精神科Q&A
【0959】盗聴されていると言う友人のために何ができるか
Q:
林先生のHPで、統合失調症を拝見しました。 この病気だと思われる友達のことでご相談したくメールを差し上げました。
私は現在海外で生活しております。そこで知り合った友人なのですが、昨年の4月から帰国し、働いています。
既にいくつかの職場を変わっています。仕事を変わったことについて、数回は、仕事の内容が彼女にとって専門性が低すぎたり、危険物を取り扱っているなど、まともな理由です。
仕事の内容が結構気に入っていた職場で、1ヶ月ほどたった頃から、奇妙な訴えのメールが届くようになりました。それというのも、会社の他の社員達に組織的に盗聴されていて、それをネタに噂話をされている、というものでした。具体的には、どうやら自分の持ち物のどこかに盗聴器が仕掛けられていて、自宅での親との会話、友人との電話などの内容が筒抜けで、その内容を会社のネットワークの中の彼女のフォルダーに集めている、そのフォルダーは彼女自身は見ることができないようにされている、メールもすべて読まれているらしいなどです。そのような話を聞くのは生まれて始めだったし、最近は盗聴器具なども簡単に手に入り、使用も簡単ということなので、私も最初から疑ってかからずに、彼女の訴えのメールに対して調子を合わせてしまいました。今思うとそれが悔やまれます。途中から、やはり彼女の妄想なのではないかという気がしてきて、盗聴の事実をはっきりさせるためにも専門家に相談して盗聴器を発見してもらったほうが良いとアドバイスをしました。実際、探偵の所へ行って探してもらったようなのですが、見つからなかったそうです。同居している両親からは、病院へ行くことを勧められているようですが、本人にまったく病気の意識が無いのです。
結局、彼女はその会社を辞めてしまいました。
そして今、2ヶ月ほど前から再び新しい職場で働き始め、仕事内容は気に入っているらしいのですが、先日また同様のメールが来ました。以前の会社と同じことをされているらしいというのです。
本人に病気の意識が無い以上、私から病気じゃないのかと言うことは避けたいのです。彼女に、周りがみんな自分を疑っているとは思って欲しくないのです。本人に事実を認識してもらいたい。そうしなければ治らないと思うのですが、メールを通してコンタクトがあるだけなので、思うように進みません。私は一体どうしたら良いのでしょうか？このまま私がただの聞き役に回って、そのために彼女の症状を助長させたりはしないだろうかと思うと不安です。
林: あなたのご指摘のとおり、この方は統合失調症(精神分裂病)だと思います。盗聴されているという体験を主とした被害妄想は、この病気にきわめて典型的な症状です。
私は一体どうしたら良いのでしょうか？
最も重要なことは、統合失調症は、病院で治療をしなければ良い方向に向かうことは期待できないということです。これをせずに、対応法などに頭をしぼっても、それが無意味とは言いませんが、ほとんど本人のためにプラスにはならず、何よりも一日も早く受診させなければなりません。
本人に病気の意識が無い以上、私から病気じゃないのかと言うことは避けたいのです。彼女に、周りがみんな自分を疑っているとは思って欲しくないのです。本人に事実を認識してもらいたい。
その気持ちは理解できますが、そのようにあなたが望んでいる間にもどんどん病気悪化しています。
本人に事実を認識してもらいたい。そうしなければ治らないと思うのですが、
あなたのこの考えは誤りです。統合失調症の妄想では、事実を認識できないことこそが症状の中心ですから、(1) まず本人が事実を認識 (2) 治療を始める という順番を望むのは誤りです。逆に、(1) 治療を始める (2) (治療の結果、)本人が事実を認識できるようになる というのが現実なのです。
ですから、
盗聴の事実をはっきりさせるためにも専門家に相談して盗聴器を発見してもらったほうが良いとアドバイスをしました。
これはまずいアドバイスでした。
結論としては早く病院に行く以外に方法はなく、それを実現できるのはご家族しかありません。ですから、
同居している両親からは、病院へ行くことを勧められているようですが、本人にまったく病気の意識が無いのです。
上の文章の前半、ご両親が病院に行くことを勧めているという事実があれば、治療を開始することが期待できます。
といっても、
本人にまったく病気の意識が無いのです。
これではどうしようもないとお考えになるかもしれませんが、受診を勧められても同意しないのは統合失調症ではよくあることで、実際には、ご家族がどれだけ強く受診を勧めたのか、本人の拒否の強さはどれくらいかが問題になります。というのは、ご家族も受診させる決心がつかずにためらっていることも多いのです。そうなると、本人の拒否がそれほど強くなくても、それならしょうがないか、とすぐにあきらめがちです。そのようなケースでは、病気がさらに悪化し、本当に手がつけられなくなってからご家族困り果てるという場面が出現することになります。
私は一体どうしたら良いのでしょうか？
したがって、あなたがこの方のためにすべきことは、この方のご両親が統合失調症という病気について正しい知識を持ち、その結果一日も早く受診できるよう促すことだと思います。