精神科Q&A

【0114】テレビでテロ事件を見てPTSDに?


・・・もう少し解説します

ニューヨークのテロ事件(2001年9月11日)を見た後に、ショックで(ストレスで、と言っても同じことですが)何らかの症状が出るようになった人がどのくらいいるか、アメリカでの調査が2001年11月15日のNew England Journal of Medicineという有名な医学雑誌に出ています。方法は、ランダムに選んだ560人のアメリカ人を対象とした電話による聞き取りです。

その結果によると、

A テロのことを考えると、憤懣やるかたない気持ちになる

B テロについての記憶や考えや夢に、何度も悩まされる

C 集中困難

D 睡眠障害

E いらだったり怒りが爆発したりする

のような症状が、9%から30%の人に出ています。下のグラフの通りです。(Fは、AからEのどれかの症状が出た人です)

     0         10          20          30          40          50   %

A    OOOOOOOOOOOOOOOOOO

B    OOOOOOOOO

C    OOOOOOOOO

D    OOOOOO

E    OOOO 

F  OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO

 

また、そうした症状にどうやって対処したかということも調査されています。

a テロについて他の人と話す

b 宗教に頼る(祈りなど)

c 関係する活動に参加する

d テレビなどを見ないようにして、テロを思い出すことを避ける

というような対処法です。それぞれの率は下のグラフの通りです。

    0       10        20        30        40        50        60   %

a    OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO

b    OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO

c    OOOOO

d    OO

 

というように、アメリカではあのテロを見て(大部分の人はテレビで見たと思われますが)、何らかの症状が出ている人、さらにはその症状に何らかの対処をしている人がかなりいらっしゃるということが実証されています。

ただし、この論文ではPTSDという言葉はどこにも使われていません。"trauma-related symptoms of stress"という表現にとどまっています。ストレスの後に何かの症状が出ると、ついすぐにPTSDと言う人が多いようですが、PTSDという言葉はやはり厳密に診断基準を満たす場合に限るべきでしょう。そうしないとあまりにたくさんの人がPTSDということになってしまい、病名としての意味がなくなってしまいます。このNew England Journal of Medicineの論文でも、そういう立場を取っていることが、"trauma-related symptoms of stress"という表現に示されていると言えるでしょう。

なお、上記の結果はラフな抜粋ですので、詳細は

Schuster MA et al: A national survey of stress reactions after the September 11, 2001, terrorist attacks.  New England Journal of Medicine 345: 1507-1512, 2001 (Nov 15 issue) 

を参照してください。

 

【関連ページ】

● PTSD・・・どういう病気か

● PTSDの図書室・・・PTSDという言葉の使い方について、対立する立場の代表的な論文を紹介してあります  


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