精神科を受診すべきです。