精神科Q&A
【0953】殺人事件に遭遇してから急に不安に襲われるようになった
Q: はじめまして。相談するほどのことなのか、誰に相談すればいいのかわからないまま今日に至ってしまいました。
5年くらい前に、家の近所である殺人事件(当時マスコミでも大きく報道された事件です)に遭遇しました。
なんていえばいいのでしょうか。どこまでお話すればいいのでしょうか。
目の前の女の人が、下半身から血を流していて、最初すごい生理で出血しているのかと思っていたんですが、私たちの方をじっと見つめていたので、よっていったら両手を差し伸べてから、私のほうに倒れてきました。
それから、救急車・警察が来るまでの間、私たちは彼女に懸命に声をかけていました。
生きていて欲しいというきもちで、懸命に声をかけていました。
後日、彼女が亡くなったことを聞きました。それ以来、手についた血のあたたかさや、体から漏れる音や、彼女の手の冷たさ、顔の表情、警察の人が無意識に見せた傷跡が、日々の生活の中でよみがえり、突然不安(なんの不安かわかりません)が襲ってきます。
主人とは、何度か話をしたことはありますが、不安が襲ってくることは言っていません。
というか、彼にもあんまり壮絶な姿を思い出させたくないというか・・・。
なんだかだいぶ略してしまいましたが、思い出すというか、改めて文章にすると、やっぱり怖い。
自然に忘れると思っていたけど・・・。
でも、普段テレビの刑事物とか見てますし、元気だし。
すみません、ただ、本当に突然襲ってくると(あの日の正確な年月日は想い出せません)、苦しくて仕方ありません。
HPでいろんな方の相談を読ませていただきました。
私のは相談する程のことでもないような気もします。でも、このまま何かを忘れる日が来るのかどうかもわからなくなり、相談させていただくことにいたしました。
何回か、病院にいこうかとおもいましたが、自分で不安になっているだけなのかなあとかも思っていたので行きませんでした。どうぞ宜しくお願いいたします。
林: あなたの経験しておられる不安は、PTSDと同じメカニズムで生じているのだと思います。
ごく簡単に言えば、トラウマの後遺症です。
PTSDの診断基準に照らしていえば、「他人の身体の保全に迫る危険を目撃した、または直面した」ことにより、あなたの脳内に何らかの変化が生じたことの結果として出ている症状です。
手についた血のあたたかさや、体から漏れる音や、彼女の手の冷たさ、顔の表情、警察の人が無意識に見せた傷跡が、日々の生活の中でよみがえり、突然不安(なんの不安かわかりません)が襲ってきます。
これは、PTSDの診断基準にある、
「外傷的出来事の一つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに曝露された場合に生じる、強い心理的苦痛」
という症状にあたります。
ただし、あなたがPTSDと診断できるかどうかはわかりません。けれども、PTSDと類似のメカニズムが脳内に生じていることは確かだと思われますので、治療をするとすれば、診断基準を満たすにせよ満たさないにせよ、PTSDに準じた治療が望まれるということになります。(【0952】のケースと同様です。)
PTSDの治療については【0952】でも解説したとおり、まだ研究段階と言えます。あなたのケースでは、日常生活にそれほど大きな支障はないようですので、不安が特に高まった時だけ抗不安薬を飲むといった対応でよいと私は思います。そして、あなたの体験されている不安症状は、時とともに頻度も強度も弱まっていくのが普通です。