精神科Q&A
【0955】「脅す」という行為は躁うつ病の症状でしょうか
Q:
躁うつ病の42歳の息子のことでおたずねします。
彼は不倫をした妻を執拗に責め、逃げると携帯電話のメールで脅し続けるのです。「以前の職場へ事情を話して見つけ出す」「男の家に行って慰謝料の話をする」「どこにも行けないようにしてやる」「ただでは置かない」といった類の言葉で、例え相手に非があっても人間として恥ずかしく、こちらが消え入りたくなります。
彼は7年前うつ状態になり、以来、精神科でうつ病の治療をつづけておりました。1年前、つれあいの不倫が発覚してから、彼女を対象とする暴力が数回重なり、彼女から相談を受けたので、直ちにDVと決めつけるにはしのびなく「うつ病の症状なのかどうか」を主治医に質問しました。答えは「うつ病の症状ではない」ということで、「躁」いうことばや薬の副作用とかいうことばは全然出てきませんでした。
私どもが介入したあと肉体的暴力は無くなったといいますが、言葉によるしつこいいやみ、脅しが多くなったといいます。今年3月、つれあいが離婚希望を口にしたところ、険悪な言い争いが3日ほど続き、息子は重いうつ状態で寝付いてしまいました。公立の精神科病院で診察を受けたら最初に「躁がありますね」といわれ、リーマス、トレドミン、サイレースなどが処方されました。前の医師はトレドミン、ソラナックス、リボトリールなどで、リーマスは処方されませんでした。このときは1ヶ月休暇をとりました。妻の家出願望は続いていますが、彼は家族のために懸命に働いております。
うつ状態の時は一緒に泣きたくなるほど「妻恋病」になり、「もう嫌いだから優しくしない」と宣言されてもあきらめません。こんな辛いときに支えてくれない妻、小学1年を含む3人の子どもを置いたまま家出してしまう妻、それでも、息子の脅しの言葉は卑劣だと思います。嫉妬と怨恨と復讐の泥沼の中にいる息子を一刻も早く何とか救い出してやりたい。
でも、病気なのだったら、精神科の先生に治していただかなければなりません。林先生のご返事お願いいたします。
林: かなり難しい質問です。確かに躁うつ病の躁状態では、不条理な攻撃性が現れることがあります。この攻撃性は、いかにも瞬間湯沸かし器的な一過性のものである場合もありますが、執拗に何日間も続くこともあります。攻撃性は、身体的な暴力のことも、精神的なもの、たとえば訴えるとか、罵倒するとか、それから脅迫のような形をとることもあり得ます。この【0955】のケースの「脅す」という行為が病的な躁状態によるものであるか否か、メールの記載内容だけからは何ともいえません。必要なチェックポイントとしては、以下のような事があげられます。
(1) 本来の性格から外れた言動かどうか
躁うつ病は、躁状態とうつ状態を繰り返す病気です。そしてこの二つの状態以外の時期(寛解期といいます)には、全く正常です。ですから、この【0955】の方が奥様を脅している時期が、本来のこの方の性格とははっきり一線を画した状態になっているかどうかが、病的と判断するひとつの大きなポイントになります。この点については質問者の方からみて如何だったのでしょうか。(うつ状態の時とはっきり違う、というだけでは、病的かどうかを判断する根拠にはなりません。あくまでも寛解期との比較をしなければなりません)
ただこのケースで難しいのは、このように不倫が関係した場合には、その不倫のことだけに関して、過剰ともいえる怒りや攻撃性があっても、それはその人本来のものでないとは言い切れないことです。そこでもう一つの判断ポイントが(2)です。
(2) 他の躁症状があるかどうか
さきほど、躁状態の攻撃性は脅迫の形をとることもあると言いましたが、躁うつ病の躁状態で、脅迫だけが(脅迫に限らず、なにかひとつの特徴だけが)唯一の症状ということはまずありません。同じ時期に、これに加えて、全体的に活動性が増し、自分の能力を過信し、疲れを知らずエネルギーに溢れるといったような症状があるのが典型的な躁状態です。こうしたことがあれば、明らかに医療を必要とする躁状態ということになります。
以上のような点をご検討いただき、病気か否かの判断にお役立てください。