精神科Q&A
【0960】入院中は「いい子ぶり」、退院すると悪化する統合失調症の義妹
Q:
私は40歳代半ばの会社員です。
義妹(家内の妹(30歳代後半))が統合失調症で義父母が対応に苦慮しており、私たち夫婦も義妹の将来や義父母の精神的健康状態に大きな不安を覚えているため、今後の対応についてご相談させていただく次第です。 【家内40歳代前半、義父母(家内の両親)は60歳代半ばです】
義妹は高校卒業後就職し、当時就業していた家内とアパート暮らしをしておりました。
今から16〜17年前のことです。当時私たちは結婚前でしたが、その頃から義妹の幻聴(隣人が私の悪口を言っているのが聞こえる)の話を聞いておりました。(最初は家内も現実だと思っていたようです)
しばらくして、症状が進行したのか、会社を辞め両親の住む実家(隣の県のアパート)に戻り現在に至ります。
実家に戻った当初はまだ、そのような病気だとは分からず、お医者さんにもかかっていなかったように記憶していますが、症状が悪化し、幻聴や妄想の頻度が高くなったことから精神科医にかかり、2度ほど入院治療をしてもらったようです。
最初の入院は本人同意の任意入院で投薬加療をしてもらい、症状の改善がみられたため退院しました。しかし、義母によると「病院ではちゃんと薬を服用するし、担当医との会話は”いい子ぶる”ので、改善したものと判断されてしまうが、家に帰ってしばらくすると薬を飲まなくなる」ということでした。
そんなことで、症状は悪化する一方で、義父母が再度の入院を勧めるも、当人は「病気ではない」と言い張り入院しようとしないため、”気晴らしのドライブ”を装い、病院へ連れて行き入院させました。
入院中は薬を服用し、”いい子”を演じて数ヶ月の加療の後退院しましたが、”騙して入院させた”ことで両親への不信感を募らせ、実家での生活は元に戻り、更に悪化の一途を辿っているようです。
現状では薬を服用せず、幻聴に耳を傾け、「自分が資産家である。米大統領の一族である」といった妄想がエスカレートし、部屋に篭り、風呂にも入らず、義母が意見すると、わめく、家具や食器を破壊するなど、暴力的になるようです。先日は包丁を振りかざしたこともあったようですし、義母も「いっそ首を締めてやろうかとも思う」こともあるようで、命に係わる一大事に発展しかねない状況です。
幸い自傷行為には至っておらず、他者への危害も今のところ実績はありませんが、暴言や暴力の矛先が義母に向いているようで、いつかどちらかが傷つきそうで心配です。
主治医の先生に相談したところ、「本人に入院の意思がなく、家族が入院させたいのなら警察に来てもらうしかない」といわれた(措置入院のことでしょうか?)らしく、義父母としては「警察を呼ぶのはあまりにも本人に可哀想で・・」と踏み切れずにいるようです。
しかし、このままでは、近隣にも迷惑をかけるし、義父母の神経もまいってしまい、近い将来必ず生活に破綻を来たすだろうと心配が募る一方です。
義父母はどこか野中の一軒家への転宅も考えているようですが、それも踏ん切りがつかずもんもんと日々を過ごしているようです。
義妹の将来をにらみ、義父母が取るべき措置とその後のケア。また、上手く入院に漕ぎ付けても、”退院すると元の木阿弥”といった状況にならないようにするためには、何が必要なのか アドバイスいただければ幸いです。
林: 統合失調症(精神分裂病)の多くは、適切な薬の服用を続ければ安定しています。そして薬の服用をやめれば悪化し元の状態になります。もちろんこれに当てはまらないケースは少なからずありますが、基本的にはそういう病気であると理解しておいて間違いありません。ですから、最初に発症した時にはまず薬の治療を開始すること、そして症状がおさまったら、薬の服用を維持すること、これが治療の基本です。もちろん「基本」ということは、薬の治療がすべてということではなく、これに加えて生活療法や精神療法的アプローチも大切ですが、いずれもきちんと薬を服用したうえで検討するべきことです。
この【0960】のケースのように、薬を飲んでいれば安定、しかし薬をやめて元の木阿弥、というのは残念ながらしばしばあることです。といっても、その多くは、安定した時期がかなり長く続き、本人も家族ももう薬なしでも大丈夫なのではないかと油断した結果、再発するという形です。【0960】のように、退院したら文字通りすぐに薬をやめてしまうというケースは、それほど多くはありません。が、稀というほど少なくはありません。このような場合は、なぜ飲むのをやめてしまうのかを検討するのが第一にすべきことで、その多くは副作用が原因ですので、薬を調整して極力副作用が出にくくするのが一般的な対応です。けれどもこの【0960】では、副作用が理由ではなく、そもそも薬を飲まない、と言ったほうが当てはまるようです。このような場合には、デポ (depot) 剤といって、月に一回の注射によってその効果が持続する薬を使うというのが、薬を飲むかわりにしばしば行われる方法です。
義妹の将来をにらみ、義父母が取るべき措置とその後のケア。また、上手く入院に漕ぎ付けても、”退院すると元の木阿弥”といった状況にならないようにするためには、何が必要なのか アドバイスいただければ幸いです。
まず今すぐすべきことは、やはり入院です。あなたがお書きになっているように、措置入院の適応と思われます。あるいは医療保護入院のレベルという解釈もできますが、いずれにせよ、入院しなければ治療は開始できないでしょう。
義父母としては「警察を呼ぶのはあまりにも本人に可哀想で・・」と踏み切れずにいるようです。
その気持ちは理解できますが、警察を呼ぶことと、このまま悪化させて本人または周囲が傷つくのと、どちらが可哀想かを現実的に考えなければなりません。警察の手を借りてでも入院させるべきだと私は考えます。
そして、入院して治療が開始させれば、これまでのように症状が良くなることは確かでしょう。問題はその後ですが、先にお書きしたように、デポ (depot) 剤の適応であるように思われますので、主治医の先生とこれを含めよくご相談されることをお勧めします。